〇〇〇でも目立ちすぎる二見さん


 文化祭の季節がやってきた。

 体育祭と並ぶ学校行事のひとつで、コミュ障ぼっちにとっては苦痛以外のなにものでもない。

 体育祭以上に人の出入りがあるし、もう考えるだけで最悪だ。

 そんな最悪の文化祭、うちのクラスはメイド喫茶をやることになった。なにがメイドだよ冥土の間違いだろ……と、やさぐれちゃうぐらいには嫌いです。


 やさぐれてても時間は過ぎていく。いつのまにやら文化祭当日を迎えた。

 メイド喫茶で私は裏方に回された。表に出るほどの優れた容姿をしてないから、というのもあるだろうが、嫌な顔をしながら気配を消しまくっていたのが原因だと思われる。

 まぁ、サポート役の私にはぴったりだけど。

  

 そして二見さんはもちろん、接客担当だった。あのお顔で裏方なんかもったいないとか、二見さんが接客したら売上爆上がりだとかそんな理由だった気がする。

 ほぼ全員の意向を押しつけられるような形だったけど、二見さんは笑顔で引き受けていた。

 軽く呼び込みをしにいったら、ありえないぐらいのお客を引き連れて戻ってきた。

 みんな二見さんの容姿に惹かれてついてきたんだろう。鼻の下を伸ばしながら注文してるのを見ると、なんかムカつくな。

 それだけならまだ百歩譲って許せるけど、中にはおさわりしようとするやつや、ナンパしようとしてるやつまでいた。

 ここで私の出番です。サポートアイテムは持ち合わせてないけど、幸いなことにこの場にはいろんなものが揃っている。

 不届き者には、こっそり粉砂糖を飛ばして撃退してやった。

 

 「ご注文は? は、あたし? なにふざけたこと言ってるの下僕の分際で」


 同じく接客を担当してる満井さんは、冷めた目でお客を罵っていた。なんかそういうリクエストでも頂いたんだろう。お客が恍惚とした表情してるし。

 そんなこんなで二見さんのシフトが終わり、友達たちにお呼ばれしてる。これから文化祭を回るんだろう。

 私もシフト交代の時間なので変わってもらい、こっそり後ろをついていく。


 「ねぇ環、お化け屋敷行こうよ!」

 「怖いって評判らしいよ。ほらほら」


 三人とも楽しそうだな。私はずっとひとりだから、誰かと楽しむっていうのがよく分からない。

 それでも、二見さんの笑顔が見られるだけで、心がぽかぽかとして嬉しい気持ちになるのだ。 

 ちょくちょく二見さんたちの邪魔をしようとする輩を始末し、時間は過ぎていく。


 そうして大盛況のうちに、文化祭は終わった。

 後片付けを済ませ、みんながぞろぞろと教室を出て行く。なんか後夜祭ってのがあるらしいけど、私は興味がないのでどうでもいい。 

 にしても、疲れた……一日中陰でサポートし続けてたからなぁ。


 机に突っ伏しながら、それでも帰ろうと身体を起こしかけて。

 誰かが隣にいる気配を感じる。いったい誰だろう? 後夜祭にもいかず、下校もしない人は。

 おそるおそる振り返ると、そこにいたのはまさかの人物だった。

 誰もがうらやむほどの完璧超人で、いつも笑顔を絶やさない女の子。


 彼女は私と目が合うと、にっこり微笑んだまま、



 「いつも楽しそうだね」



 ……へ?

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