Deta:TWO 【クロッシィング・イヴニング】

TURN.06「ワンマン・アーミィ」


 ヴィヴィッド。本名を秤李々人。

 彼は学生の身だ。V.i.P.sで活動するのは放課後を終えてからの夕方から夜の間。午前と昼間は学園でしっかり勉強に励んでいる。

(……眠い)

 と言いたいところだが、彼のステータスは平凡。授業中も難易度が高まれば自然と眠くもなる。

(えっと、徳川家康が……浅井長政、ぶっ飛ばす? むにゃ……)

 彼の成績の低さの理由はコレもある。元より頭の容量も趣味以外はそう高くないのも原因である。おかげでノートの文字はミミズたちがサンバをしているレベルの雑さになる。

「秤ィイッ! 寝るなぁあッ!」

「ごっ! ごめんなさいーーーーーッ!!」

 おかげで教師にこっぴどく叱られて赤っ恥。しかも相手は最も厳しいと評判の社会の教師。李々人は地獄を見る羽目になった。


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 結果、放課後は説教と共に補習を食らう羽目になる。おかげで夕日が沈んで夜になろうとしている。随分と長い時間取り残されたものだ。

「……いや、まぁ僕が悪いんだけど」

 時折、会社も学校も行かずに一日中オンラインゲームの為に一日中部屋に引きこもっている輩が羨ましくなることがある。現実世界で上手くいかなくても、V.I.P.s内では誰でもヒーローになれる可能性があるのだから。そのチャンスをつかめる時間が誰よりも長い勢力に憧れを抱く。

「もっと勉強も頑張らないといけないのに……でも難しいんだよなぁ……」

 だが同時にも思う。そうまでなったら、それはそれで終わりなのではないかとも。

「勉強の仕方が分からないなら家庭教師を雇ってもいいって言ってくれるし、塾も通わせるって言ってるけど……うーん」

 両親からも言われている。ゲームをするのは構わないが、せめてテストでは良い成績を取れるくらいにはしっかりと勉強もしろと。あと数年も経って、留年だとか無職だとかそんな残念な結果にはならないように頑張りなさい、と。

 塾や家庭教師の件については肯定的に考えてはいる。実際、李々人は自身の学習能力だけではテストで高得点を取ることは難しい事を理解している。だが、それでV.I.P.sの時間がかなり削られる可能性もあるのではと否定的にもなる。

 難しい選択肢だった。あと一年半もすれば受験勉強のシーズンになる。

「……今日のイベント、何があったっけ」

 悩み事があって頭がモヤモヤしたら、ひとまずそれを忘れるためにゲームの世界に一度逃げ込む習性がある。

 彼も結構なゲーム脳だ。気が付けば逃げ癖がついている事も承知している。治すべきところだとも思っている。

「もっと、レべル上げて行かなきゃ……」

 だが、それ以上彼にとって。

 あのゲームで強くなることに関しては……特別な理由があった。


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 寄り道もせず、今日も自宅へ到着。

「ただいまー」

「おかえり、兄貴」

 リビングには一歳年下の弟がいる。サッカー部所属でキーパーを担当している。女子からの人気も高い将来有望な期待のルーキーだ。

「兄貴~、先に飯食うの~?」

「うん。ちょっとやりたいことあるから」

 家についてすぐ、李々人はテーブルにつく。

 中々帰れない母親が作り置きした晩御飯がラップをかけて置いてある。部活終わりでくつろいでいる彼よりも先、李々人は料理を電子レンジへと持って行く。

「もしかして、また一人ぼっちでゲーム?」

「うぐっ!!」

 ナイフのように鋭い言葉が心臓に突き刺さる。傷つけられた。

「高校生にもなって友達いないって……今、やってるゲームでも友達いないのかよ? 生涯ワンマンで生きてくつもりですかァ~?」

(うぐぐぐ……!)

 学園では成績も平凡で運動神経も微妙。

 そして何より彼にとってコンプレックスとなっているのが……小学生高学年以来ずっと友達ゼロ人という事実である。人気者の弟と違って。

 別にいじめられているわけではない。周りから仲間外れにされているわけでもないのだ。彼に友達がいない最大の要因の一つとしては。

「い、いるよ」

「嘘だねェ。その挙動不審っぷりは嘘ついてる証拠だ。分かりやすいんだよ兄貴は。それにゲームの方でも上手く喋れてないだろ。多分」

「うぐぐぐぐっっ……!」

 秤李々人。誰もが一歩引くレベルのコミュニケーション下手である。

「う、嘘じゃなかったどうするんだよ」

「いーや、嘘だね。兄貴は人と喋るとビックリするくらい緊張するし。合唱コンクールに至ってはずっと目を瞑って歌ってたじゃん。逆に目立ってたよ、アレ」

「うぐぐぐぐぅううーーー!!!」

 彼はアガリ症だ。家族以外の人物と目を合わせて喋るのは勿論、先生に指名されてから発表するのも大の苦手。小学校時代、合唱コンクールの時にはずっと目を瞑って歌っていた。それだけ苦手なのだ。人前が。

 すぐに逃げ出すを繰り返すものだから友達が出来ない。

「俺さぁ、今度友達やマネージャーとカラオケ行くんだけどさ。兄貴も来る?」

「余計なお世話ァ!! 見てろッ! 僕だってカッコいい友達も可愛い彼女の一人でも二人でも作ってやるからなッ!!」

 電子レンジから晩御飯を取り出し、半ば怒り気味にテーブルに腰掛けた。

「いや彼女は二人作ったらダメだろ。浮気じゃねーか」

(……友達か)

 弟からのツッコミはもう耳にも届いていない。

 【友達】。その単語を聞くたびに気持ちが沈んでいく。

(また、会えるかな……?)

 プライバシーゼロの弟のおかげで、今日の晩御飯は少し味がしなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ----V.i.P.s。緊急タイムイベント。

 ----『暴走地上戦艦襲来! メトロポリスを救え!』始動。

 レアアイテムが手に入るイベント。当然、ヴィヴィッドはこれに目星をつけていた。

「あっ」「あっ」

 沢山のプレイヤーが一斉に駆けつけるという事もあってか。

「……一昨日に昨日と来て、今日」

「……まさかまた会うとは」

 ヴィヴィッドは

 パトリオット・ナイトの衣装を身に纏うプラネット・セーバー……腕利きの女性剣士・Vi0と再び。

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