第15話 アラオザル⑤
「心配はいらないわよ。私があげた物をさっきあんなに喜んでくれてたんだから。あれイミテーションだし。」
「なんか、こめん。」
運転席から浩太が言う。
「なんで浩太が謝るのよ。」
「本物を買ってやれないからさ。」
「そんなの気にしてないわ。だから、街できらきら光るものなら何でもいいんじゃないかしら。」
「それなら助かるが大丈夫だろうか?」
「長老用に少し本物も持って行った方がいいかもね。」
結局本物の貴金属も買わないといけないのか、と火野は財布と相談を始めた。
タウンジーに戻ると一行は街の雑貨屋に立ち寄る。そこにはイミテーションの宝飾類が多数置いてあった。結構な数を買い占め、少し高級なものを求めて宝飾店に向かう。
その道中、浩太が誰かに電話を掛けていた。
「なんだ、どうかしたか?」
「綾野先生でした。いい知らせです。スポンサーが見つかったそうです。女王陛下がお亡くなりになられたり今上陛下が上皇様になられたりして一時は大変だったのですが、ブルネイの何代か前の国王の直系の方と話が付いたそうです。在位期間は2~3年と短かった国王ですが資産は相当なものらしくて、ご協力いただけるとのことです。今回の事情を話したら、少々のことなら大丈夫たと仰ってました。」
「それはありがたい。」
綾野は活動資金集めに政治的には係わりを持たない国王を回っているのだった。国家元首は政治的背景も様々で容易に協力を得られないことが多い。国王同士のネットワークで紹介をしてもらって飛び回っている。今回は国王直接ではないが相当有力な王族に会えて知遇が得られたのだ。
火野たちは買い物を済ませると一旦ホテルに戻った。アラオザル行きは明日だ。帰りの道中、火野は付けて来ている車に気が付いた。心当たりがあり過ぎて特定はできないが、一番有力なのは内閣情報室早瀬一行だろう。態と見つかるように付けて来ている。明日は付いてくるかも知れない。アラオザルの住人には招かざる客だろうが、それは自分たちも同じな筈だった。
「早瀬課長が付いてきていましたね。」
岡本浩太も気が付いていた。そして同意見だ。
「明日は付けられるでしょうね。そのまま連れて行きますか?」
「途中で拘束でもするか?」
「まあ無駄ですね。死しない限り付いてきますよ、あの人たちは。」
「そうだな。では仕方ない、せいぜい振り回してから行くとしよう。」
「少し離れて付いてきていたら、あの場所で迷ってしまうかも、ですね。」
「それ程間が抜けているとも思えないがな。まあ、心配してもしょうがない。こちらはこちらで予定通りいくだけだ。」
「判りました。では明日。」
明日は様々な思惑を持った人々を引き連れてのアラオザル行きになる。
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