第58話 ダンバス・トーナメント

「こ、こんなにたくさんの人が参加するの?」


 スタジアムのビジョンに映し出されたトーナメント表を見て、あんぐりと口を開けるリーサ。


「SSランクからDランクまで、400名以上のダンバスがエントリーしているからな」


 今日は大会4日目。

 本日から始まるのが競技大会のメインイベント、ダンジョンバスター・トーナメントである。


「ふおお!?」


「魔界中の猛者が参加した武術大会を思い出すのぉ」


 驚きに尻尾を逆立てるリーサの隣で、不敵な笑みを浮かべるミア。


「余と邪竜が対戦した決勝では、盛り上がりすぎて島が一つ跡形もなく消えての……くくっ」


 何だよその物騒な武術大会は……。

 やはりこの子は魔王なのだと実感する。


『さあ、全ての抽選が完了しましたっ!

 な、なんと……世界ランク1位のウィンストン卿と同3位のシロー夫妻が同じ山にっ!!』


 おおおおおおっ!?


 司会者の発表にどよめきが起きる。


 つまり、決勝までにウィンストン卿とシローさんが対戦する可能性があるという事だ。


「ふふっ、あのふたりとの対戦を避けられましたか。

 ラッキーですね」


 俺の隣でミアと同じように不敵な笑顔を浮かべるフェリナ。


「おいおい、優勝するつもりか?」


 世界ランク1位、3位との対戦は避けられたとはいえ、こちらの山にも世界ランカーがごろごろいる。

 ”日本ランク”85位の俺たちがすんなり勝ち上がれるとは思えなかった。


「大丈夫です! 今回のレギュレーションならチャンスはあります!!

 詳しく説明しますね?」


 愛用のタブレットに、先ほど発表された競技規定を映し出すフェリナ。


「お願い、フェリナお姉ちゃん」

「人間どもが定めた制約……どのようなモノなのじゃ?」


 リーサとミアも寄ってくる。


「まず、パーティメンバーは3名まで。うちのチームは問題ありません。

 3回戦までは4~6チームの混成バトル。上位2チームが次に進めるので、時には共同戦線を張ることも重要です」


「せんりゃくてき!!」

「ふむ……最初は甘い言葉でかどかわし、最後は後ろから刺す!のじゃな」


 ……人聞きの悪い事を言わない。


 ぽこん


 悪い笑顔を浮かべるミアにチョップを食らわせる。


「ふにゃっ!?」


 涙目になっている魔王様がちょっとカワイイ。


「ミアちゃんの言う事はともかく……勝ち抜けできそうならあえて時間稼ぎをするのも作戦の一つですね。あまりに消極的な戦いをしているとジャッジからペナルティが下されますが」


 無気力試合はNGという事だ。

 ”指導”が3度入ると失格となる。


「舞台となるのは競技用のダンジョン……内部の広さは様々だそうです。

 ……ノーツはどうやってこんなものを用意したんでしょうね?」


 適当なダンジョンを狩って”固定”したのだろうか?

 どちらにしろご苦労様な事である。


「スキルポイントの使用制限は1回戦は4000、2回戦は5000、以降上に行くに従い上昇していきます。競技用ダンジョン内では、ダンバスアプリに追加された”シミュレーションモード”をオンにすればどんな攻撃を食らっても身体的なダメージはないそうです……が」


「ほ、ホントなのかな?」

「面妖な」


 リーサとミアが、自身のダンバスアプリに追加された新機能を開いて首をかしげている。正直俺も、シローさんの全力攻撃を食らってダメージが残らないとは信じられないのだが……。


「”協会”の方でも十分にテストプレイを実施したので安心して欲しい……とのことですが、微妙に怖いですよね」


 フェリナも苦笑いを浮かべている。


「あと、相手を倒せば勝ち……ではなく、順位はスコア制で付けられます」


「スコア?」


「はい。 相手にダメージを与えたり、戦闘不能にするとその内容に応じてスコアが付与されます。しかも、対戦相手とダンバスランク差がある場合補正が掛かりますので」


「低ランクの俺達に恩恵があるという事だな」


「その通りです。

 ほかにも、広域攻撃魔法にはマイナス補正が掛かるとか、戦闘不能になるとリスポーンまで待機状態になるとか細かい点はありますが……」


「わたくしたちの緒戦は明日ですので、今夜しっかり読み込みましょう」


「了解だ」


 フェリナが分かりやすくまとめた競技規則をスマホに転送してくれる。

 今夜は勉強会だな。


「ねぇユウ! せっかく大阪まで来たんだから新世界で串カツ食べたい!!」


「新世界!? 何じゃそのヤバそうなワードは!?

 まさか異世界に繋がるゲートなのか!?」


「いや、ちゃうから」


「しょうがないな、昼飯を食いに行くか」


「ですね♪」


 相変わらずのハラペコ娘たちを連れ、俺たちはスタジアムを出るのだった。

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