第199話 黒き竜
突如、竜の里に近づいてきたモンスターを里の者と協力して倒した。
協力っていうか、ほとんど俺が倒したけど、少なくない数のモンスターを彼らも倒していた。
抜いた剣を鞘に納める。
周りからは歓声の嵐だった。
「す……すげぇ! あれが救世主様の力か!」
「俺たちが手こずったモンスターを一蹴してたぞ」
「カッコイイ……!」
わーわーと住民たちまで集まってくる。
周囲に倒れるモンスターを一瞥すると、その中心に立っている俺が称賛された。
誰が倒したかは一目瞭然だった。
「すみません、救世主様。助かりました」
兵士のひとりが俺のそばに駆け寄る。
怪我はしていないようだが、彼の表情には疲労の色が見えた。
「いいえ。それほどでもありません。怪我人のほうは?」
「数名の侍が軽傷ですね。特に新人が多くて……」
「魔法が使える人が少ないようでしたら、俺が治療していきますよ。神聖属性の魔法が使えるので」
「ああいえ。それには及びません。若い奴らなら我慢できますし、里にも何人か神聖属性の魔法が使える者はおりますので。救世主様はゆっくりとお休みください」
「そうですか」
問題がないならそれでいい。
しかし、救世主様か……俺の呼び名はそれで固定なのかな?
やや気まずい思いをしていると、そこへ青色のドラゴンが姿を見せる。
頭の上にシルフィーを乗せていた。
「シルフィー、クク」
「大変だったわね。助けを呼んだけど意味なかったかしら」
「くるぅっ!」
シルフィーの言葉に反応してククが喉を鳴らす。
俺の近くまで歩み寄ると、そのまま巨体で抱きしめてきた。
よしよしと背中を撫でてあげる。
「そうだねぇ。ククがいても……いや、来てくれただけで嬉しいよ」
正直、竜の里にやってきたモンスターの大半がレベル30~40ほど。
上級ダンジョンの雑魚にすらまともにダメージが与えられないククが応援にきたところで、ククにやれることは何もない。
それでも俺のために来てくれたことが嬉しかった。
「おお、クク様だ」
「救世主様とクク様は仲良しみたいだな」
「子供の頃に何度も聞かされた話を思い出すぜ」
俺とククが抱きしめあう姿は、里の者には特別に映るらしい。
ある者は感動したように涙を流し、ある者は両手を合わせて祈っていた。
そんな大それたものじゃない。ただククが甘えてくれているだけだ。
再び気まずくなってククから体を離す。
そこへ先ほど別れたヴィオラがやってきた。
「ヘルメス様! お怪我はございませんか?」
「ええ、問題ありませんよヴィオラ様。この通りぴんぴんしてます」
近づいてくる彼女に腕をぐるんぐるんと回して健康をアピールする。
その様子に彼女はホッと胸を撫で下ろした。
「よかった……これも黒き竜が復活する前兆でしょうか?」
「どうでしょう、断言はできませんね。とりあえず死体の回収は里の人に任せて、俺たちはツクヨさんの下へ。今回の騒動の話も伝えないといけませんし」
「そうですね。私もご一緒します」
ヴィオラとクク、シルフィーを連れて俺はその場を離れた。
死体回収は解体なども作業があるため、兵士や住民たちが協力してやってくれるらしい。
俺たちは状況の報告などをしにツクヨの屋敷へ向かった。
▼
「ルナセリア公子様! ご無事ですかっ」
屋敷へ到着するなりツクヨが血相を変えてこちらにやってくる。
俺は笑みを浮かべて問題ないと告げた。
「はい。ご覧のとおり元気ですよ。そこまで強い個体はいませんでした」
「それは……何よりです。やはり竜玉の力がほとんど無くなっていますね……我が里はどうなるのか……」
「これも黒き竜の仕業なのですか?」
単刀直入に訊ねる。
しかし、彼女は首を横に振った。
「いいえ。完全に無関係とは言えませんが、黒き竜は離れた地に封印されています。竜玉に干渉できるとは思えません。恐らく、竜玉自身の問題かと」
「竜玉の問題?」
「ときおり竜玉の効果が弱まる時期があったらしいです。時期的に見ても間違いないかと。ただ、しばらくすると本来の力を取り戻すので、それまで耐えるしか……」
「なるほど。でしたら俺がモンスターを間引きましょう。ちょうど体を動かす口実もほしかったので」
「そんな……ルナセリア公子様は黒き竜を倒すために来られたのに、わたくしたちの雑事に巻き込むわけには……」
申し訳なさそうにツクヨさんが言う。
だが俺はむしろやらせてくれと頼んだ。
「やらせてください。このまま黒き竜の復活をただ待つだけだと体が鈍ってしまう」
「ルナセリア公子様……」
「ふふ。ヘルメス様はこういう人なんですよ、ツクヨさん」
「……ありがとうございます。やはりルナセリア公子様は救世主のような方ですね」
「その救世主っていうの、正直、俺は……」
言葉は途中で止まった。
俺たちの会話を塗り潰すほどの咆哮が、周囲に響いたから。
圧倒的な咆哮だ。びりびりと空気を震わせる。
嫌な予感がした俺が急いで外に出ると、はるか遠くの空に浮かぶひとつの小さな塊が。
目を凝らしてみてハッキリとわかった。
「黒い……竜!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます