第39話 オリジナルマインの主
ぽんっ!
俺の頬を舐めたドラゴンは、妙にかわいい音をさせた後、羊くらいのサイズに縮む。
がうがう♪
大きな頭に短い手足。
つぶらな瞳の可愛らしいドラゴンは、俺にすりすりと甘えてくる。
「ほ、ホントにドレイクなのか?」
ドレイクとは、俺とリーサが使役していたレッドドラゴンの名前だ。
魔王城に偵察に行った際、城の近くで足をケガして鳴いていた幼い赤竜。
珍しいモンスターの出現に驚いた俺たちは、ひとまずリーサの工房へ連れ帰る。
……実は、魔法研究の素材にしようと考えていたのだが、あまりに可愛らしいその姿にペットとして使役することにしたのだ。
魔王との最終決戦は転移魔法を使った奇襲作戦だったので、ドレイクは連れていかなかったのだが……。
「わ~♪ ドレイク君久しぶりっ!」
がうがうっ♡
歓声を上げて駆け寄ってきたリーサに、飛びついて甘えるドレイク。
「な、何でお前がこんな所に?」
リーサと同じように転生したというのだろうか?
魔法の使えないドラゴンがどうやって?
がうっ
ひたすら混乱していると、ドレイクが俺の肩に乗り、ダンジョンの奥に向かうよう促してくる。
「”下のフロアで、見せたいものがある”」
「だって」
がうがうっ
「わわっ、引っ張るなって」
最下層にあるのはオリジナルマインのコア。
忘れがちになるが、俺たちはここへ調査に来ているのだ。
ドレイクがリーサと同じ、あの世界からの転生者だとしたら。
何か関係があるのか?
俺たちはドレイクに誘導され、いよいよオリジナルマインの最深部へ足を踏み入れるのだった。
*** ***
ズズズズズ……
「うう、マナの流れがムズムズするよぉ」
下層に入ると、ダンジョンの様相が少し変化する。
七色に輝く水晶はそのままだが、水晶の周りを覆っていた光る粒子が奥へ奥へと流れていく。
「スキルポイントが……流れていく?」
どうやらあの粒子はスキルポイントの元となる物質のようだ。
大昔のダンバス研修を思い出す。
やがて、大きな広間に設置された祭壇の上に鎮座する、巨大なオーブが見えてきた。
オリジナルマインの中枢をなす”コア”。
「あれが……」
念のため、ダンバスアプリで鑑定を行う。
『……鉱山ダンジョンの中枢であるコアオーブ』
『スキルポイント産出量:毎分27,500……異常なし』
事前に聞いていた通り、コアオーブ自体に異常は無いようだ。
しかし、産出量は通常の半分程度に減っている。
「……う~ん」
ただ枯渇しかかってるだけじゃね?
とは思うが、そんな調査結果では
「ユウ、あっち!
向こうの方にマナが流れてる!」
その時、リーサがコアオーブの背後を指さす。
マップを確認する。
あの辺りはクリスタルの割れ目に従って細い通路が縦横に張り巡らされており、特に何もないはずだ。
がうがう!
「ドレイク君もこっちだと言っているよ」
「おいおい、こんなとこに何があるんだ?」
リーサに手を引かれ、コアオーブの後ろに回り込む。
ブブブブブブ……ぱきっ
コアオーブが発する駆動音に混じり、妙な音が聞こえてくる。
ヴヴヴヴヴヴ……ぴちゃ
何かを噛み砕き、咀嚼するような。
(ごくっ……)
「んんん~?
なにこれ? やっぱどこかで”感じ覚え”があるような……?」
がうっ!
ばきっ……くちゃっ……ずるっ
段々と咀嚼音が大きくなる。
……正直、かなり怖い。
とんでもない力を持つ、未知のオリジナルモンスターの可能性もある。
だが、リーサとドレイクは平気な顔をして歩みを進めている。
カッコいいパパとして、威厳を失うわけには!
「ふたりとも、何が出てくるか分からない。
俺が先頭に立つぞ」
内心の恐怖心を隠し、リーサとドレイクの前に出る。
「おお、ドレイクよ。
おかわりを持ってきてくれたかの?」
「え……」
その時、耳に届いたのはどこかで聞き覚えのある涼やかな声。
「ほう……貴様たちは」
「!!」
身長はリーサより高く、155㎝程だろうか。
スレンダーな肢体を包む漆黒のローブ。
真っ赤な頭髪から覗く黒いネコミミと同色の尻尾。
「久しぶりじゃの、勇者の子らよ」
少女がこちらを振り返る。
「余は……魔王ミアライーズじゃ」
ぐうううううっ
盛大な腹の音と共に、魔王の紅い双眸が俺の脳裏に焼き付いた。
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