第173話 目的達成

 土の上級ダンジョン〝失楽園〟の中ボス、砂の巨人を倒した。


 砂の巨人は、前回戦ったスノウホワイトと同じタイプのモンスターだ。


 攻撃力は低く、ひたすら耐久に特化したタイプ。スノウホワイト以上に耐久に特化しているため余計に面倒だった。


 だが、水を与えれば弱体化する。


 俺はこのダンジョンに挑む前に水の上級魔法を習得しておいた。すべては砂の巨人とかいうクソモンスターを倒すためだ。


 それにしたって水の上級魔法は凄まじい威力を発揮した。


 四メートルを超える巨人すら小さく思えるような水球が、周囲をめちゃくちゃに変える。


 まさに災害。


 前世でも水害はよくニュースで報道されていたが、一度もその被害に遭ったことのない俺はありていに言えばそれを軽視していた。


 結果を見て驚いた。あそこまで水というものは恐ろしいのかと。


 人もモンスターも変わらない。災害の前には等しく無力なのだ。


 おかげで大量に魔力を消費してなおかつダンジョンのギミックのせいで気分が悪いが、コイツさえ討伐できればあとは本を探すだけ。


 背後で戦闘を見守っていたシルフィーたちと合流しダンジョンの先を目指す。




 ▼




「あんたの魔法、また威力が上がってたわね」


 道中、シルフィーが先ほどの戦闘を振り返って感想をこぼす。


「まあね。神聖属性に加えて水属性の上級魔法も習得したから、一気に強くなったよ。正直威力は俺の想像を超えてた。シルフィーがそばにいなくてよかった。ワームの時みたいに遊んだらシルフィー死んでたかもね」


 けらけらと笑う。


 シルフィーが叫んだ。


「笑い事じゃないわよ! ここまで魔力を空にしないよう頑張ってきたのに、私が死んだら哀しいじゃない! 私が!」


 シルフィーは妖精と呼ばれるモンスターだ。


 肉体を構成するのは魔力。物理的な攻撃にはめっぽう強いが、魔力的な攻撃にはものすごく弱い。


 恐らくシルフィー自身の耐久力は紙だ。俺が初級魔法を当てても死ぬ可能性がある。


 代わりにめちゃくちゃ便利な上級風属性魔法を使えるし、自分の意思で動くことができる。


「俺だってシルフィーが死んだら哀しいよ。肉体の構成にどれだけ魔力が吸われるかもわからないし」


「私の心配は? それって自分の心配じゃない?」


「……蘇るし」


「契約は解除ね。あんたみたいな変態と契約した昔の私を恨むわっ!」


 このサディストめ! とシルフィーが攻撃を仕掛けてくる。


 迫りくる彼女をデコピンで吹き飛ばした。


 契約者かつ妖精魔法の適性が極めて高い俺だからこそできる芸当だ。


「——あうっ」


 くるくると回転しながらククのほうへ。


 ククが口を開ける。ぱくり。


 見事に減速できないシルフィーがククに食べられた。


 もごもごとククの口がでたらめに動く。


「シルフィーは元気だねぇ……ありがとクク。しばらくその子うるさいから閉じ込めておいて」


「くるっ!」


 了解とククが敬礼のポーズを見せる。


 ……それ一体どこで覚えてきたんだ? この異世界で敬礼をするような人がいただろうか?


 しいて言うなら貴族に対する騎士? いや騎士でも敬礼はしないよな……ククが住んでた地域の挨拶かな?


 ククは知能が高いから人間を観察してたらそういうの覚えそう。


 深くは考えなかった。


 オアシスを抜けてさらに砂漠の奥を目指す。


 やがて砂で作られた小さな町を見つける。あそこが俺の目当ての場所で魔法書が隠されている。


 ゲームの頃と同じようにスタンバっていたモンスターを瞬殺し、何軒か隣の家へ。


 人が過ごしていたと思われる形跡を見ながら棚の中を空ける。するとそこには、土属性の上級魔法の書が置いてあった。


「お、あったあった。これで土属性の上級魔法も習得だな」


 ククの口からようやく脱出したシルフィーに文句を言われながらも、ぺらぺらと本をめくる。


 無事、土属性の上級魔法を覚えた。さらにステータスが伸びる。


「よし。それじゃあもうここには用はないしさっさと地上に戻ろうか」


「ぐぬぬぬぬ……! 私にあんな穢れた真似をしておいて!」


「誤解だよシルフィー。あくまでも君を食べたのはククだ。俺は悪くない」


「狙って飛ばしたのはわかってんのよ! この犯罪者! あとトカゲ! あんたはドヤ顔してんじゃないわよムカつくわね!」


「くるぅっ」


 なぜかやたら自慢げにククが胸を張る。


 ぎゃあぎゃあうるさいシルフィーに後で美味しいものを買ってあげると約束すると、彼女は急に静かになった。


 ふっ本当にちょろい奴め。

















 時間は巻き戻って、ヘルメスが上級ダンジョンを攻略するより少し前。


 壁にかけられた龍の模様の前で、ひとりの少女が祈りを捧げていた。


「巨大な巨大な竜とひとりの男性……これが世界の意思なのでしょうか?」


 その言葉が示す意味をまだ誰も知らない。訪れる最悪の未来すらも、誰も知りえなかった。


 ロウソクだけが部屋を明るく照らし、何度も何度も少女は祈りを捧げる。


 まるで涙を流して乞うように。


———————————————————————

あとがき。


近況ノートを投稿しました!

よかったら目を通していただけると幸いです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る