第204話 暴風

 戦闘にククが参加したことで、黒き竜を相手に優勢になる。


 黒き竜の意識がククに向いているからだ。おかげで攻撃を前より通しやすくなった。


 その理由は知らないが、ククとシルフィーのコンビネーションがあれば勝てる。


 そう思えるくらいには状況は好転した。


「凄いなクク。今日はずいぶんと強いじゃないか」


「くるぅっ!」


 胸を張りドヤ顔を浮かべるクク。


 俺の隣ではシルフィーが呆れていた。


「やれやれ。最初からそれくらい強かったら一緒に連れていったのに。なんで隠してたんだか」


「くるくるっ!」


「え? 隠してない? いつだって自分は強い~?」


 コイツは何を言ってるんだ、と言わんばかりにシルフィーが嘲笑する。


 こんな状況でも二人は仲良しだなぁ。


「……しかし」


 ちらりと黒き竜が吹き飛ばされた先を見る。


 さっきの一撃で倒れるとは思えない。反撃を恐れて追撃はしなかったが、妙な沈黙が逆に不気味であった。


 しばらくすると、遠くから低い声が響いた。


『やはり……やはりそうなのか、青き竜』


 その声には強い憎悪の感情が宿っている。


 メキメキと遠くからでもわかるほどの轟音を立てて黒き竜が立ち上がった。


『お前が……お前だけが特別だったと言うことか』


 じろりと赤く濁った瞳がこちらを睨む。


 正確には、睨まれているのはククだろう。


 ククも負けじと黒き竜を睨み返す。


「タフだな、アイツ。あれだけ攻撃をぶち込んでもぜんぜん元気じゃん」


 嫌になるぜ。


 一体どれほどの攻撃をぶち込めばアイツは倒れるんだ?


 翼を片方斬ったからまともに飛べないだろうが、それでも伝わってくる威圧感はハンパではない。


 まだまだ牙は健在だ。こちらを殺す気まんまんである。


「次はどうするの、ヘルメス」


 シルフィー訊ねた。


「うーん……とりあえずさっきの連携を続行ってことで。下手に複雑な作戦を立てても、即興じゃ上手くいかない。今は相手の弱点をひたすら突くことだけを考えよう」


 それに、ククが急激な成長を遂げているのは嬉しい誤算だ。


 ククがまともに黒き竜にダメージを与えられるなら、想像より役に立つ。


 ククがメインで攻撃したほうがいいまである。


「了解了解。行くわよ、クク!」


「くるぅっ!!」


 シルフィーもククもやる気は十分だった。


 黒き竜のもとへ三人で一斉に迫る。


「負けぬ! 俺はお前らなどには負けない! 前と同じようにいくと思うなよ、青き竜!!」


 黒き竜が全力で攻撃を仕掛けてくる。


 先ほどまではまだ冷静な動きだったが、そこにはもう冷静さの欠片もない。


 防御を捨てて攻撃に特化していた。


 まるで一匹の獣のように跳ね回る。


「ッ! シルフィー! 動きを止めてくれ!」


「まかせな————さい!!」


 体からかなりの量の魔力が抜ける。


 周囲に暴風が吹いた。


 間違いなくシルフィーが操る上級の風属性魔法だ。


 竜巻が起こり、周囲のすべてを粉砕していく。


『ぐうううっ!! こ、こんなもので……!』


 至近距離で竜巻が発生したにも関わらず、黒き竜は必死に地面に足をつけていた。


 飛ばされないようにその場に留まっている。


 そこへ俺とククは接近してみせた。


 当然、俺たちもシルフィーの魔法の影響を受けるが、吸い込まれる力は黒き竜を挟んで反対側にある。


 シルフィーが調整してくれたおかげで、吸い込まれる力が逆に速度を加速させ、俺たちの攻撃の威力を底上げした。


「隙だらけだ!」


 俺は剣を振る。


 鈍色の刃が深々と黒き竜の体を斬り裂いた。


 ククが爪による斬撃を浴びせ、どんどん黒き竜の肉体はダメージを蓄積していく。


 幸いにも俺たちは竜巻の影響を黒き竜に押し付けながら攻撃を続けられた。


 黒き竜も反撃してくるが、竜巻による影響で動きが遅い。


 シルフィーが風による移動の補助もしてくれるため、ほぼ一方的に攻撃が通る。


 特に黒き竜は青き竜——ククの攻撃を重点的に防御していたので、俺の攻撃は当たる当たる。


 気持ち良いくらいのダメージを稼いだところで、竜巻が消えた。


 タイミングを見計らって俺とククも黒き竜から離れる。


 大量の血を流した黒き竜は、苦しそうに呻く。


『ぐ、うぅっ……! よもや、ここまで俺が苦戦するとは……』


「終わりだな。その出血量じゃどの道助からないだろ」


 酷い傷だ。もう全身がズタボロになっている。


 俺は俺で大量の魔力を消費してすでに魔力総量が空に近い。


 ここからまた暴れられたら、さすがに勝てる可能性がゼロになる。


 やっぱり上級魔法を二回も使うとヤバいな。


 念のため、魔力回復用の薬を飲みながら竜の最後を見守った。


『ふ、ふふ……そうか。お前たちはなおも俺の前に……』


「ん?」


 なんだか竜の様子がおかしい。


 俺たちを見ているようでまったく意味のわからない言葉を呟き始めた。


 それは俺たちへの言葉なのか。もしくは、かつて戦ったという英雄への言葉なのか。


 どちらでもよかった。


 俺は剣を握り締めたままゆっくりと黒き竜に近づく。


 トドメを刺すために。




———————————

あとがき。


近況ノートにて重大発表が⁉︎

よかったら見てくださいね!

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