第53話 開会式
『続きまして、日本選手団の入場です!』
わあああああああっ!!
入場ゲートから場内に入った途端、ものすごい歓声が俺達に浴びせかけられる。
50人ほどの日本選手団の先頭で国旗を持つのはもちろんシローさん夫妻。
その他にも日本の上位ランカーがずらりと並ぶ。
「あらためて、凄いメンツだな……」
綺羅星のように並ぶダンジョンバスターたちにめまいがしてくる。
スタンドに目をやると、たくさんの観客でぎっしりと埋まっている。
大阪市大正区にあるドーム型スタジアム。
開会式のチケットは一瞬で売り切れたらしい。
「ユウ、わたしたちも負けてないよ♪」
「秘めた魔力なら、この中でトップじゃな!」
「ダンバスランクはともかく……ポテンシャルなら随一でしょうね」
内心ビビってる俺とは違い、リーサもミアも堂々としたものだ。
「こんばんは~! リーサ、頑張るね☆」
「くくっ、余の活躍……刮目して見るがよい!」
おおおおおおっ!
リーサとミアが手を振ると、野太い歓声が返される。
「きゃ~っ、ユウ様~!!」
……どうやら俺のファンもスタンドにいるらしい。
俺は精一杯のキメ顔を浮かべると、そちらに手を振るのだった。
*** ***
『……ここに、第1回世界ダンジョンバスター競技大会の、開会を宣言します!』
どんっ!
ぱららららっ!
とても長い日本協会会長の開会宣言に続き、華やかなレーザー光線がドームの天井を彩る。
「やれやれ……こういう騒がしい場所は得意じゃないんだけど。
よろしくね、ユウ、リーサ……それにミアライーズ」
これからは場内演出が主役で、俺たち選手は自由行動だ。
日本選手団の隣に並んでいたイギリス選手団に所属するブレンダが話しかけてきたのはその時だった。
「ブレンダおねーちゃん、こないだぶり!」
「かような騒がしい場に出てくるとは、何かの心変わりかの? ルリアの巫女よ」
「……すっかりこちらの世界に馴染んでるのね?
一応あなたは監視対象なのよ? 魔王ミアライーズ」
「くくっ……余の臓腑を躍らせる美食と、綺羅星のごとき遊戯。
まったく素晴らしい世界じゃな、ここは!!」
……翻訳すると食べ歩きとゲームサイコー!である。
イギリス滞在時に現地のアッパースクール(高等学校)の卒業資格を取ったミアは、一応リーサが通う学園の中等部に在籍はしているものの、ほぼ毎日自由人な生活を満喫している。
「ぷ~、ミアちゃんだけずるいよ!」
「……リーサも中等部に上がれば飛び級申請が出来るぞ?」
「うーん、学園生活も楽しいからどうしようかな……ミアちゃんみたいにニートしたくないし」
「!? 何じゃその不穏な言霊は!?」
「……はあああぁぁ、なんかもうどうでもよくなったわ」
わちゃわちゃとじゃれ合うリーサとミアの平和な様子に、こめかみを押さえてため息をつくブレンダ。
彼女の苦労人資質は変わってないようだ。
「……ということで、魔王様はこんな感じなんだけど、どうかしら、お父様?」
ザッ
「ふむ……彼女から邪悪な覇気は感じられぬ。
お前の言う通り、静観しておいても良いだろう」
「!! あなたは!」
ブレンダの背後から現れたのは、黒のローブにユニオンジャックがあしらわれたレイを身に着けた大柄な男性。
全身は鋼のように鍛えられており、とてつもない実力を秘めている事が伺われる。
「ウィンストン卿……!」
現在世界ランク1位のダンジョンバスターでブレンダの父親、ルーク・ウィンストン卿その人である。
「ふひゃっ!? ビシッとしなきゃ!」
「ほう……!」
全身から醸し出される圧倒的なオーラに、リーサとミアも無意識のうちに背筋が伸びる。
「……そう肩ひじを張らなくともよい。
なにしろ……」
鉄仮面のような表情はピクリとも動かない。
「ごくっ……」
俺もリーサも余計に緊張してしまうが……。
「……愛しのブレンダちゃんのお友達になってくれたようだからね!
ごらんの通り愛想の悪い娘だが、根はとてもいい子なんだ!
これからも仲良くしてくれたら嬉しいぞっ!!」
「ちょっ、ダディ!?」
「「「……は?」」」
満面の笑みを浮かべたかと思うと、俺たちの手を取りぶんぶんと振るウィンストン卿。
この人ブレンダを……溺愛してやがるな!!
同じ匂いをかぎ取った俺は、心を込めて頷く。
「もちろんですとも!
ブレンダ嬢はリーサとミアの最高の友人になってくれる方。
こちらからお願いしたいくらいであります!」
「おお!」
「それにウィンストン卿もご覧になったでしょう!
天真爛漫なリーサに小悪魔なミア……ふたりに絡まれて困惑するブレンダ嬢はとてもかわいいと!」
「おおお! よく分かっているね君!!
ブレンダの研究室にこっそり設置した監視カメラから取り出した、君の娘たちとの絡みは本当に尊くて……!」
「よろしければご滞在中に、俺たちのダンジョン攻略配信にブレンダ嬢を参加させてみませんか?」
「素晴らしいアイディアだ!!」
「もおおおおおおおおっ、ダディイイイイイイイイイイ!?」
とめどなく続く親バカトークに、ブレンダの絶叫が響き渡るのだった。
*** ***
「ふぅ……ウィンストン卿と親交を深めてきましたよ」
「あいかわらず凄いな君は……」
「ルークさんてあんな人だったんだ……」
ここぞとばかりブレンダを弄りまくるリーサたちから離れ、俺はシローさんたちの元に戻って来た。シローさんたちも各国の世界ランカーに挨拶を終え、一息ついたところらしい。
「娘を愛でる父親の気持ちに、国境などありませんからね!」
「うんうん! ブレンダちゃんも尊いわ~」
「……それはそうと、おかしなことに気付いたんだ」
萌えまくるレミリアさんに苦笑を浮かべていたシローさんだが、一瞬でベテランダンジョンバスターの顔になると、周囲に視線を投げる。
「何かあったんですか?」
「うむ……まずこの会場にいる警備。
ノーツ財閥から派遣されたダンジョンバスターなのだが」
グラウンドに一定間隔で立つ警備員は目立たない服装をしており、無表情で佇んでいる。
「え!? 開会式の警備にわざわざダンジョンバスターを使うんですか?」
そもそもダンバスは警備に関しては素人だ。
イベントの警備員にわざわざダンジョンバスターを使う意味が分からない。
「それに」
シローさんがスマホに最新の出場選手リストを表示する。
「いくつかの選手団で直前に参加辞退者が発生、そこにノーツが代理出場者を送り込んだらしいのだが。ほぼダンジョンバスターとして活動記録のない、新人らしい」
「!? それはどういう?」
ダンジョンバスターを雇うにしろ育成するにしろ、多大なコストがかかる。
ノーツ財閥の目論見が読めなくて、思わず困惑してしまう。
「念のため、気を付けておいた方がよさそうですね」
フェリナも難しい表情を浮かべている。
華やかな開会式の裏で、ノーツ財閥は何を企んでいるのか。
少しだけ不安になる俺なのだった。
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