転生したらロボットになってて無双&ハーレムが以下略⑪




 ◇ ◇ ◇




 そばに落ちてた長い鉄パイプの残骸ざんがいを拾うと、ミントンはギュッと両手でにぎりしめた。


 リンネ・リンネ社工場の建物跡、その中で見つけたこの培養液ばいようえき漬けの脳みそ。状況からして今暴れている巨大な機動兵器に関わるモノである事は容易よういに推測できた。


「……こ、これで私も人殺しか……!」

「あいやっ! ミントン! 流石にそれはマズくないですか!?」

「で、でも、この脳みそぶん殴ってアイツ倒さないと街が……」

「ぼ、僕もその小さい子……マヨさんと同じ意見でまだマズいんじゃないかと……」


 マヨとブンタに制止され、ミントンは一旦構えていたパイプを下ろす。


「確かに関係はあると思いますけど、この脳みそ何とかしたとして、向こうのデカいロボが止まる保証はまだないですし……」

「そ、それもそうだね……」


 ミントンがため息をついた時だった。




「ち、畜生ちくしょう




 脳みその入れられたカプセルの横の機械、そこに取り付けられたスピーカーから突然声が聞こえてきた。


「うわっ!? ビックリした!」

「待ってくださいです! この声さっきの悪い方のオタクさんじゃないですか!?」

「!?」


 スピーカーからは声が流れ続ける。


「な、なんで、こっちはチートなのに、アイツら全部避けて……あ、ああ! 壊された、ああ!」


 ミントンとブンタは声に耳を傾ける。マヨの指摘通り、さっき暴れていた巨大なロボから発せられていた声と同じだ。


「さ、さっきの、ミチぽん欲しがってた人!?」

「……!? お、おまえさっきの!? なんで声が聞こえて、あ、あああ! また、まただ! また壊された!」


 その返事――タクオの声を聞いたブンタはスピーカーに向かって声を張り上げた。


「や、やめてください暴れるの! その、ミチぽんならあげますから! 人が死んだら! 危ないから!」

「うるさい! そ、それどころじゃない! あ!? ああ! ああああ! 斬られ、斬られ! 斬られた! ああああ!」

「どうしたんです!? 暴れるのやめて! 落ち着いて!」


 ブンタが必死にタクオを止めようと叫び続ける。だが、スピーカーからはタクオの悲鳴が流れ続け――


 ――数秒後、それはピタリとやんだ。




 ◇ ◇ ◇




 倒れてくるハトシー・ロムレの下敷きにならないよう、カリオが後ろに下がろうとした時だった。


 ズゥン……


「!!」


 ギギギギギ……


 倒れそうになっていたハトシー・ロムレが、足を踏ん張り、体勢を立て直したのだ。カリオのコメジルシをまともに食らい、胴体に深い傷を受けてなお、ハトシー・ロムレはきしみおんひびかせながら、動いていた。


「おいおい、バラバラにしなきゃ止まんねえってか……!」


 ガァン!


 遠方から飛来する緑色のビームがハトシー・ロムレに直撃する。リンコの援護射撃だ。だがハトシー・ロムレは動きを止めず、ゆっくりと右腕を持ち上げ始める。


 カリオは剣を、上空のニッケルはライフルを握り直した。




 ◇ ◇ ◇




「――どうして」


 不意に、タクオの小さな声がスピーカーかられた。再びタクオに呼びかけようとしたブンタだが、スピーカーからは声が漏れ続ける。


「どうして俺だけこんなんばっか。他の奴らばっかりいい思いして、俺はずっと辛い目にあって。やっと、死んでから生き返らせられて、やっと強くなったのに、こんな、こんな簡単に」


 タクオが話し続ける中、マヨとミントンは声をひそめて話す。


「ひょっとしてこの脳みそさん、ちょっとかわいそうだったりします? それともさわっちゃいけない系ですか?」

「ど、どうだろう……他の人の脳みそじゃダメだったのかしら……」


 二人が少し下がって様子を見る中、スピーカーからはとうとう嗚咽おえつまで聞こえ始めてきた。


「なんで賢くて足が速くて顔がいい奴らばっかいい思いするんだ。俺みたいな奴は得しちゃダメなのかよ。不公平だろうがよ。チートぐらい貰もらってもいいじゃねえかよ。なんだよこんな目にうなんて。あんまりじゃ――」

