超人激突! 古代遺物防衛戦!⑥




 ◇ ◇ ◇




「交戦開始。ハの一番・二番が攻撃を開始」


 古代遺物こだいいぶつ研究所より少し離れた地点に、地上艦が数隻並んでいる。その中央にいる一隻が、今回の作戦の指揮をとるムツボシの乗る司令艦だ。


 発砲音や衝突音の聞こえないブリッジ。その窓の上側には大型レーダーモニターが配置されている。そこに表示された光る赤い点がぽつぽつと順番に消えていく。


「敵機三機の撃破確認。敵艦、進行を停止」

「ハの一番はストロウ・ストロベリ、ハの二番はリンコ・リンゴか。一分足らずで敵の足を止めてくれるとはな」


 艦のブリッジで、ムツボシはパイプを吸いながらレーダースクリーンを注視する。


「イ組各機、及びロ組各機。警戒継続。……敵部隊、退いていきます」


 ムツボシはパイプの灰を落として、大きく、通りのいい声で指示を出した。


「各機へ装備解除しないように伝えろ。再度襲撃をかけてくることも、別の勢力が攻撃をしかけてくることもあり得る。こちらから指示するまで戦闘態勢を維持させよ」




 ◇ ◇ ◇




「ひゅー、狙撃手が優秀だねえ。サボれるサボれる」

「ニッケル、あんまり茶化すと今度アンタの水筒すいとうにタックの靴下ツッコむからね」


 高台の上、長距離狙撃で敵二機を仕留めたばかりのチャカヒメのコックピットで、リンコはニッケルにそう言うと、一旦スコープから目を離して息を吐いた。古代遺物研究所の周囲の高台に、リンコを含めて三人の傭兵が乗るビッグスーツが陣取っていた。「ハ組」という一つのグループに割り当てられたこの三人は、特に狙撃を得意とする傭兵ようへい達だ。


(とは言っても、ハ組は私の他にストロウとトリングの二人。二人とも凄腕のスナイパーだし、これじゃぁ私達ハ組の狙撃で全部片付いて、ニッケル達の仕事はホントにないかもね……)




「五時の方向より熱源が接近!」

「え!?」


 リンコは通信を聞いて慌ててレーダーとモニターを確認する。レーダーに確かに動く点が映っているが、モニターを見てもそれらしい物体は見えない。一方で、高台の下、研究所周囲を見張る傭兵達も、その姿を確認できずにいた。


「なんだ!? 熱源は確かに――」


 そのうちの一人が乗るビッグスーツの横で、不意に空間が陽炎のように揺らめいた。次の瞬間――




ビュオゥ!




 そこから鉤爪かぎづめを両手に装備した茶色のビッグスーツが飛び出してきた! 茶色の機体は鉤爪を振り上げ、傭兵のビッグスーツに飛び掛かる!


「光学迷彩!? しま――」




 傭兵が死を覚悟したその瞬間、彼の機体の横から黒い影が飛び出した。その影から青白い光の筋が伸び、宙を走る。




 袈裟斬けさぎり!




 黒い影の正体はカリオの乗るブンドドマルだった。カリオはビームソード「霊月れいげつ」を斜め上から振り下ろし、茶色のビッグスーツを一刀両断する! 危うく鉤爪を食らいかけた傭兵は無事にやり過ごすことが出来た。


「わ、悪い……!」

「のーぷろぶれむ。おいリンコ、何のために修行したんだ。これを見逃すなんざ集中力が足りねえ」


 カリオにたしなめられ、リンコは「ぐぬぬ」と声に出しながら歯軋はぎしりした。




 ◇ ◇ ◇




「イの五番が敵機撃墜……五、六時方向よりさらに六……いえ七つの熱源が接近」

「やれやれ、いつの間に光学迷彩はこんなに数揃えられる装備になったんだ? ロ組の三・五番を敵機のあぶり出しに当てろ。イ組で対応できない者は下がらせる」


 司令艦のブリッジで、大型レーダーモニターを細めで見ながら、ムツボシはオペレーター達に指示を出す。


「索敵部隊より入電。ポッツァリ・マフィアとノマノマ・インダストリと見られる部隊が作戦区域に接近中……いや、たった今追加で入りました。テエリク文化保護戦線の接近も確認」

「多いな。どれだけのクソどもに狙われるんだ。輸送車両はいつ動ける?」

「お待ちを……あと五分ほどで防衛対象の積み込みが終わります」


 部下の言葉を受けて、ムツボシは顎を触りながら言った。


「なるべく早く輸送車両を発進させろ。傭兵達にはお客さんを引き付けてもらう」




 ◇ ◇ ◇




 カリオ達傭兵が伝えられた任務内容、それは「発掘された記憶装置を積んだ輸送車両を、研究所から無事に脱出させる」というものだ。発掘された記憶装置をステルス輸送車両にて搬出した後、守りの硬い要塞に搬入し保管する、というのがオウウ連合の計画である。研究所はオウウ連合所有の要塞と比べて守りが甘く、記憶装置を狙う者からすれば、それがまだ研究所に存在している今がチャンスだ。




 お宝狙いの略奪者は次から次へと、宝の番人達に挑みかかる。




 ずしゃり、と一機のビッグスーツが、肩口から太腿ふとももの辺りまで縦に一直線に斬られ、崩れ落ちる。その一振りを放ったカリオは、ビームソードの刃を消し、鞘に収める。周囲には彼の他、ニッケルやリンコが撃破した複数の機体の残骸が横たわっていた。


「なんで車両一つ準備するのに時間がかかるんだ?」

「さあ、内輪でゴタゴタも結構あるんじゃね? どこの誰が発掘したモノにどれだけ触れるかとか」

「仮にそうだとしても今やることじゃなくない?」


 目視で敵が周囲にいないことを確認したカリオ達が短い雑談をする。この時点で三十機ほど襲撃してきた敵機の半数ほどを、レトリバーの三人の傭兵達が撃破していた。


「よく働くなブラックトリオ……」

「アイツらに撃墜取られた分、こっちの報酬減ったりしねえだろうな?」


 周囲の味方傭兵達はカリオ達の活躍にうなっていた。一方で、別の猛者についての会話も混じる。


「ピエンとオコジはまだ動いてねえな、サボりか?」

「やっぱ二人とも偽物なんじゃねえの?」

「でもさっきのブリーフィングでの騒ぎはマジっぽかったんだけどなぁ」


 傭兵達の会話の通り、ピエンのウィルティルとオコジのグウパンは、カリオ達から少し離れた位置で遠くを見やりながら、大きく動かずにいた。




「このままサボりつつ終われそうかね俺達は」


 オコジはコックピットで大きな欠伸あくびをかいた。


 その隣に立つウィルティルのコックピットで、ピエンは空の小さな変化に目を細めた。




「そう甘くないよオジサン。今日のVIP客のご登場みたいだね」




 ピエンの見つめる空中で、陽炎のように景色が揺らめいた。




(超人激突! 古代遺物防衛戦!⑦ へ続く)



 

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