〇〇〇を覗かれかける二見さん


 夏休みが終わり、二学期が始まった。久しぶりに見るクラスメイトの顔、には特に思い入れもないけど。

 彼女には自然と目が吸い寄せられていく。


 件の二見さんは、休み明けでも美しい。背筋をしゃんと伸ばし、友達たちと楽しそうに会話している。

 ずぅっと眺めてられる光景だな、なんて思ってるところに違和感。それは、二見さんの座ってる席の前の前の席からだ。


 「っ!」


 私は敵意の満ちた視線をそちらにぶつける。なぜかって、そこには男子たち(五味加須コンビ)がいたんだから。

 ただいるだけなら問題ないんだけど、あいつらはしゃがんでいた。揃ってにやついていた。

 明らかに二見さんのパンツを覗こうとしてる。

 長期の休みを挟んだせいで、頭のネジが抜けてるのかもしれない。先生にこっぴどく叱られたことを忘れてるんだろう。

 こうなったら、やつらの身体に刻んでやらねばなるまい。二見さんに手を出そうとしたらどうなるのかを。


 視線を戻すと、二見さんも休みで気が抜けてるのだろう、ちょっとだけ脚を開いていた。あれじゃうっかり見えちゃってもおかしくない。

 やつらとの角度がピッタリ合った暁には、


 『うひょおっ! 二見のパンツキタコレー!』

 『ありがたやありがたや! 夜のオカズはこれで決まりだな』


 ――と、教室中で叫ばれ、恥ずかしい思いをしてしまうに決まってる。あとでこそこそ情報交換されて、二見さんのパンツの柄が全校生徒に知られてしまうなんてことになったら……そんなことさせるか!

 ここは、私がサポートして差し上げねば! 悪霊退散っ!


 小さく意思を固め、カバンの中に手を突っ込む。うん、これがよさそうだ。

 テッテレー(脳内音声)サポートアイテムその10、塩(清められたやつ)~!


 ひとつまみ分塩を手に取り、狙いを定める。気配を消し、集中力を極限まで上げていく。

 五味加須コンビとの距離、よし……人の邪魔、なし……いける!

 私は彼らの目元めがけ、塩を飛ばしてやった。

 

 「ぐわぁぁっ! 急に目が~!」 

 「なんだこれ、痛い!」

 

 五味加須コンビはなにが起きたのか分からないといった感じで叫んでいた。両手で目を覆っている。

 二人があんまりにもうるさかったようで、クラスメイトたちが引いたような目をしていた。

 その空気感が肌に突き刺さりでもしたのか、五味加須コンビは揃って立ち上がり、教室を出て行く。目を洗ってくるのかもしれない。


 「ふぅ……」


 よしよし、どうにかやっつけられたぞ。これでやつらに憑いた悪霊という名の煩悩が消え去ってくれることを祈るばかり。

 二見さんのパンツが守れたことにホッと安堵の息をつく。


 「…………」


 ん? いま二見さんがこっちを見てたような……いや、たぶん気のせいだろう。

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