47話 本当の企画
「はい~、ここからが本当の企画です!!」
新撰組3人の表情が怪訝なものになってゆくほどに、はるぴよのドヤ顔は満面のものになっていった。せっかくいつものダンジョンを離れ地上世界にまで来たのである。
視聴者を欺くならまず味方から……とは古いことわざにもあるではないか!
「本当の企画はですね……『はるぴよ会社辞めたってよ! どうせなら粘着してくるアンチにダンジョン外でガチ凸してみた!』です! ……はい、拍手~!!!!」
ヤケクソ気味に叫んだはるぴよの言葉に、視聴者もその場の全員もポカンとしていた。
……だが真っ先に反応したのは、えまそんだった。やはりはるぴよの一番の理解者は彼女だ。
「え……は、はるぴよ? 会社、辞めたの?」
「うん、辞めた。あれ、えまそん言ってなかったっけ?」
はるぴよにとっては、動画配信者であることが会社にバレて問題となり、勢いのまま会社を辞めたことなど、もうとっくに過ぎ去ったことのような気持ちだったので、実にけろっとしたものだった。
「ったく、もう……はるぴよったら……」
それに対しえまそんは、下を向きヤレヤレと首を振った。
なんで親友の自分にそんな大事なこと一言も相談なしに決めてしまうのか! ……という淋しさもあったけれど、この親友の思考と行動力はいつも自分の想像を遥かに超えることも知っていた。
〈は? はるぴよってO家商事だろ? マジで会社辞めたの?〉
〈んなわけないでしょ? そういう虚言で少しでも話題になろうって魂胆に決まってるだろ?〉
〈え、でもはるぴよの場合は何回も明言してたし、それで結構ヒキになってた部分があるでしょ?〉
〈この女の何が信用できるのよ!〉
〈そうそう、配信者なんて嘘の塊に決まってるでしょ!〉
はるぴよの去就の真偽を巡ってコメント欄も荒れていた。
はるぴよが何者であるかというのは視聴者にとっても無視出来ないステータスであったということなのだろう。
「ああ、もう~、うるさいなぁ! 別に信じてくれなくても良いですけど、私はたしかにO家商事株式会社城東支社総務部総務課に勤めていました! もう退社しちゃったので社員証も名刺もありませんけどね! ……ってそれはもうどうでも良いんです! 大事なのはもう私を縛る組織はないということです。私は自由の身なのです! ですから、私をネチネチと攻撃してきたアンチとも直接対峙して徹底的にケンカしてやろうってことです! ……あ、ここはダンジョン内ではないので、物理的な攻撃や魔法による攻撃はナシね? あくまで頭脳の喧嘩、つまりディベートってことでね」
〈これは胸熱展開!〉
〈いや、ダンジョン内でデカいモンスター倒す方が何倍も迫力あるだろ? 小娘の口喧嘩見て何が面白いんだよ?〉
〈ば~か、アンチに凸だぞ? こうやって四六時中動画に張り付いてアンチコメントを送ってるヤツの顔が晒されるんだぞ? どんなヤツか見てみたいに決まってんだろ?〉
〈ほとんどお前みたいなヤツに決まってんだろ……〉
〈あ~……最初は強がってイキってたアンチも、動画で拡散されることを知って次第にしどろもどろになってくやつか。それは面白いかもしれん!〉
〈逆にはるぴよがボッコボコにやられる可能性もあるしなwww〉
〈それならそれで面白そうだな!〉
「はいはい、コメントの皆さん! その通りです! 実は私もそのアンチ様とアポを取って待ち合わせていますが、どんな人間が来るのかは全然わかりません! プロフィールなんかは一応チェックしましたけど、粘着質なアンチをやる人間のプロフなんて一切信用できませんからね。あ、まあなんか元々シニチェクの熱狂的なファンだと言ってきてはいましたので、それは本当かもしれませんね」
ゲスな想像を膨らませて盛り上がってきたコメント欄をさらにはるぴよ自身が煽る。
実に下らない感情だ! ……なんて切り捨てるのは簡単なことだが、配信文化とは元々がそういったものだし、それにこうした下世話な感情のやり取りの中にも大事なものがある、とはるぴよは感じ始めていたのだった。
日本最高学府である慶光大学で学んでいた時には決して味わえなかった感覚だ。
「はい、そんなわけでですね……アンチ様との待ち合わせ場所に向かってみようと思います」
颯爽と歩き始めたはるぴよだったが、新撰組3人とえまそんは顔を見合わせて立ち止まったままだった。
「……おい、小娘。俺にはよくわからんが、その場には俺らも行かなきゃならんのか?」
「聞いてないよぉ、はるぴよ……。せっかくコーデ決めたのはわざわざアンチに会いに行くためだったの?」
「そりゃあそうでしょ! お3人が同行して初めて私の価値が出るんですから! 私1人が行っても向こうに笑われるだけだよ! ……あ、もうすぐですね。ここの店の広場で待ってるって連絡がありましたのでね。……さあ、そんなわけでいよいよアンチ様とのご対面です!」
目的の場所に近付いたはるぴよは、カメラを回しながらの接触であることを相手に悟られぬように最後の言葉をウィスパーボイスで囁くと、カメラを強引にえまそんに渡して撮影を託した。
「……アンタがはるぴよ?」
「そうですけど……もしかしてアナタが連絡をくれたケットシーさん?」
緊張の初対面に臨んだはるぴよだったが、そこにいたのは全身黒ずくめのロリータ服に身を包んだ、まだ10代とおぼしき少女だった。
「……そうよ! 何、ジロジロ見て? なんか文句あるの!?」
女性であることはプロフィールや文面からわかっていたのだが、はるぴよもまさかこんな少女が来るとは思ってもみなかった。
もっと……その……妙齢の、素敵な、いい意味でのおば様……ネットで動画配信者にコメントをすることにしか生き甲斐を見出せない社不の、引きこもりの、いい意味でのおば様が来るものだとばかり思っていたのだ。
「えっと、ケットシーさん? アナタが私たちに文句があるってことだったので、私もこうしてダンジョンを出てアナタに会いに来たんだけど? あ……せっかくベンチもあることだし座る? 喉乾いてない? ジュースとか買ってこよっか? 何が良い?」
「……ふざけんじゃないわよ! 私はアンタに文句を言いに来たの! 子供扱いするんじゃないわよ!」
思いがけぬうら若き女子との対面にはしゃいでしまったはるぴよを、一喝した(ハンドルネーム)ケットシーちゃんであった。
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