「――変わらないと思います」


 タクオが泣きながら独り言ちるのを、ブンタがさえぎった。




 「――どんなすごいチート貰っても、変わらないと思います」




 その声からはさっきまでのたどたどしさや、自信の無さは消えていた。


「どんなに賢くなって、どんなに強くなって、どんなに綺麗きれいになっても……何かを、周りを呪っているうちは自分もまた呪われるだけなんです」

「……」


 突然、先ほど脅迫きょうはくしていた弱そうな小さいロボットが、淡々と話し始めるのを聞いて、タクオは押しだまった。そしてすぐに裏返った声で叫び始めた。


「……ふ、ふざけんなや! 何がわかるんだよ、お、お前なん」

「僕も一緒なんです。僕は学業も運動もからきしで見た目もパッとしないし。ずっと周りがうらやましかった。さげすまれたことも避けられたこともあった。貴方みたいにうらんだことも沢山ありました」


 話し続けるブンタに、タクオは言い返そうとするが、爆発しそうな感情に押し潰され、上手く声が出ない。


「それでも僕はわかるんです。馬鹿でものろまでもみにくくても……そんな僕でも敵にはならず、一緒にいてくれる人がいたから。目を逸らしていたから気づかなかっただけで、こんな僕でも気にかけてくれる人がいるって気づいたから。教えてもらったんです。何かを呪えば呪い返されるけど、笑いかけたらまた笑い返してくれるって」




 タクオはまた押し黙った。しばらくしてまた嗚咽が聞こえてくる。


 そして半ば悲鳴に近い形で、タクオはまくし立て始めた。


「なんだよ! 結局お前だって恵まれてるんじゃねえか! 何が僕も一緒だ! 全然違うわ!」

「そんなことない!」

「うるさい! えらそうに説教垂れやがって! もういいみんな死ね! みんなぶっ殺してやる! 絶対――」




 ババン!




「あ……」


 突如、タクオの脳の周囲の機械から破裂音と共に火花が飛び散った。同時にタクオの叫び声が止まる。


「う、うわ、大丈夫ですか!?」


 びくり、と大きく飛び退きながらもブンタはタクオを気遣きづかって声を掛ける。


「あ……あ……」


 だがスピーカーからはか細い、単語にもならぬ声が聞こえるだけだった。




 ◇ ◇ ◇




 バシュゥ!


 ガァン!




 リンコのスナイパーライフルから放たれたビーム、ニッケルのウェハーとライフルから放たれたビーム、合計十本のビームが、既にボロボロのハトシー・ロムレの胴体に次々と穴をあけていく。


 ブォン!


 ハトシー・ロムレがビーム斉射せいしゃを食らって怯んだところを、カリオが飛び上がってビームソードで斬り上げる。


 ダァン!


 更に先ほど同様、空中を蹴って真下に突進しながら、カリオは斬り下ろしを浴びせる。二回の神速の斬撃を受け、ハトシー・ロムレは縦に一刀両断される。




 ズズズズ……ズゥン……


 左右二つに分かれたハトシー・ロムレは、静かに地面に倒れた。三人の傭兵はまた動き出すことを警戒して、武器を構えたままその巨体をにらむ。




 だが、ハトシー・ロムレはそのまま動くことなく、遂に沈黙ちんもくした。




 ◇ ◇ ◇




「あ……あ……」


 スピーカーからは、タクオのか細い声が漏れ続ける。脳の入ったタンクの周囲の機械は、焦げ臭い煙を噴き出し始める。


「マズい、火事になる! ブンタ君そろそろ行こう!」

「で、でもこの人……!」


 タクオを気にかけて動こうとしないブンタに、ミントンが頭をいて焦り始めた時である。




 ガラガラガラ!




「おほーっ!? ロボさんヤバいです! 上の瓦礫がれきがグラグラしてます!」


 マヨが叫んだのを聞いて、ブンタは彼女の指さす方を見上げた。




 ガン!




 直後、ブンタの頭を小さな瓦礫が直撃した。


「あ」


 倒れていくブンタ。薄れゆく彼の意識。


「ブンタ君!?」

「ロボさーん!?」




(転生したらロボットになってて無双&ハーレムが以下略⑫ へ続く)





 


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