第179話 お馬鹿!

 竜の里からツクヨという女性が王都にやってきた。


 彼女は、竜の里でいずれ訪れる未来を視ることができる巫女だった。


 個人的には半信半疑だが、ゲームのイベントだと思えば納得できる。


 そして、その巫女に救世主だと言われた俺は、ルナセリア公爵家に突撃をかましてきた青い竜ことククと共に、ツクヨの案内で竜の里に向かうことになった。


 竜の里へは海路で行くらしい。


 船に乗り込む前に、事前にアトラスくんにもう少しだけ今回のイベントのことを聞いておく。


 すると、アトラスくんはこう言った。


「竜玉ってご存知ですよね」


「もちろん。話は聞いてるよ」


「ならその竜玉、絶対にドラゴンに渡しちゃダメですよ! たしかヘルメスさまが持っていないとまずかったはずです」


 と。すでにツクヨから似た話は聞いていた。新たに獲得できた情報は0だったが、まあ問題ない。


 こくりと俺は頷く。


「了解。竜玉を渡しちゃダメなんだな」


「はい。あのアイテムは竜をより高位の存在へ変えるアイテム——だったはずなので」


 ツクヨがそんなこと言ってたね。


 世界を滅ぼすかもしれない黒き竜が、その竜玉を狙っていると。


 そして竜玉を守る役目を担っているのが、俺の隣でアホ面晒してるドラゴンなわけだ。


「くるぅ?」


 ククは俺から視線をもらうと首を傾げる。


「なんでもないよ。——ありがとうアトラスくん。アトラスくんに貰った情報は大事にする」


「いえいえ。俺はまともにイベントに挑戦できるようなレベルでもないので」


「そう言えば、アトラスくんのレベルは?」


 今さらながら彼のレベルを俺は知らない。向こうも俺のレベルは知らないだろうが、一応は共有しておくべきだろう。


 今後、どんな展開が起こるのかも判らないのだから。


 そう思って訊ねると、アトラスくんはどこかバツの悪そうな顔で呟く。


 か細い声で。


「——5」


「……え?」


 小さすぎてよく聞こえなかった。もう一度訊ねる。


「ごめん、小さくて聞こえなかった。もう少し大きな声で頼む」


「…………5です」


「…………」


 ふう。どうやら俺の耳は少しだけ遠くなったようだ。


 遠くなるには早すぎるような気もするが、アトラスくんのレベルが5に聞こえた。ありえない話だ。


 彼はそこら辺にいるモブではない。俺と同じ正真正銘の主人公だ。


 そんな彼がレベル5とか馬鹿馬鹿しい冗談にもほどがある。


 にこりと笑って正解を引き当てる。


「25くらいかな? それとも35?」


 ひょっとすると努力次第では40だって超えている可能性がある。


 ニコニコ笑顔でそう訊くと、アトラスくんは視線を逸らしながらもう一度同じ言葉を呟く。


「5です……ただの5」


「嘘だ」


 ありえない。何度聞いても信じられない。


 アトラスくんのレベルが5? 5!?


 そんなのそこら辺にいるモブより弱い可能性がある。


 というか、恐らく一度もダンジョンへ潜っていないのでは?


 潜っていたらレベル5なんて数値にはならない。


 なぜなら、最初のほうがレベルは上がりやすいからだ。


 レベル5なんて一日で超えるぞ普通に考えて。たとえ初級で上げてもだ。


「頑張って強くなってるヘルメスさまには本当に申し訳ありませんが……マジのガチでレベル5です。嘘偽りないことを誓います」


「…………」


 俺は膝から崩れ落ちた。


 あまりの絶望に、意識が飛びそうになる。


 だが、どうにかすんでのところで踏み止まった。


 慌ててアトラスくんが近付いてくる。


「だ、大丈夫ですか、ヘルメスさま!?」


「……これが大丈夫に見えるのか? というか、大丈夫じゃないのは明らかにお前のほうだろ!」


 ラブリーソーサラーの主人公がレベル5って。


 いくらゲームをプレイしていないとはいえ酷すぎる。


 彼は自分が物語の主人公であることは知っている。知っている上でのレベル5だ。


 外でモンスターと戦うのが怖いのは解る。俺だって最初はちょっとだけ怖かった。


 けど、主人公が頑張らないと世界が崩壊する。


 比喩表現ではあるが、少なくともヒロインに待ち受けるバッドエンドはまずい。


 これまでは俺がなんとかしてきたが、続編の2のこともある。できれば1のヒロインや共通シナリオは彼に任せたかった。


 しかし、レベル5ではこれからのイベントには耐えられない。


 もしこの竜の里でのイベント中、1に関係するイベントが発生したら……終わる。


 時期的にはないが、心配は尽きない。


「あぁ……どうしよう。どうにかしろ」


「無理ですよ」


「諦めが早い! 俺はこれから竜の里に行ってしばらくはいないんだぞ!? ひとりでやりきれるのか!?」


「それなら情報をくださいヘルメスさま! 俺が対処できるような情報を!」


「幸運なことにしばらくはイベントはない。冬のイベントは比較的安全なデートイベントだしな」


 目的は単なる好感度稼ぎだ。危険はない。


「なぁんだ。じゃあ平気ですね!」


「お馬鹿! お前、1のヒロインたちとぜんぜん交友してないだろ! その時点でお前の出番がないんだよ!」


 恐らく一番好感度が高いのは俺だ。


 下手すると1のイベントなのに、強制的に俺とのフラグが立つ。


 そうなるともうアトラスの出番は今後なくなる。


 なぜなら、それが終われば今度は二年生——個別ルートが始まるからだ。


 再び俺は、肩を竦めて絶望する。


 やや楽観的なアトラスくんの顔を殴りたかった。


 たとえ彼が悪くないとしても……。


———————————————————————

あとがき。


えー、読者の皆様にご相談があります!

本作も皆様のおかげでそれなりに続きました。本当にありがとうございます!

その上で作者が書きたいなぁ、と思ったことが一つ!


本作の外伝(if)!

本編とはまったく関係ない話でもいいから書きたくなりました。

もちろん本作の投稿は続けます。その上で、

ヘルメスが他校の生徒だったら!?

ヒロインとのあまあま短編!?

もしも幼少期から転生したら!?もっともっと最強を目指す!


などなど!本当に遊び感覚で書くのも悪くないと思っています。別の小説として投稿する予定ですが、もし投稿するなら皆様は読んでくれますかね!?

あと、読んでもらえるなら、皆様からもアイデアを募集したい……(こんな話が見たい!的な)。


よかったら、考えてみてください!

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