第13話 みーんな元気になぁ〜れ♪
怒鳴られるかと思っていたが、セレナのリアクションは想像していたものとは逆だった。
「どうしてだ? お前ならこの街を救えるのに、なんで……」
確かにその通り、俺が聖剣を一振りすれば魔物の群れは消え去る。
だが。
「俺は人助けがしたいわけじゃない」
ここで表立って魔物を倒してしまえば少なからずギルドマスターには弱みを握られこの街にはいられなくなるだろう。
いや、下手をすれば俺の存在は世界中に知れ渡り二度と平穏な生活は送れなくなる。
「……っ!! お前がッ! そんな奴だとは思わなかった……!」
セレナは俯きながらギルドの方へと走り去っていった。
今のセレナにかける言葉はない……。
「セレナ! ……ノエル、いいのか?」
「……そのうち怖くなって帰ってくる」
思ってもない言葉が出た。
セレナは俺に愛想尽かしたはずだ帰ってくるはずはない。
レーウィンにもそれが分かっている、だがあえて、騒ぎ立てず、ついてくる。
おそらくセレナが向かったのはギルドだ。
あそこなら仮に何かあっても他の奴らがいる。
大丈夫だ……何も問題はない……はずだ……。
“でも、本当にこれでいいのか?”
俺はまだ悩んでる。
考えは決まっているはずなのに、俺の思考はその考えを否定するかのように回り続ける。
「おかあさん、みんなどうしたの? なんで元気ないの?」
ふと、幼い少女の声が聞こえ俺の意識は現実へと引き戻された。
「大丈夫よ……大丈夫だから……何があってもお母さんが守ってあげるから……」
少女の母親らしき人物はしゃがみ込み少女を抱きしめるが、その抱擁を解いてこちらに駆け寄ってくる。
「ねぇ、おにいちゃん! みんなどうしちゃったの?」
少女は俺のズボンをつかみ無邪気に街の変化について聞いてきた。
「…………」
「あっ、す、すいません! ほらこっちに来なさい! お兄さんに迷惑をかけちゃダメでしょ」
何も答えられない俺を困っているのだと解釈した母親は、少女の手をとり俺から引き剥がそうとするが。
「いやだ! だっておかあさん泣いてるもん! 私はいつもみたいに笑ったおかあさんじゃなきゃいやだもん!!」
「!!!」
認めざるえない……どうやら俺はこの街を救いたいらしい。
ここで逃げて、平和な暮らしが待っていたとして、かつての仲間達に顔向けできるか?。
否、それはあり得ない。
答えは決まった、魔物から逃げる? 自分は助かって誰かを犠牲にする? 冗談じゃない! ここで逃げたら俺は何者にもなれない。
俺は泣いている少女と目線を合わせるようにしゃがみ込むとマントで涙を拭い。
「実はお兄さんは魔法使いでね、みんなを笑顔にする魔法が使えるんだ」
「ほ、本当!?」
俺の言葉に少女はパッと明るい顔になりズボンを握る手に力を込める。
「でも、その魔法を使うには君の力を貸してもらわないといけないんだけど、手伝ってくれるか?」
「う、うん! みんなが笑顔になるならなんでもするよ! 何をすればいいの?」
「じゃあ君はお母さんの言うことをよく聞いて今日は家の外に出ないこと、守れるかな?」
そういると少女は何度も首を上下に振り。
「うん! わかった! じゃあ家に行こうおかあさん!」
今度は逆に少女に引っ張られ家の方角に向かう二人を眺めていると母親が頭を下げる。
「あの……あなたは冒険者様ですよね? どうか、この街をよろしくお願いします!」
レーウィンは親子が去っていくのを見ながら視線だけをこちらに向け再度、俺に問いかける。
先ほどまでと違いその表情に曇りはなかった。
「で? どうするつもりなんだ?」
「よくよく考えてみれば、俺の安住の地を魔物風情に荒らされるのは気分が悪い」
「私はお前のパーティーメンバーだ、リーダーの命令には従うぞ?」
「とっとと魔物を倒してセレナを連れ戻す!」
先ほどまでとは違いギルドに向かう俺たちの足は驚くほど軽かった。
ギルドに着くとこちらに気づき驚いた様子のギルドマスターが駆け寄ってくる。
「ノエル君! ここに戻ってきてくれたということは……!!」
「ああ、魔物は俺が片付ける……そのことで少し話がしたいんだが、また執務室を貸してもらえないか」
「わ、分かった! 君の考えを聞かせてくれ」
執務室に向かい俺が考えた作戦を説明することになった。
別に大した話じゃない、作戦は至ってシンプルだ。
他の冒険者には街の守りについてもらい、俺がひとりで魔物の群れを倒すというだけ。
作戦と呼べるものではない、がこれが一番安全な策だろう。
それに率いている魔族の強さによるが、聖剣を使用することになれば冒険者を巻き込みかねない。
作戦をギルドマスターに伝えると。
「へっ……ノエル君、冗談をいっている場合じゃ……」
まあ、冗談に聞こえるのは仕方がないか。
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