第202話 まみえる黒と青

 戦闘は続く。


 ドラゴンは基本的に力技が多い。


 爪による攻撃も、ブレスも、尻尾の薙ぎ払いも全部軌道が読みやすかった。


 問題はその攻撃速度。


 レベルが高いだけあって避けるのに苦労した。


 ヘルメスの天才的スペックがなかったら、恐らくすでに負けている。


 そう思わせてくるほどの圧があった。


『ちょこちょこと避けるだけか! 正面から戦ってみせろ、英雄!』


「ハッ! 俺は英雄じゃないしその手には乗らないよ。シルフィー!」


「はいはい!」


 ドラゴンの攻撃をかわして横に飛んだ。


 その直後、後ろからシルフィーの風属性魔法が飛んでくる。


 ドラゴンに命中。ふんばりが利かず、そのまま地面を転がってダメージを受けた。


「————〝天権〟」


 さらに畳み掛けるように上級神聖魔法を発動。


 大量の魔力が肉体能力を極限まで高める。


 剣を握り直して地面を蹴った。


 シルフィーが作ってくれた隙を突く。


 一瞬にして加速した俺の体が、ドラゴンの眼前に辿り着いた。


 相手は腕を盾にガードする。


 ガードは間に合ったが、俺の攻撃は止まらない。


 今度こそ!


 そんな想いを込めて剣を振った。


 ——スパッ!


 今度は斬れた。


 深々と刃がドラゴンの体を抉ったわけではないが、わずかに傷ができる。


 それを見た途端、俺は凶悪な笑みを浮かべて言った。


「ははっ……どうやら、今度は俺の攻撃が効くみたいだな」


『ちぃっ!』


 たまらずドラゴンが翼を動かす。


 凄まじい衝撃が発生し、風圧を剣でガードしながら後ろに吹き飛ばされた。


 くるりと空中で一回転しながら地面に着地する。


 ドラゴンは空を飛んでいた。


「おいおいおい。形勢が不利になった途端に逃げるのかよ」


『たわけが。これが竜の戦い方よ。ここなら人であるお前はこれまい』


 そう言ってドラゴンはブレスを吐いた。


 連続してさらにブレスを吐く。


 俺はその攻撃を避けながらシルフィーに目配せをする。


 彼女なら俺が何を望んでいるのかはわかっているだろう。


 何回目かのブレスのあと、俺は勢いよく跳躍した。


 いまの俺のステータスなら空に浮かぶドラゴンのもとまで届く。


 しかし、相手もそれは想定内だったようで、カウンターとばかりに腕を振るった。


 お互いの攻撃がぶつかり合う。


 さすがに爪は斬れない。


 最初のときみたいな金属音が鳴り響き、重力の影響を受けて俺だけが地面に落下する。


 にやりとドラゴンは笑った。


 その瞬間、ふわりと俺の足元に風が吹く。


 風は俺を丸ごと風圧で上空に射出した。


 加速する。


『なにっ!?』


 ドラゴンのにやけ顔が一瞬にして解けた。驚愕に目を見開く。


 その頃にはもうドラゴンの目の前に到着した。


 呆けるアホ面に剣を叩き込む。


 狙いは首だ。正確に剣をヒットさせる。


 ドラゴンの首がわずかに斬れた。


 咄嗟にドラゴンが後ろに体を倒していなければ、もっと深いダメージを与えられていただろう。


 そのままくるりとドラゴンは回転しながら尻尾を振る。


 下から攻撃がきた。


 ギリギリガードは間に合ったが、衝撃は殺せない。


 防御を貫通して俺は吹き飛ばされた。風が俺を受け止めて空中に浮かばせる。


『魔法か……なるほど。なかなか悪くない組み合わせだな』


「死にぞこないのくせによく喋るじゃん。惜しかったな」


『ふざけるな。この程度の攻撃では俺は死なん。まだまだ余力は残っているぞ!』


 言い終えるのと同時にブレスが飛んでくる。


 シルフィーの風がブレスの軌道を横にズラした。


 ブレスが彼方へと消える。


『チッ! 厄介なものだな、妖精というのは。たかが下位の存在ごときが俺の邪魔をするとは』


「誰が下位よ誰が! そんな小さいみてくれで調子に乗るなっての!」


 ドラゴンの言動に怒り心頭なシルフィー。


 だが、俺もそれは思った。


 ツクヨの話だと黒き竜は……世界を滅ぼすほどの力を持った竜はもっと大きいはず。


 それがククと同じサイズまで縮んでいるのは、封印による影響か?


 それに、当初の俺の予想より相手は弱い。正直助かったが、疑問は残る。


「とりあえずこのまま追い込んでいこう。持久戦になったらちょっと辛いけど、無茶だけはしないように」


「はいはい、わかってるわよ。ヘルメスこそ気をつけなさいよ? あの黒トカゲ相当強いんだから」


「もちろん。でもシルフィーのことは信用してるよ」


「ッ! ば、馬鹿! 当然じゃない……パートナーなんだから」


「顔が真っ赤だね」


「うるさい!」


 照れるシルフィーをからかう。


 隙を見せてるのにドラゴンは動かなかった。


 ジッと俺たちを観察している。


「やれやれ……あれだけ強いのに慎重派とか嫌になる。シルフィー」


「了解」


 剣を構えてシルフィーに風で飛ばしてもらう。


 再び俺とドラゴンが交差した。


 剣と爪がぶつかり合う。


 その最中、ばっと視界の中にもうひとつの影が生まれた。


 それを見た途端、俺もドラゴンも動きを止める。


 特に黒き竜は、憎々しげに新たな乱入者を睨む。


 俺は思わずその名を呼んだ。




「——クク!?」


 なんでお前がここに!?

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