第175話 ククの役割

 国王陛下に呼ばれて、ヴィオラ第五王女と共に謁見の間に足を踏み入れる。


 謁見の間には、見覚えのない女性が陛下の隣にいた。


 脳裏で疑問符を浮かべていると、すぐに陛下から彼女を紹介される。


「今回ヘルメス公子を呼び出したのは彼女の願いだな。紹介しよう。はるばる東の大陸からやってきた、ツクヨ・スメラギ殿だ」


「はじめてましてルナセリア公子さま。わたくし、竜の里から参りましたツクヨです。竜王さまもご健在でなによりです!」


 ……竜の里の人間?


 っていうか竜王さま?


「こ、こんにちは……初めまして、ヘルメス・フォン・ルナセリアと申します。あの……これは一体?」


 ちらりと陛下へ視線を送る。


 どういう状況なのかと訊ねた。


「混乱するのも無理はない。私も知ったのはつい最近なのだが、ヘルメス公子の後ろにいるその竜は、竜の里を守る竜王さまらしい」


「りゅ、竜王——さま?」


 おまえそんなに偉い奴だったの!?


 振り返ってククの顔を見ると、ククは「どうしたの?」と言わんばかりに首を傾げる。


 〝?〟を浮かべるな〝?〟を! おまえのことだろ!?


「まさかそんな凄い? 竜さまだとは……」


 どうしよ。これまでに不敬じゃ済まされないくらいの失態を犯してきた。


 普通にビンタしちゃったけど俺怒られない? 竜の里の人間から袋叩きにされない? されたところで俺のほうが強いだろうけど。


「くるくる!」


「おわっ!? ちょ、ま待て! 国王陛下の前だから! すごく偉い人もいるから落ち着いてくれクク!」


 ククに畏敬の念を向けると、それを感じ取ったククに抱きしめられる。


 ぐりぐりと体をこすり付けられかなり無様な姿を晒した。


 それを見たツクヨさんが、くすくす笑う。


「ふふ……どうやら竜王さまとルナセリア公子さまは、ずいぶん仲の良い様子。やはり竜王さまが選んだだけありますね」


「ぐうぅ……え、選んだ? ククが? もしかしてククが俺に懐いているのもそれが理由なんですか?」


 気になることをツクヨさんが言った。ククに抱きしめられながらも訊ねる。


「クク? それがいまの竜王さまのお名前なのですね。なるほど……鳴き声からとっているのでしょうか?」


 そうだけどそんなことより俺の質問に答えてください。


「は、はい。安直ですが」


「素晴らしい名前かと。それくらいシンプルなくらいがちょうどいいです。竜王さまに名付けをする者は、永い歴史の中でいませんでした。これからはククさまと呼んだほうが良さそうですね」


 それより早く俺の疑問に答えてくれ。あとククはいい加減にせい!


 ぐいっとククの顔を押した。なぜかククは嬉しそうに鳴く。


「それでククさまの件ですが、ルナセリア公子さまの仰ることに間違いはありません。ククさまがルナセリア公子さまを選んだのです」


「その判断基準は?」


「さあ……いくらわたくしでも、ククさまのお心を理解することはできません。人とドラゴンですから」


「そんな適当な……」


 それじゃあもうこの話は終了じゃないか。アトラスくんも知らなかったし、全然シナリオの中身が見えてこない。


「ただ、古くに、ルナセリア公子さまと同じようにドラゴンに選ばれた方はいました。我が家にはその時の冒険譚を記した書物もあります。それによると、竜は最も自分と相性のいい者を選ぶそうです。お二人の様子を見るかぎり、その推測も間違っていないことが判りますね」


「え、えぇ……どうなんでしょう。俺が遊ばれているようにも見えますが……」


「竜の里では、ククさまはもっと大人しい竜です。基本的には睡眠を取られることが多く、ほとんど動きません。そんなククさまが元気よくルナセリア公子さまと遊んでいる……それこそが何よりの証拠です」


「そうなのか、クク」


「くるぅ?」


 おいなんでそこで首を傾げるんだ。おまえとの絆を拒否されたら、俺はもうお前と一緒にいられないんだが?


 変なところでバカになる。


「コイツは……まあいい。それよりツクヨさまひとつだけ窺ってもよろしいでしょうか?」


「わたくしに敬称は必要ありません。ククさまに選ばれたルナセリア公子さまのほうが、立場は上になります。どうぞ、ツクヨとお呼びください」


「そ……そうなんですか? じゃあツクヨさん、ククに関して聞きたいことが」


「何なりと」


「ククはどういう存在なんですか? なぜ俺を選び、なぜあなたがここにいるのか。恐らくそれらは同じ話に繋がっているはずだ。説明してもらえるのでしょう?」


 そのためにツクヨさんが、この王都までわざわざ足を運んだ。そう考えるべきだと俺は思う。


「さすがは天才と名高きルナセリア公子さま。すでにこちらの目的はなんとなく察しているご様子。まさにその通りです。ククさまはただ相性のいい相手を選び、遊んでいるわけではありません。大切な大切な役割があります」


「その役割とは?」


 俺が訊ねると、彼女は一拍置いてから口を開く。




「ククさまは……竜の里にて、〝竜玉〟を守る役割を持ちます」


———————————————————————

あとがき。


たいへんお待たせしましたが、限定近況ノート投稿しました……!

これからも定期的にちゃんと投げる……!

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