第24話 湯けむり……それはモザイク




黒い影は一瞬にしてスライムだけをバラバラにし俺とスライムの間に立つように降り立った。


強い。


おそらくこの間戦ったバルバよりも……夢中になってたとはいえ俺の知覚を振り切るとは何者だ?


影はこちらにゆっくり振り向くと俺を数秒間じっと見てからやがて興味がなくなったように森の彼方に消えていった。


「ったくなんだったんだアイツは……」


「ああ、まったくだ……さっきの黒いやつには感謝しないとな!!」


あ。


さっきの黒い奴に警戒してレーウィン達にかけていた聖剣の力をうっかり解いてしまったせいで手加減なしの拳が俺の顔にめり込んだ。


数十分に及ぶ暴行を受けた俺は人数分の外套を引きずり出された後ギルドへ戻った。


まぁ今回に限っては自業自得だが俺の脳内に刻まれたお宝映像と引き換えなら安いものだ。


「や、やあ……みんなおかえりなさい、なんだか……大変だったみたいね……?」


フィーナは俺たちを出迎えるなり口の端を引き攣らせた。


「ううっ……お嫁にいけない……」


外套を握り締めこちらを睨みつけるリンだったが涙で瞳が潤んでいるせいでまったく怖くない。


「許してくれってちょっとした遊び心じゃないか、それに責任なら俺が取るからさ!」


「リン殿、安心してくださいこの反省してないバカは後でキッチリ折檻しておくので」


無表情で怖いことを言うレーウィンに俺は恐怖した。


俺、明日この世にいないかもしれない……。


「あはは……とりあえずこれ、報酬ね」


「ご苦労さま、気になってた依頼はこれだけだから明日からはゆっくりしてね」


俺たちはその後すぐに解散してしまったのだがその前にリンが話しかけてきた。


「ノエル殿!! ちょっと待ってもらえるだろうか!」


「ん? どうした? リン? 今日のことなら悪かったな」


「いいや……スライムを倒せなかったのは私の実力不足だ」


真面目な奴だな……。


俺が少し罪悪感を覚えているとリンは顔を赤くしながら話し出した。


「その、今日はありがとう」


ん? なんだ? 罵声を浴びせられるようなことはしたがお礼を言われるようなことはしてないはずだが……。


「俺、なんかしたか?」


「あの黒い外套の人物がきた時、貴方はいつでも私たちを守れるように警戒してくれてただろう?」


あー気付かれてたのか……さすがこの街一番の実力者だな……。


「そのことか……それよりよく気づいたな?」


「私は騎士だぞ? 守るための立ち居振る舞いはわかるさ」


なるほどね……伊達に騎士をやってないってことか。


「で? 話ってなんだ?」


「じ、実はその…フィ……フィーナ殿から貴方にご褒美を上げてほしいと言われてな……」


ご褒美……だと……! まさかチューでもしてくれるのだろうか。


「まさかチューでもしてくれるのか!?」


「ち、違う!! とりあえず明日この場所に三人で来てくれ……では私は失礼する!!」


リンは逃げるようにどこかに行ってしまった……。


顔も真っ赤だったし何か様子がおかしかったが、まぁ明日になればわかるか。


俺はこのあとゆっくりと宿に戻り何事もなく眠りについた。


あしたの事が気になってよく寝れなかったが……。


そして朝になり、妙にそわそわしているレーウィンとセレナを連れて指定した場所へと向かった。


ったく何なんだ、いったい……。


「ここは……温泉か? 誰もいないみたいだが?」


指定した場所に着くとそこは無人の温泉だった……。


「おーい! 3人とも! 来てくれてありがとう!」


「リンか、来たがここ誰もいないみたいだぞ?」


「実はギルドマスターが貸し切ってくれたんだ、ノエル殿たちにに温泉を楽しんで貰うためにな」


まぁ……混浴が禁止なんじゃな……でもせっかくの厚意だありがたく身体を休めるとしよう。


「なるほどな、ありがたく使わせてもらうよ」


セレナとレーウィンはリンと話があるらしいので俺だけ先に浴場へ向かうことになった。


「おーほんとに貸し切りだな! これで混浴ならなぁ……」


温泉に浸かるとほんのり温かく身体の力がいい感じに抜けてとても気持ちよかった。


思えば聖剣集めの旅が終わってこんなにゆっくりできたことがなかったな……。


俺が温泉を堪能していると聞こえるはずのない声が湯けむりの中から聞こえた。


「お、おい……ノエル……いるのか?」


!?

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