第203話 ククの力

 黒き竜との戦闘中、なぜか遠くからククが姿を見せる。


 ふわふわと俺の前に着地した。


「クク!? なんでこんな所に来たんだ! ここは危険だぞ!」


 予想外の状況にやや言葉が強くなる。


 しかしククは、


「くるるっ! くるぅ!」


 二回大きく鳴いてからぐいぐいっと頭で俺をド突く。


「く、クク? どうしたの?」


 もしかしてお前も一緒に戦いたいのか?


 そう思った瞬間、肩に座ったシルフィーがくすりと笑った。


「どうやらククもやる気まんまんのようね。どうするの? 無理やり帰す?」


「そりゃあそうだろ。ククに戦闘能力は……」


「くるっ!」


「あ、クク!」


 人の制止を無視してククが動く。


 翼を使って黒き竜のもとまで飛んだ。


 当然、黒き竜はククを薙ぎ払う。


『青き竜……やはり貴様は俺の邪魔をするのか! 退け!』


 尻尾による攻撃がヒット。


 ククが後方へ吹き飛ばされていく。


「クク!!」


 アイツ! 同族にも容赦なしかよ!


 剣を握り締めて地面を蹴った。


 黒き竜に肉薄する。今の俺の身体能力は、黒き竜にも迫るほどだった。


 さすがの黒き竜もすぐにはその場から離脱できない。


 俺は剣を振るい、黒き竜がそれを避ける。


『ちぃっ! 厄介な男だな!』


 なまじ図体がデカいから俺の攻撃を完璧に避けることができなかった。


 少しずつダメージを負っていく。


 するとそこへ、怪我した状態のククが飛来した。


 俺は驚いたが、そばにいたシルフィーは咄嗟にククの援護をする。


「————風よ、包め」


 俺の魔力を使って黒き竜の周りを風で包む。


 退路を断たれた黒き竜は、苛立ちながらも風を吹き飛ばす。が、その頃には目の前にククがいた。


「くるぅっ!!」


 ククが爪を振るう。


「ッ!」


 黒き竜はやや大げさに後ろへ飛んだ。


 ギリギリの回避じゃない。かなり後ろまで飛んでいった。


 まるでかのように。


「? どういうことだ?」


 ククは強くない。それこそレベル40のモンスターにまともにダメージを与えられないくらいには弱い。


 そして黒き竜もククが弱いことを知っていた。


 にも関わらず、今の回避の仕方はあまりにも必死に見える。


 正直、レベル70を超えている黒き竜がククの攻撃を正面から受けても、かすり傷ひとつ負わないだろう。


 だが、アイツは避けた。完全にビビっていた。


「ククの攻撃はアイツにとっては致命傷になりえるのか?」


「どういうこと?」


 隣に並んだシルフィーが疑問をぶつける。


 俺は今しがた考察した内容を彼女に話す。


「さっき黒き竜はククの攻撃をかなり大袈裟に避けた。ククは弱い。仮に直撃してもアイツはダメージを受けなかったはずだ。アイツだってククのことを馬鹿にしていた。どれくらいの力量かは知ってるだろ」


「そうね。言われてみれば妙な話だわ」


「だから、ひょっとしてククの攻撃はアイツにとって何かしらの意味を持っている?」


「意味?」


「詳しいことまではさすがにわからないけどね。けど、これは使えるかもしれない」


 にやりと俺は笑った。


 相手は格上。神聖属性の魔法を使ったはいいが、正直、まだ勝てる見込みは薄かった。


 しかし、そこへククというイレギュラーが混ざったことにより大きな勝機を見つける。


 まだ確証があるわけじゃないが、もう一度試してみるか?


 どうせククは逃げろと言っても逃げない。ジッと黒き竜を睨んでいることからもそれは明らかだ。


 だったら……。


「クク! しょうがないから一緒に戦おう。協力してもらうよ!」


「くるぅっ!」


「ふふ。嬉しそうにしちゃってまあ。でも、三人いれば怖くないわ。私たちは最強よ!」


「だな」


 剣を構える。


 黒き竜の憤怒の声が響いた。


『くっ! 矮小なる者たちめ……そんなに死に急ぐなら、順番に殺してやる!!』


 翼を動かして黒き竜が前方へ飛んだ。


 凄まじい速度で目の前にやってくる。


 俺は相手の攻撃を横に回避しながら攻撃を打ち込む。


 機動力の高い黒き竜はそれを容易く避けた。


 けれど、その直後に背後に回ったククが攻撃を仕掛ける。


 黒き竜の意識がそちらへ向いた。


「シルフィー」


「了解! ————風よ!」


 ほんの一瞬生まれた隙を見逃さない。


 シルフィーの起こした風圧が黒き竜を地面へと叩き落とす。


 追撃をしようとしたククへなおも意識が逸れていた。


 そこに俺も突っ込んで攻撃を与える。


 わずかに黒き竜の回避が遅れた。


 翼の一部を切り裂く。


「グアアアアアッ!?」


「これでまともに飛べないだろ、おい」


 怯んだ隙にさらに剣を振るう。


 最後にククが突進を当てると、想像以上に黒き竜は遠くへ吹き飛ばされていった。




 ……もしかしてククは、この里にいるとバフでもかかるのか?


 それか、竜玉が近くにあることが影響している?


 どちらにせよ、状況は一気に好転した。


 俺たちの勝利は近い。

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