第33話 俺たちのギルド、海外出張へ
「こ、これはいったい……?」
机の上に置かれた、本日発売の週刊誌に目を通した俺は、あまりの内容に唖然とする。
「はい、ネット上もご覧のありさまで……」
「はうぅ、タチの悪いまとめサイトに取り上げられてるよぉ」
フェリナもリーサも困惑顔だ。
フェリナの手配でウチに集中していた公共案件も減り、ようやく日々の仕事に余裕が出て来た9月末。
フェリナに相談したいことがある、とオフィスに呼ばれたのだ。
「おそらく、きっかけはこの記事だと思うのですが……」
ダンジョンバスター関連の話題を扱っている小さなニュースサイト。
フェリナが指さしたのは、10日ほど前の記事。
『先日突如発生したオリジナル
無名ライターの書いたささやかな煽り記事だ。
オリジナル
そのオリジナル鉱山から採れるスキルポイントが減ってきているというニュースが世界を駆け巡ったのは9月上旬。
ちょうど俺たちが退治したSSランクの災害ダンジョン、協会本部が”スキルポイントイーター”と名付けたソレの詳細が発表されたことが重なり。
よく調べもせず珍しいダンジョンを破壊したから影響が出たのでは?
普段ダンジョンバスターの事を語りもしないワイドショーが面白おかしく取り上げたことで、ネット上の陰謀論に火がつく。
ちょうどその時、俺たちのギルドが大量のスキルポイントを災害ダンジョンに”食わせて”コアを破壊したという機密情報がどこからか流出した。
「そ、その結果がこれか……」
「むぅ、何の証拠もないよ! じじつむこんだよ!」
週刊誌の記事をバシバシと叩いて憤慨するリーサ。
記事の表題には
『災害ダンジョンを破壊したという90万ポイント、時価総額1億円以上のポイントはどこから来たのか!? 都合の悪い事実を日本協会本部は隠しているのでは?』
『ウワサの真相……スキルポイントの大量消失事件はスキルポイント取引の市場操作!?』
『協会から某ギルドに対する裏金の流れも……!』
などの刺激的な文言が並んでいる。
「まったく、無茶苦茶です!」
……まあ、可憐な我がギルドマスターは52万ポイントの誤振り込みをごまかしたことはあるが、この件はそれとは関係ない。
ちゃんとスキルポイントは余さず返還したしな。
「一応、シローさんたちの記事も載っているので、こちらを一方的に糾弾する意図はないようですが」
隣のページにシローさんたちのインタビューが載っている。
あの時俺たちが動かなければ、工事に参加していたダンジョンバスターと街に大きな被害が出たかもしれない事。
すかさず反論記事を出してくれるシローさんたちには感謝感謝である。
「こんなうわさはそのうち収まると思いますが……ただ」
フェリナの歯切れが悪くなる。
「もしかして?」
こういう時は
「
現地に行って調べてこい、と」
「ふええぇ!?」
「マジかよ……」
フェリナから渡された指令書は、依頼という形をとっているが実質的には命令である。この疑いが晴れない限り、ウチのギルドの立場は保証できないとも書かれている。
居心地のいいこのギルドを追われるのは嫌だし、フェリナの事もある。
「イギリスに、出張か?」
俺にこの指令を断る、という選択肢は用意されていないのであった。
*** ***
「うきうき、海外りょこー!!」
「……いや、仕事だからな?」
自分の胸まである大きなスーツケースを引いたリーサはルンルンだ。
「魔法学院に通えるんでしょ? 実質観光だよ!」
「まったく」
今日のリーサはフリルのついたベージュのプルオーバーにブラウンのチェックスカート。耳穴を開けたニット帽に足元はピンクのスニーカー。
(いよいよリーサの可愛さが世界デビューか……!)
ちょっと背伸び、渾身の秋コーデである。
「ふふっ、リーサちゃんの可愛さにUKも震撼ね」
「えへへ~♡」
俺と同じことを考えていたらしいフェリナは黒のオーバーオールドレスに白のショートブーツ。シンプルなコーデが彼女の可憐さを引き立てる。
「フェリナお姉ちゃんもオトナっぽくてかわいい~」
「でしょう?」
「……ふたりとも、本当に仕事だからな?」
華やかな装いで周囲の目を引くふたり。
俺?
俺はいつものミリタリージャケットにジーンズである。
まあ、仕事の合間に観光する時間くらいはあるだろう。
イギリス、ロンドンと言えばロックカルチャーの本場……!
なんだかんだと楽しみな俺なのだった。
「それにしても、イギリスには魔法を研究している学園があるんだね~、知らなかったよ♪」
「ふふっ、ロンドン魔法学院ですね。
元は中世の歴史と文化を研究していた小さな私塾だったらしいのですが。
20年前から増え始めた”異世界帰り”を研究する中で……”魔法”に注目する学院として成立したみたいです」
「まあ、実際に”魔法”の再現に成功した学生はいないらしいけど……異世界出身の子がたくさん在籍してるみたいだな!」
「たのしみ!!」
リーサはそのロンドン魔法学院への短期留学、という形にしてある。
オリジナル鉱山はロンドンとオックスフォードの中間くらいにあるので、調査をするにも都合よかった。
(リーサの魔法の事も分かるかもしれないし、結果的に良い指令だったかもな)
「!! おっきい飛行機!!」
俺たちが乗る飛行機を見つけて、歓声を上げるリーサ。
F・ノーツギルド、いよいよ世界進出である。
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