第3話:魔法神様再び

「やっほお。リディアちゃん、こんばんは」

「あっ、魔法神様! いらっしゃいませ」


 何と今日の夢にも魔法神様が御登場くださいました。

 神が夢の中に出現するということは原則的にないと仰っていたのに、連日申し訳ないです。

 挨拶はいらっしゃいませで合っているでしょうか?


 ひらひらと手を振って笑う魔法神様。


「あはは、いいのよ。昨日の今日だから、状況を確認しておきたかったの」

「ありがとうございます。気にかけていただいて恐縮です」

「それで魔法はどうだったかしら? 試し撃ちはしてみたんでしょう? リディアちゃんなら問題なく魔法も発動すると思うけど」

「あっ、それなんですけれども」


 魔法神様には今日の魔法の検証について話しておかなければ。

 全てを試したわけではないですが、理論を習得していた魔法は全部発動するんじゃないでしょうか?

 しかもどうやら魔力量はほぼ無限に思えるんですけれども。


「……ということでした。いくら才能があっても傲慢な人に加護を授けたら大変なことになるという、魔法神様のお考えはよく理解いたしました」

「魔力量がほぼ無限? そんなはずは……」

「何か問題がありましたか?」


 首をかしげた後、ポンと手を打つ魔法神様。

 原因が判明したようです。


「わかった。きっと私とリディアちゃんの魔力がシンクロしているのね」

「えっ?」


 魔法神様の魔力とシンクロ?

 どういうことでしょうか?


「神の加護というのは、神が力の一部を貸し与えるということなのよ。リディアちゃんは知ってた?」

「そうなのではないかと、薄々は」


 何となく想像してはいました。

 が、神様本人から断言されると、加護は本当に神様の力なんだなあと身に染みますね。


「ということは、加護を得た者が与えた神への信仰心が高かったり、あるいは近い考え方を持っていたりすると、力を大きく発揮することができるのよ」

「そこまでは存じませんでした」


 そんなシステムだったとは。


「リディアちゃんは私のことを尊敬してくれているのね?」

「それは当然です。魔法という神秘なる力を司る御立派な神様であられますから」

「えへへ、嬉しいな」


 恥ずかしそうに笑う魔法神様はお可愛らしいです。


「そして多分、私とリディアちゃんは魔法に対するスタンスが似ているのよ」

「魔法に対するスタンス、ですか」


 魔法神様と考え方が似ているというのは嬉しいですね。


「リディアちゃんはどういう魔法の使い方をしたいですか?」

「大げさなことは……普通に便利に使えるといいと思います」

「でしょう?」


 にっこりする魔法神様。


「私もそうなのよ。もっと自由に魔法を使えたらいいわよねえ。魔法力や魔力量の関係でそれが不可能なら、誰でも使える魔道具の開発を推進するという手もあるのだし」

「自由で便利な魔法という考え方は、一般的ではないのでしょうか?」

「少ないのよ? そういうささやかな望みのために魔法を使おうという考え方をしている人は。勇者になりたい、聖女になりたい。そこまででなくても、せっかく大きな効果のある魔法を使えるのなら、有名になりたい、復讐したいなんて人が多くて」


 復讐は怖いですけれども、勇者になりたい、聖女になりたいということは、いい志のような気がします。

 それは魔法神様の御心にそぐわないのでしょうか?

 魔法神様がふっとため息を吐きます。


「結局大きな魔法の力を持ってやってみたいことなんて、その人のエゴですからね。本人は満足かもしれないけれど、周りにとっていいことばかりじゃないわ」

「……そうかもしれません」

「そうなのよ? 私の加護を得たのがリディアちゃんでよかったわ」


 魔法神様、とてもいい笑顔です。

 大きな力を持たせる神様の方にも責任が生じるのですね。


「私の魔力とシンクロするくらいなら、リディアちゃんは割と好き勝手に魔法を使っても大事にはならないわ」

「だ、大丈夫でしょうか?」

「あはは、大丈夫よ。リディアちゃんは魔法使って大それたことをしようなんて思わないでしょう?」

「思わないです」


 私の侍女のナナは大それたことをする気満々でしたが。

 そうか、力を持ったらそれを最大限に使おう、というのが普通の考え方なのですね。

 ナナが特別アグレッシブなわけではなくて。


「リディアちゃんは可愛いわ。そんなリディアちゃんに忠告です」

「はい、何でしょう?」


 おそらくこの忠告のために、魔法神様は今日も私の夢の中に出てきてくださったのでしょう。

 心して聞かなくては。


「リディアちゃんは今後、魔法を日常的に使うようになると思うわ。だってその方が便利なんですもん」

「はい。魔法に対する理解と検証が進んだらそうなると思います」

「当然リディアちゃんが自在に魔法を使えることを、周りの人に隠せないと思うわ。記憶消去の魔法でも使わない限り」


 記憶消去の魔法は、被術者に精神的な後遺症が出ることがあると聞いたことがあります。

 リスクのある魔法を使うのはとてもとても。

 それにしても魔法神様は、私が魔法を使えることを隠そうとするとわかっていたんですね。

 さすがです。


「となればリディアちゃんは何らかの防御をしなければいけないわ」

「えっ?」


 ちょっと考えが飛びましたか?

 防御ってどういうことでしょう?


「どうしてリディアちゃんが魔法を使えるようになったかと聞かれたら、私の加護を得たからと話すでしょう?」

「話しますね」

「まず間違いなく嫉妬する者がいます」

「嫉妬……」


 あり得ます。

 魔法神様の加護なんて、私だって羨ましいと思いますもの。


「羨ましくてリディアちゃんを害そうとする者が出るかもしれません。そんなやつには漏れなく私が神罰を食らわせますが、リディアちゃんも自衛してくださいね」

「わかりました。常時結界を張るのがよろしいでしょうか?」

「そうね。呪い返しも併用するといいわ」

「ありがとうございます。そういたします」


 魔法神様が私を気にかけてくださっているのがわかって、恐れ多いですね。

 私は私で注意しなくては。


「じゃあ私は帰るわね。またね」

「はい、ありがとうございました」

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