第18話 アラオザル⑧
火野は彩木瞳が始まりの少女という役割を背負わされていることを説明した。その肩に宇宙中の運命がかかっていることも。そして、その役目を終わらせることが出来る終わりの少年、桜井亮太の役割も伝えた。
エ=ポウは黙って聞いている。真知子の通訳の拙さでどの程度のことが伝わっているのかは判らない。ただエ=ポウは神妙な表情で聞き入っている。
「それを踏まえたうえで、彼女に人類が生きる意味を、今後この宇宙の中で地球人が存在していく意味を判断してもらいたいと思っているのです。そして、彼女がこの宇宙に人類は不要だと判断した場合は、彼女の判断によって宇宙そのものをリセットしてもらいたいのです。但し、その逆で彼女がこの宇宙にとって地球人が必要不可欠な存在だと思ったのならリセッターとしての彼女の役割から解放してあげたいのです。」
火野が話をしている間は火野の、真知子が通訳している間は真知子の目を真っ直ぐ見ながらエ=ポウは一言も発せずに聞いていた。そして、真知子の通訳が終わると、徐に、なんと流暢な英語で話し始めた。
「まず、このアラオザルまでよく来られた。普通はなかなかこの場所を見つけることが難しいのだが、あなたたちは辿り着かれた。それはあなたたちが私に会うべきだと思われた方のお導きであったのであろう。その意味でもあなたたちの役に立つことは吝かではない。あなたたちの事情や背景も理解した。」
そして瞳の方に向き直って続ける。
「あなたも大きな役割を与えられてしまって大変ですね。ただ彼も思っているようにあなたには重大な判断ができる人だと思うのです。神は、ああ、あなたたちの言う神とは少し違いますが、神はその役割を果たせない人にはそんな重大な役割を与えることはなさいません。あなたなら立派に役割を果たされる事でしょう。そしてご自身の判断を後悔為されないことです。どんな判断であろうとあなた自身で決めるべきです。その意味で彼の行動は正しい。」
エ=ポウは普通に英語を話せるようだ。それであれば一同は亮太を除きほぼ通訳なしで会話が出来る。
「ああ、あなたたちは日本人でしたね。日本語でお話ししましょうか。」
エ=ポウは今度は流暢な日本語で話をする。七千歳も生きていれば、そんなこともあるのかと火野たちは感心した。これなら亮太にも判るので有難かった。
「日本語もお話になられるんですね。」
「はい、私ともう一人は日本語も話せます。英語を話せる者はもう少しいます。長く生きていますと、その位はできるようになるのですよ。」
そうは言うが日本語の習得は相当難しかったはずだ。
「七千歳を超えられているのは本当のことなのですね。」
「七千歳?ああ、巷にはそう伝えられているのですね。ただの都市伝説ですよ。いくらトウチョ=トウチョ人といえども七千歳も生きられません。」
「そうなのですね。でもそれではおいくつなのですか?」
「もう数えておりませんので正確には覚えていませんが多分六千代の半ばあたりだと思いますよ。」
あまり変わらないじゃないか、と突っ込みたかったが流石に皆んな自重した。相手は真面目に答えているのだ。
「あなたたちの役に立てるのなら、いくらでもお手伝いします。暫らく滞在されるのであれば歓迎しますよ。」
「それは有難い。お言葉に甘えて少しの間お世話になります。」
一行はエ=ポウの家に滞在することになった。部屋の数はあるので問題はなさそうだったが、やはりサイズが小さい。火野は180cm近くあるので特に狭く感じてしまう。
「結局、ここで何をしようとしているんですか?」
浩太は火野に問う。火野にはまた別の思惑があるように思えるのだ。
「長老に色々な話を聞きたいだけだ。他に他意はない。」
「それだけの為にアラオザルまで来たと?」
「そう言っているだろう。逆に聞くが他に何があるというんだ?」
「それは。」
浩太はそれ以上火野を問い詰めなかった。火野たちと合流する前、綾野とは別の話をしていたのだ。火野の本当の目的についての話だった。
勿論エ=ポウに会って話を聞きたいというのも嘘ではないだろう。ただそれだけの為にアラオザルを探していたとも思えない、というのが綾野の意見だった。推定は可能だが、直接会ってより確実な推定をするよう綾野からは指示されていた。
火野の行動によって、やはり彩木瞳の安全が侵されることは避けなければならない。そのための浩太だった。
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