超人激突! 古代遺物防衛戦!⑤




 ◇ ◇ ◇




「それで、もう再戦することはなかったのか?」


 イチノヘシティ近郊の古代遺物研究所こだいいぶつけんきゅうじょ。その周囲を名うての傭兵ようへい達が駆るビッグスーツが、囲むようにして待機している。カリオはニッケルとリンコに、ピエン・ピエールと戦った時の事を話していた。


「上官だったコレスの野郎が、より実績として目立ちそうな別件にられてな。コテンパンにやられたところに再度襲撃かけるのもリスキーってコトで、ナルミシティにもう一度攻撃を仕掛けることはなかった」

「ダークエルフ、たまに変な絡まれ方するよね」




 惑星マールには複数の人種が存在している。カリオ達のように、耳の先が丸く、元々地球にいた白人種・黒人種・黄色人種と似た外見の人種は「テラロイド」と呼ばれるようになった。一方、耳の先が尖っていて長く、そのうち金髪で肌の色が薄い人種は「エルフ」、銀髪で肌の色が濃い人種は「ダークエルフ」と呼ばれるようになった。エルフ、ダークエルフはテラロイドと比べて人口がかなり少ない。テラロイドからすれば彼等と接する機会は多くはなく、それ故に偏見へんけんを持ってしまう事も多々あり、大小様々なヘイトクライムの発生につながることも珍しくはない。




「嘘かまことかは今になっちゃわかんねえが、ナルミシティ含めたエルフ・ダークエルフが住まう地域に対するケーワコグ共和国の扱いがよくなかったから、彼等が反乱軍側についたって話はよく聞くな……まあさっきのナンパ騒ぎ見てたら、ピエンがそこんとこ気にしてるのかはわかんねえけど」

「オコジ・イタチと共闘したことは?」


 ニッケルに聞かれると、カリオは水筒のドリンクを一口飲んでから答えた。


「一戦だけ。共闘したっちゃしたんだが、十分と経たずに敵が撤退てったいの判断を下しちまってな。本気なんて全然見れなかった」


 カリオはそう話すと、ちらりとモニターの隅に目をやった。そこには小さく、深紫色のビッグスーツと白い機体にオレンジのアクセントカラーを施したビッグスーツが並んでいる。深紫の機体はピエンの機体、「ウィルティル」、オレンジの差し色の機体はオコジの機体、「グウパン」だ。




「いやあ、アンタと共闘できる日が来るとはね」


 ウィルティルのコックピットで地平の向こうを見やるピエンに、グウパンに乗ったオコジが声を掛けた。


「僕はうれしくないよ! 君みたいなオジサンよりカワイ子ちゃんに隣にいて欲しいよ! ってかさっきあの子に話しかけられてなかった!?」

「モンシロの事か? アイツは普通に知り合いだが、仲を取り持ってやろうか? ……あ、さっきなぐられてたし流石に厳しいか」


 ガハハと笑うオコジに対して、ピエンは不満そうに頬をふくらませる。


「はぁ、しかし後悔だなぁ」

「モンシロのナンパに失敗したことか」

「違うよ!」


 ピエンは鼻の頭をまみ、少し躊躇ためらいながら、言葉を絞り出した。


「レオ・バンデーラと戦わない選択肢だってあったんじゃないかって」

「ああ、なるほど」


 ピエンは小さくため息をついた




 レオ・バンデーラ。カリオとオコジと同じように「共和国軍の三人のエース」として数えられてい「た」、人物。その三人の内でもトップの撃墜げきつい数と作戦成功数を誇り、共和国軍最強のビッグスーツ乗りとして知られていた男だ。




 戦中、彼は、ピエンとの激闘の果てに死んだ。




「いくらお前さんがスーパーエースでも、どうにもならんことだってあるさ」


 脳波コントロールをオフにしているオコジは、頭の後ろで手を組んで、シートにもたれ掛かった。


「今の今までは後悔してなかったんだけどねえ。あの時は僕もアイツも必死の必死。コックピットで息切らしちゃっててさ」


 ピエンはその時の戦いを思い出す。




 二年半前の首都テエリクシティ。遂に反乱軍が首都外郭がいかくにまで進攻し、首都陥落に至るまでの最後の攻防の最中。ピエンが共和国軍最強の兵士と戦ったのはその時であった。


 あと一歩で戦争を終わらせられる。そこまで来てピエンは、それまでで最も近くに自身の死の気配を感じていた。目の前には白い細身のワンオフ機――レオ・バンデーラの乗機が立ち塞がっていた。首都の防壁から煙が立ち上り、辺り一帯が炎の赤で染まる中、ピエンは彼と戦い――からくも勝利した。




「まさかこうしてオジサンやカリオ君と、実際に肩並べられるなんて思ってなかったからなぁ。こういう状況に置かれると、レオとも酒ぐらい交わせたんじゃないかってね」

「そこら辺にしといた方がいいぜ。戦争の時の後悔なんて全部思い出してたら、一晩中続いて次の日がブルー、いや一週間を棒に振るな……それにほれ」




 オコジの乗ったグウパンが、遠くの断崖だんがいを指さす。その影から砂埃すなぼこりを上げて、接近する影がゆっくりと近づいてくる。


「お仕事の時間だ、切り替えねえと。早速派手に活躍してくれピエン君。オジサンは久々の仕事だから後ろでウォームアップしとくよ」

「それ、サボってたってあのムツボシっておじさんにチクるからね」




(超人激突! 古代遺物防衛戦!⑥ へ続く)

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