第23話 黒い影、だーれだ♪





 しかしリンはかなりの美人だな……種族的に容姿が整っているレーウィンにも負けてない。


「聞いてると思うが俺が! リルドの街の英雄ことノエルだ!」


「後ろのコイツらは俺の召使いだ! よろしく!」


 俺が召使いと言った瞬間セレナから脛へありがたい一撃を頂いた。


「冗談だろ? ったく思いっきり蹴りやがって……」


 蹴られたところをさすっているとセレナが俺の前へズンズンと歩いて行き自己紹介を始めた。


「私は偉大な魔女の娘であり私自身も偉大な魔女のセレナだ! よろしくな!」


「よろしくね! セレナちゃん、そちらのヒューマンのお方もあなたのお仲間だろうか?」


 初対面でいきなり大嘘の自己紹介をしたセレナだったが冗談と受けっとったリンに子供扱いされている。


 まぁ、偉大な魔女の娘ってところはあってるんだけどな。


「私はレーウィンだ、不本意ながらコイツのパーティの一員なんだ」


 なんでコイツらはこんなに俺のことが嫌いなんだろうか……。


「な、なんだか色々事情があるようだな……」


 リンは何かを察したのか若干引き攣った顔で言う。


 まぁ真面目そうなやつだし悪いイメージは抱いてないだろうからいいか。


「とにかくよろしく頼む、癖は強いがまぁ悪い奴らじゃないからさ」


「よし! お互い、自己紹介は済んだようね? なら本題に入りましょうか」


「ノエル君、アイツ……リルドの街のギルドマスターに渡してもらいたいものはこれよ」


 俺はフィーナから封筒と招待状と大きく書かれた紙を渡された。


「武道大会の招待状? これを渡して欲しいのか?」


「ええ、各街の代表一名がギルドマスターに指名され出ることになってるらしいわよ」


 なるほどな……リルドの街のギルマスが言ってたことが本当なら確かに妥当か。


 おそらく勇者がレーウィンに負けたことが貴族達に広まって不安が広まったんだろうな……。


「うちのギルドからはリンが出ることになってるわ」


「正直くだらないイベントだけど王の命令じゃ無視もできないし」


 確かにくだらないがギルマスにとっては悪い話じゃないはずだ。


 街に武道大会で好成績を残せる実力者がいるとすれば依頼が増えて街の利益に繋がるからな。


 大きな街のギルマスならメンツもあるだろうし。


「了解だ、確かに受け取ったよ」


「この街にいられるのは二週間だったわよね? まぁゆっくりしていってもらえるとありがたいわ」


「ああ、ゆっくりさせてもらうよ……うちの魔女はこの街のグルメに夢中みたいだしな」


 リルドの街に関しての心配はいらないだろ、魔王軍の奴らもあれほどの痛手を負ったんだ。


 きっとすぐには攻めてこない。


「ところで坊や? ちょっと割のいい仕事があるんだけど受けてみない?」


 フィーナは机の書類の中から一枚の依頼書を取り出すと、それを丸めて自分の大きな胸の間に差込んだ。


「ね? お願いできないかしら?」


 ウインクでトドメを刺された俺は考える前に返事をしていた……。


「ハイ、喜んで!」


「うふ、ありがとう」


「フ、フィーナ殿! そんなはしたないことはおやめください!!」


 リンはそういうことには慣れていないのか赤面でフィーナのはだけた服を戻した。


 クッ!! もう少し見ていたかったのに!


 後ろのセレナ達の視線が痛いのはいつものことだから放っておこう。


 振り向いたらグーパンチが飛んできそうだ。


「本当はリンに頼むつもりだったのだけれど、ちょっと不安要素があってね……リンのフォローをお願いしたいのよ」


 依頼内容は突然変異したスライムを討伐しろというものだった。


 女騎士に突然変異したスライムなど先の展開はわかっていた。


 だがここはあえて黙っておこう……。


「じゃあよろしく頼んだわね」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 俺は今生きていて良かったと心の底から思っている。


 理由は目の前の光景だ。


「くっ……!! 殺せ!! こんな辱め!! 聞いてない……!!」


 突然変異したスライムとは予想した通り、服や金属のみ溶かすスライムだったのだ。


「くそっ!! スライムだからと油断したかっ! でもなんでだ!? 力が入らない……!」


「ううっ! 気持ち悪い……おい! ノエル! 眺めてないで早く助けろ!!」


 レーウィンやリンが簡単にスライムにやられた理由は簡単だ。


 そう! 俺がこっそり“弱体の聖剣”の力を使いレーウィン達を弱体化させたのだ!


 このスライムはおそらく裏の世界で密かに取り引きされているものだろう。


 その貴族御用達の快楽拷問スライムが何かの手違いで逃げ出し成長してしまったんだろ。


 つまり危険はない。


 俺はのんびりとレーウィン達を観察できるというわけだ。


「ノエル殿!! 早く助けてくれ!! 服が……!」


「お前……覚えてろよ!! このスライムを片付けたらお前をボコボコにしてやるからな!!」


 俺はその場に座り込んで満面の笑みで答えてやった。


「いいのかなぁ〜? そんな態度とって〜?」


「なんだと?」


「今助けられるのは俺だけなんだよォ〜?」


「このクズやろう……」


 このまましばらくみておいてやろう……。


 そう思っていた俺の知覚を振り切り黒い影が飛び出した。




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