第25話 合錠岬《プロジェクトクローズ》

 岬にタクシーを飛ばすと、久美子が既に到着していた。

 この事件になんらかの責任を感じているんだろうな。

 だから来たのだと思う。


「彼女は?」

「誓いの鎖の所にいるわ」


 誓いの鎖はステンレスの鎖で、カップルが取り付けた鍵がいくつもぶら下がっている。

 散歩コースを歩いていく。


 亜振あふりさんは物憂げな表情で海を眺めていた。


「近寄らないで」

「まだ若いんだから、死ぬなんて考えるなよ」

「あなた、死ぬ勇気が出ないのよね。死ぬのは諦めて生きてみたら」


「久美子、なんか説得させる言葉はないのかよ。プログラム的にはと言って」

「プログラム的には蜂人はちととは【引数】の型が合わなかったのよ。それはもうどうしようもない事だわ。あなたが作ったキーホルダー大事に使っているわ。こんな素晴らしい作品の作り手が死ぬのは大いなる損失よ。作品のためにも生きないと」


 久美子がキーホルダーを見せる。

 パトカーのサイレンが聞こえてきた。


 そして、団符だんぷ刑事が、岬の通ずる坂を上がってくる。


亜振あふり沙羅さらだな。殺人容疑で逮捕する」

団符だんぷ刑事、自首扱いに出来ませんかね。今にも飛び降りそうですよ。亜振あふりさん、やり直せないか。作品のためにも。素晴らしい物を作り出せるんだから、命を絶つことはない」


 亜振あふりさんは、ためらったあと、静かに団符だんぷ刑事の前に出て両手を差し出した。


「逮捕して下さい」

「おい、お前ら。このお嬢さんが自首するそうだ。署まで送ってやれ」

「刑事さん」


 団符だんぷ刑事、恰好つけて。

 きっと始末書ものだぞ。


「行こう」

「ええ、打ち上げにレストランのフルコースがあるのよね」


 そうだった。

 そして、バレンタインデー。

 いつものスーツにいつものコートを着て、レストランで久美子を待った。


 久美子はドレスを着て現れた。

 美しいな。

 手にはリボンでラッピングされたハート型の箱をもっている。


「これ」

「くれるのかい」


「義理よ義理。勘違いしないで」

「そういうことにしておくよ」


「会社大変ね。賄賂で逮捕者が出そうなのよね」

「仕方ないさ。それだけの事をしたんだから」


 会社のことは心配してない。

 賄賂で逮捕者が出て会社が潰れたためしはまずないからだ。

 弊害といえば、イメージが多少悪くなって、会社の名前を出すのが恥ずかしくなるぐらいか。


「ホワイトデー、楽しみにしているわ」

「借りがいっぱいできたからな。返さないといけないか。とほほ、また財布が軽くなる」


 久美子におごるのは嫌じゃない自分がいる。

 事件はもうこりごりだが。

 でもきっと何か起こるような気がしている。


 こういう時の勘は当たる。


「心配事?」

「また、コンピューターのことで分からない事があったら、助けてくれるか。それと事件が起きた時」

「ええ、喜んで」


「乾杯しよう」

「ええ」

「くそったれなプログラムと事件に乾杯」

「乾杯」


 ワイングラスをチリンと当てた。

 ワインをぐっと呷った。

 久美子は今日は帰りたくないのとか言い出さないかな。

 ないか。


「そうそう、亜振あふりさんから手紙が届いたわ。新作のスケッチが入っていたわよ」

「彼女も持ち直したようだな」

「贖罪のためにも作品を作り続けるって」

「生きる希望があるならいいさ。罪を償ってお店がもてるようになったらいいな」

「ええ」


 2月14日でまだ寒いが、春の訪れを感じた。

 僕の春はいつになったら来るのだろう。


 コースが終わったのでデザートのついでにチョコレートを食べる事にした。

 包みを開けチョコを見ると、ハート型の中央に、丸に車線『Ø』がピンクのチョコで書いてある。


 どんな意味が。

 ゼロだよな。

 プログラマーはゼロの丸に斜線を入れる。

 アルファベットのオーと区別するためだ

 そう聞いた。

 ええともしかして、テニスのゼロか。

 loveって意味だったりして。


 チョコを食べている僕を見て、久美子は何も言わない。

 でもきっとそうだ。

 そう思いたい。

 義理って意味で愛情ゼロじゃないよな。

 それだったら少し泣けてくる。


 真相を聞くのが怖いな。

 心の奥にloveって意味だと記憶しておこう。


あとがき《EOF》


 コンテスト用に書きましたが、10万字は遠く、打ち切りエンドです。

 反省点は密室の謎解きは前半の山に持っていくべきでした。

 後半は犯人捜し。

 こんな構成なら10万字書けて、完走出来たでしょう。

 それと連続殺人の方が良かったかも知れません。

 キャラがいまいちだったのも反省点です。

 次のアルファポリスのコンテストには1年あると思うので、ミステリーの次回作はゆっくり考えたいと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

プログラマー探偵 路軸《ろじく》久美子《くみこ》 喰寝丸太 @455834

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