04:超人激突! 古代遺物防衛戦!

超人激突! 古代遺物防衛戦!①

 遠い遠い昔の話。


 かつて地球と呼ばれる星からこの星――マールへ渡ってきた人々がいた。


 故郷の星で育まれた一万年分の知恵と技術を持ち込んだ彼らは、この星に街を作り、秩序ちつじょを作り、新たな文明を築き上げていった。


 今日こんにち、〝イニスア文明〟と呼ばれるそれは千年に渡り繁栄し、その先もテエリク大陸をずっと支配し続けるものと思われた。




 だが終わりは突然に訪れる。




 赤い巨人が二十の都市を滅ぼし、百の勇者を斬り、一千万の民を殺めた。


 空を飛ぶ島が残りの都市を焼き、さらに五体の巨人が続き、かの地を支配せんとした。




 かろうじて彼らは封印されたものの、人口は数百分の一にまで減らされ、破壊された街は砂の嵐に埋もれた。




 惑星マールで最も大きな大陸を治めていた文明は、滅んだ。




 ◇ ◇ ◇




 太陽の光が入らず、空の見えない直線的なデザインの建造物に囲まれた庭。やや小柄な体つきにブラウンのショートヘアで、少年のような風貌の男性――スベンは、操作していたノート型の携帯端末を折りたたんでポケットにしまった。


「よし、少し出かけようかな」


 彼がまだ声変わりしていないような少し高い声で独り言ちるのを聞いて、大木にもたれ掛かって座っていた、赤髪で筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの男が反応した。


「ナハブやニヌギルの付き合いじゃないのは珍しいんじゃないか?」


 赤髪の男――ルガルは興味深げに少し身を乗り出すようにスベンに聞く。


「そうですね、気になるニュースがあったので確認したくて。僕らには必要な用事だと思うし、最近あまり殺してなくてストレスも溜まってきたし」

「シリアルキラーめ。だが、俺もそろそろ思いっきり体を動かしたいな。用事の中身次第では俺もついて行ってもいいか?」


 ルガルは胡坐あぐらをかいて頬杖ほおづえをつきながら、不敵な笑みを浮かべた。




 ◇ ◇ ◇




「どうだ? ヤムさん、タック」


 地上艦レトリバーⅡ。そこで暮らす傭兵ようへい、カリオ・ボーズが丸椅子に腰かけて、船医のヤム・トロロとチーフメカニックのタック・キューに聞く。その視線の先では茶筒ちゃづつ型のボディにマジックハンドの腕をつけたような見た目のロボ――ブンタ・Hホライゾン・ナイトウが、ヤムに聴診器ちょうしんきを当てられていた。


「んーむ……俺が役に立たないわけじゃないが、普段はタックの世話になりそうな感じだな」

「脳以外本当に機械だからな。死んだ人間をこんな風にして生き返らせるってのはとんでもねえ話だ」


 ヤムとタックがそう話すのを聞いて、ブンタは複雑な心境なのか、ボディに取り付けられたいくつかのランプをゆっくり点滅させる。


「わ、悪い病気にかかったりしたらヤバいでしょうか……」

「普段の生活で心配するべきは病気じゃなくて故障だな。脳が入った頭部にダメージ受けた場合は俺がた方がいい場面もあるかもしれんが」

「うぅ……完全に人間扱いじゃなくなっている……」


 診察……のようなナニカを終えて、ブンタは丸椅子から立ち上がった。


「部屋でミチぽんにいやされよう」

「あのクソ高いフィギュアの事か……」

「人間だった頃の唯一の思い出ですし、何よりミチぽんですよ!」

「いや知らねーよ!? なんなんだよミチぽんって!」


 廊下ろうかを歩いて部屋に戻るブンタの背中を見送るカリオの後ろから、ニッケル・ムデンカイが呼ぶ声が聞こえ、カリオはそちらを振り返る。


「仕事入ったぞー! なんかデカくて緊急のヤマらしい」




 ◇ ◇ ◇




 レトリバーⅡ、ブリーフィングルーム。


 先代のレトリバーでは食堂や、ブリッジのすみの方で任務内容の確認を行っていたが、新型のレトリバーⅡには、小さいながらも本格的なブリーフィングルームが設けられており、今回の任務の話はこの部屋で行う事となった。いつも通り艦長のカソック・ピストンから三人の傭兵、カリオ・ボーズ、ニッケル・ムデンカイ、リンコ・リンゴに任務の情報が伝えられる流れだ。


「ブンタの様子見に行っていたのか」

「ああ。しばらくはそっとしておいてやろうと思う。ミチぽんに任せる」

「ミチぽん?」


 ニッケルがカリオの返答に首を傾げていると、部屋の中央のテーブルの上に、立体映像が映し出される。まず出てきたのはある施設外観の映像だ。カソックの説明が始まる。


「場所はここからやや北、イチノヘシティ近郊の古代遺物いぶつ研究所。内容は先日出土したイニスア文明のモノとおぼしき記憶装置の防衛」

「記憶装置?」


 リンコがそう聞くと、テーブルの上の空間、四角い金属の箱のような物体の立体映像が追加される。今回の防衛対象となる記憶装置だ。


「そんなにヤバそうなモノには見えないけど……」

「いや、リンコ。以前似たようなモノが出土した時に、二桁を超える数の組織が絡む争奪戦になったことがある」

「そうなの!?」


 不思議そうに反応するリンコに、ニッケルが物品の重要性を説明する。


「よく考えてみろ。俺達もこれまで散々イニスアのモノには驚かされてきた。もし、この記憶装置がテクノロジーにせよ歴史にせよ、現代のテエリク人の知らない情報を保存しているとしたら、内容によっては莫大ばくだいな富を生むことも、関わった組織のパワーバランスに大きく影響することもあり得る」

「あーそっか……」

「さっき言った以前のケースだと、結局最後にはある都市連合が記憶装置を確保してな。中のデータから今まで困難だとされていた食用の植物・生き物の栽培・養殖に関する知識を手に入れて、自分達の連合や近隣の十数の街の食糧自給率を一気に上げたんだ」


 二人が話す横で、カリオも立体映像に目を向けていた。


「その時はめでたしめでたしで終わることができたわけか。けれど、もしその情報を手に入れたのが他の奴だったりしたら……」

「知識と利益の独占や、権力絡みのめんどくせえ抗争が発生した可能性は十分あるな」


 リンコが「なるほど」と相槌あいづちを打って納得すると、新たな立体映像が映し出された。今回のクライアントの情報だ。


「オウウ連合か。勢いあるんだってな、今」

「都市自治体だけでなく各種企業の誘致ゆうちも順調のようだ。逆に言えば、敵視してくる勢力も少なくはないかもしれん」


 カリオはふと、カソックに聞いた。


「ひょっとして、俺達だけでやる仕事じゃなかったりするのか? 三人の傭兵チーム一組でなんとかなる話じゃないような気がするんだが」

「ああ、その通りだ」


 カソックは顎髭あごひげを触りながら答えた。


「オウウ連合は俺たちの他にも戦力を用意すると言っている。かなりの実力者も含まれるらしい」




(超人激突! 古代遺物防衛戦!② へ続く)



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