〇〇させられる二見さん


 あの女、相変わらずあたしより目立っててムカつく。

 どいつもこいつもあのうさん臭い笑顔に騙されてるのよ。詐欺師と手口は一緒だってのになんで気づかないのかしら。

 このいら立ちは、次の授業でぶつけてやるわ。見てなさいよ!



 ◇



 今日は調理実習で卵焼きを作ることになった。班分けをしたんだけど、私は二見さんとは別の班になった。

 さすがに一緒の班だと、気が動転してやらかすかもしれない。卒倒しちゃうかもしれない。先生の采配に助けられた。

 で、私の班には満井さんがいる。あの意地悪気な顔を見るにまたなにか企んでるのだろう。


 「あんたたち、あたしの手料理が味わえるんだから、ありがたく思いなさいよ」


 男子たちが湧き立った。そんなに嬉しいのか。

 二見さんの手料理だったら、私も食べてみたいけど。


 「っ!」


 この女、砂糖と塩を間違えてるぞ。あれじゃしょっぱくなる。

 口を挟みたいけどコミュ障なのでムリ。ただ、手を加えることはできる。

 

 私はこっそり近くにあったボウルに、粉を入れたり。プラスになるよう砂糖を大量に入れたり。まじないを唱えたり、満井さんがよそ見してる間に火力を調節したり。

 そんなことをしてるうちに、明らかに卵焼きとは違うものができた。


 「……これをあの女に食べさせてやるわ」


 ぼそぼそとろくでもないことを呟く満井さん。

 出来上がったものを皿に乗せ、二見さんに突撃していく。


 「二見さぁん? これあたしたちの班で作ったものなんだけど、良かったら」


 拒否権はないとばかりに箸を押しつける。ニヤついてるな。

 それでも二見さんは逡巡せずに、パクついた。

 モグモグ咀嚼をして、笑顔の輝きが増していく。


 「なになに環ったら美味そうな顔して。うちらにも一口食わせろよ」

 「んっ……おぉ、美味いじゃんこれ。満井が作ったの?」

 「え、えぇ、そうだけど……」


 評判が良くて戸惑っている満井さん。それもそのはず。

 だってそれほとんどホットケーキだし。


 お礼とばかりに、二見さんの班で作った卵焼きを貰う満井さん。

 しぶしぶそれを口に運んだ彼女は、身体を硬直させた。


 「ん~!? かっ、辛い~!!」

 「おっ、満井のやつ当たり引いてるじゃん!」

 「ロシアン卵焼き。作ったうちのひとつにワサビが大量に入ってるんだけど、もう当てられちゃったか」


 友達たちが嬉しそうに話している。二見さんはちょっと苦笑い気味だけど。

 なにはともあれ、満井さんの企みは失敗に終わり、二見さんの笑顔は守られたってわけ。

 私は達成感のようなものを覚えながら、卵焼きもどきをパクついていた。

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