第201話 ばっちこい

 黒き竜との戦いが始まる。


 剣を構えた俺に対して、黒き竜は翼を動かして飛翔した。


 恐ろしい速度で目の前にやってくる。


 まずは右手による薙ぎ払い。


 それを左横に飛んでかわす。


 モンスターにしてみたら何の変哲もないよくある攻撃だ。


 ドラゴン以外でも爪を多用する種族は多い。


 しかし、ドラゴンの速度は目を見開くほどのものだった。


 少なくとも俺よりレベルは高いと思われる。


 避けられたのもギリギリだ。下手すると当たっていた。


『よく避けたな。いい目をしている』


「お褒めにあずかり光栄だね。次はこっちの攻撃を受けてみろよ」


 剣の柄を握り締めながら地面を蹴った。


 シンプルに剣を打ち込む。


 ドラゴンは避けない。


 腕を盾にして急所——頭部を守った。


 俺の剣がドラゴンの腕に当たる。


 ——キィィッン!!


 かっっったっっ!!


 全力で剣を振ったにも関わらず、かすり傷ひとつできなかった。


 分厚い岩盤でも叩いたかのような感触だ。岩盤なら斬り裂くことはできるが、ドラゴンの腕はさらに硬い。


 ここでレベル80以上だというのが推測される。


 これでもレベル70までは上げたのにね。


「硬すぎるだろ……おい」


『くくく。やはりこの程度か。お前では絶対に俺には敵わない。それが証明されたな』


 ドラゴンは喉を鳴らして反撃を繰り出した。


 またしても爪による攻撃だ。


 俺は後ろに身を引いてそれを避ける。


 わずかにドラゴンの爪が服をかすめた。


 それなりに良質な素材で作られた防具ごとドラゴンの爪は抉り取る。


 凄まじい威力だ。恐らく直撃したらそれだけで大ダメージを受ける。


『どうした、どうした。もっと積極的に攻撃してくるがいい』


「言われなくてもそうするよ。————〝神器〟」


 相手の攻撃を避けながら中級神聖魔法を発動。


 光の槍がドラゴンの体を貫く。


『ぐぅっ!? これは……忌々しい神聖属性か』


「中級魔法でも普通に受け止めるのかよ。マジで化け物だな……」


 モンスターの弱点でもある神聖属性魔法を喰らっても、ドラゴンはぴんぴんしていた。


 わずかに苦しそうな声を出していたし、まったく効いていないわけではない。


 俺は物理より魔法のほうが攻撃力が高いから、中級魔法ならドラゴンの体力を削れることが判明した。


 問題はどれだけダメージを与えたのか。


 明確な数値が出ない以上、かなり地道な戦闘になる。


「——そろそろ私も手伝っていいかしら?」


 ドラゴンから距離を離す俺の後ろで、シルフィーがやる気まんまんの声をあげる。


「そうだね。どうやら物理攻撃は効き目が弱いらしい。君の攻撃がどこまで通用するのか試してくれ」


「任せなさい! あんな黒トカゲ、さっさと蹴散らしてあげる!」


 そう宣言したシルフィーが風を起こす。


 恐らく魔力の消費量からいって中級魔法だ。


 周囲の木々を薙ぎ倒しながらドラゴンをまとめて吹き飛ばす。


 さしものドラゴンも妖精の魔法を受けて立っていられなかった。無様に地面を転がって激しい衝撃音を響かせる。


「どんなもんだい! ドラゴンなんて怖くないわよ、私がいるもの!」


 えっへん、と胸を張るシルフィー。


 そんな彼女をあざ笑うかのように、舞い上がった砂煙の中から一匹の影が姿を見せる。


 ドラゴンだ。


『そう言えば忘れていたが、お前は妖精を連れているのだな、人間。珍しい組み合わせだ。妖精自体初めて見る。よもや竜ではなく妖精とは……』


「何よ! 惨めに転がったトカゲのくせに。私を馬鹿にするの!?」


 さらにシルフィーが風を起こす。


 不可視の斬撃が黒き竜を襲った。


 ドラゴンは咄嗟に両腕でその攻撃をガードする。


 少なくとも俺が剣をぶつけるよりハッキリとダメージが与えられていた。


 俺より魔法の威力が高い。さすが妖精だ。


「やるねシルフィー。これなら勝てそうだ」


 ダメージが与えられるならいずれ勝てる。


 あとは俺が神聖属性魔法を使って攻撃するか、肉体能力を強化すれば解決だ。


 あと少しでもレベルが開いていたらまずかったな……上級魔法を習得しておいたのも大きい。


『……もう勝ったつもりでいるのか? 勝負はここから面白くなってくるところだろう?』


「ッ!?」


 ドラゴンが口を大きく開けた。


 その動作に見覚えがあり、俺は大きく横に飛び退く。


 ——直後。


 黒い閃光が先ほどまで立っていた場所を通り過ぎる。


 色こそ違うが、あの攻撃は……。


「ブレスか」


『ご名答。これを初見で避ける者がいるとは思わなかった』


「生憎と初見じゃないんでね」


 黒き竜とは別の個体だが、ブレスを使うドラゴンとは戦ったことがある。


 前世、それもゲームの中での話だが、予備動作が同じで助かった。


 あと一秒でも遅れていたら喰らってたな。


 あの攻撃だけはまずい。


「な、何よあれ……ククとはぜんぜん違うわね」


「世界を滅ぼす可能性のある竜だ。油断しちゃダメだよ?」


「当然! 徹底的にボコボコにしてやるわ!」


 魔力を練り上げたシルフィーと共に、俺もまた地面を蹴ってドラゴンに肉薄した。




———————————

あとがき。


近況ノートを書きましたー!

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