第43話 魔法と魔王
「しゅーちゅー、しゅーちゅー……」
パアアアアアアアッ
魔法の光と共に、銀色のオーブが宙に浮く。
「さあリーサ、来るがよい」
しゅるっ
制服の胸元のリボンを解き、上着のボタンを外すミア。
形の良い鎖骨と小麦色の肌があらわになる。
「ゆっくり、ゆっくり」
リーサが両手を動かし、オーブをミアの胸元に導く。
「行くよ……”フュージョン”!!」
キインッ!
オーブを包む光が強くなり、輪郭が僅かにぶれる。
ずぷっ
ミアの肌に触れたオーブは、泥濘に落とした鉄の玉のようにミアの身体の奥へ沈んでいく。
「くっ……んあっ♡
これは、たまらぬな……!」
色っぽく身をよじるミア。
ぴくぴくと動く尻尾がハートを描く。
「……はぁ、その三文芝居やめてくれないかしら、魔王様?」
「はいっ、終わったよミアちゃん」
「ふむ」
部屋に満ちていた光が消える。
「ミアちゃん、どんな感じ?
術式は完璧だけど、融合魔法を使うのは初めてなんだよね」
心配そうに小首をかしげるリーサ。
「少々ムズムズするが……問題ないであろう」
「よかった!」
にやり、と笑うミアの様子に笑顔を浮かべるリーサ。
「さすがじゃな、大魔導士」
「えへへ」
ナデナデとリーサの頭を撫でるミア。
尊い光景である。
「え、なにココ天国!?
リーサたんだけでなく超かわいい褐色ネコミミ少女まで!?
やべぇ!! 振込先はどこ!?」
「……お前は何しに来たんだっ!」
ごん!
「ふぎゅっ!」
いつも通りシローさんのゲンコツを食らい、床に沈むレミリアさん。
「もう! アドバイザーとしてSSランクの転生者、理のエミリアを呼んだっていうのに、こんな変態だったなんて!!
日本人は未来に生きすぎでしょ!」
「ああもちろん、ちょっと成長してるとはいえブレンダたんも可愛いよ!
あたしと一緒に別世界にイコうううううっ!」
ゴゴン!
「ぶへっ!?」
「は、はは……」
あまりにいつも通りなレミリアさんに苦笑する。
理のレミリアに魔のブレンダ。
大魔導士リーサに魔王ミアライーズ。
現時点で世界最高の、魔法に関する頭脳を集めたはずのブレンダの研究室は収拾不能なカオスに突入していた。
「あーもう! 話を最初に戻すわよ!
魔王ミアライーズ! 貴方の”渇き”はどうなったの!?」
びしり、とミアに指を突き付けるブレンダ。
すっかり苦労人キャラが板についている。
そう、常に大量のマナもといスキルポイントを必要とするミア。
このままだと日常生活に支障をきたすという事で、レミリアさんの提案に従いブレンダが複製した”オーブ”をミアに埋め込むことになった。
「ふむ……余の渇きじゃが、だいぶマシになった気がするな!
これなら大丈夫であろう!」
にぱっ、と笑うミアにほっと胸をなでおろす。
ブレンダの試算では、ミアが1か月に必要とするスキルポイントは500万。
俺のユニークをフル活用しても、C~Dランクダンジョンに100カ所以上潜る必要がある。
これにクルマと家のローンもあるのだ。
このままだと過労死してしまう。
そこで役に立つのがブレンダのオーブだ。
スキルポイントがにじみ出す特性を利用して、ミアに直接スキルポイントを摂取させる……その目論見は見事に成功したようだ。
「まあ、それでもある程度は経口摂取する必要があるがな」
「あ、リーサ。
そこのケーキを食べさせてくれ」
「だから食べ過ぎだって!!」
過労死は免れたが、仕事に励む必要はありそうだった。
「それにしても、あの少女が”魔王”か……にわかには信じられんな」
「むほ~、魔王自体はポピュラーな存在よん。
魔王が存在してないこの世界が珍しいくらい」
「そ、そうなのか?」
「だね、レミリアお姉ちゃん」
こともなげに言い放つレミリアさんに同意するリーサ。
「とりあえずミアはダンジョンバスターとしてフェリナのギルドに所属してもらうとして……」
魔王の特性なのか、高いダンジョンバスター適性を示したミアはEランクのダンバスとして俺たちのギルドに所属する事になった。
「何か異変があった時は相談させてもらっていいですか?
レミリアさん、ブレンダ?」
「もっちろんよ~~~!
かわいい子が増えるのは大歓迎!」
「……はぁ、我が国の魔法を統括する身として断れないか。
仕方ないわね、了解よ」
ノリノリのレミリアさんとこめかみを押さえながら同意してくれるブレンダ。
とてもありがたい。
「そういえば、フェリナお姉ちゃんは先に日本に戻ったんだよね?」
走り寄って来たリーサが俺に尋ねてくる。
心なしか、少し寂しそうだ。
「ああ、ミアの日本国籍の件もあるし、色々雑務があると言ってたな」
事務仕事の一切はフェリナが引き受けてくれている。
少し申し訳ない。
「そっか~、せっかくミアちゃんとねっしーを捕まえに行こうって言ってたのに」
「……やめときなさい」
しばらくイギリス滞在を楽しんだ後、俺たちはミアとドレイクを連れて日本に帰国するのだった。
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