第177話 ちょっとだけ下へ
冒険者に一般公開されたダンジョンだが、28Fのゴーレムを越える者達が出始めた。
28では地図が大活躍だ。
ゴーレムの動きが遅い事もあり、28Fから29Fへの近道を駆け抜けるパーティが出始めた。
今のところではあるが、この死霊の森ダンジョンは通路が変化したり各フロアの魔物が変わったりはしていない。
ゴーレムを振り切って走る冒険者が道に迷っているうちにゴーレムのトレインを作らないように、ギルドは箇所箇所に『29F →』といった看板を設置した。どうやら看板は壁に吸収されたりしないようだが地面に刺すのにかなり苦労したそうだ。
そうだよな?看板を吸収するならパンツも吸収してくれって思う。
そのおかげで29Fに到着する冒険者が増えた。
29Fの蜘蛛は貸し装備オークシリーズが人気だ。
30Fを目指す冒険者はパーティの中で最低でも1〜2人はオーク装備を身につけている。
30Fに辿り着いた冒険者はセーフティゾーンを利用しつつ、29、31でも狩りを楽しんでいるようだ。
もちろん、30Fに泊まりつつだ。
ギルドでは、「死霊の森ダンジョン」は噂に聞く他の塔型ダンジョンとは少し異なるのではという見解だ。
通路や魔物が変化しない、宝箱も今のところ見つかっていない、お宝のようなドロップもない。
もちろん各フロアの魔物が落とす物は外で採れる物に比べて上質ではあるのだが、一攫千金を狙う冒険者向きではない。
ダンジョンに入る冒険者にはその辺も予め言い含めていた。
ギルド(ゴルダ)とってこのダンジョンは、ひと握りの冒険者の夢の場所ではなく、人と街が成長するための場所、と考えているようだ。
俺は弁当販売とスーパー(ダンジョン)への買い物を日々楽しんでいた。
が、ふと、思う。
22Fから上に行くほど魔物は強くなった。では、21Fから下は?
下に行くほど弱くなる?
スライムより弱い魔物とは何だろう?思いつかない。
普通にウサギとかの動物系か?
動物がわざわざダンジョンにいるだろうか?
ううむ……………。
困った時のゴル頼み。
よし、ゴルダに聞きに行こう。
ギルドの扉を開けて中に入るといつものポジションにゴルダがいた。
あそこに座っているという事はギルドも平常に戻ってきたのか?
ゴルダは眉間に皺を寄せて俺を指で招き上を指差した。
うん。2階に来い、だな?
ゴルダが座っていた狭い受付の奥、普段は冒険者で賑わう広い部屋も昼過ぎは閑散としている。
その奥側にある階段を昇って2階へ行った。
大した話では無かったからわざわざゴルダの部屋(ギルド長の部屋)に案内されて申し訳なく思った。
ゴルダの机の前の小さな応接椅子に浅く腰掛けて、さっそく話を切り出した。
「あのさ、大した話じゃないけどちょっと気になって聞きに来た」
ゴルダが頷き、先を促す。
「ダンジョンの地下、21Fから下の魔物って何だろう。上に行くほど強いなら下はスライムより弱い事になるよな?あのダンジョンが元のやまと商事の影響を受けて40Fが最上階だったなら、下は21Fから……1Fまである可能性が高いよな?」
「そうだな、おそらく1Fまであるだろう」
「としたらスライムより弱い魔物が21種類も?いるのか?」
ウサギ、ネズミ、……ミミズ…いや、わからん。
俺が小さい動物を思い浮かべているとゴルダが咳払いをしたので顔を上げた。
「実は降りた。ギルドの職員が21Fにメダルで飛んで直ぐに戻った」
「え?そうなんだ」
驚いた、ギルドは大忙しだったのにいつに間に確認に行ったのか。
「で、何が出た? 弱いやつ?」
「ゾンビだ。動きは遅いが弱くは無い。お前から入手した銀剣があったので倒せたがな」
銀剣…、ああ、シルバーソードか。
しかし、ゾンビだと?
少なくともスライムよりは断然強いよな?
どうなってるんだ?
階を追うごとに強くなる法則…、いや、そんな法則があるとダンジョンの壁に書かれていたわけではないが。
「あのダンジョンは22Fを境に上、もしくは下に行くほど強くなる、と考えている」
ああ、なるほど。
22F(22階)なんて中途半端なフロアが地上一階にあるから、紛らわしいのか。
地上ダンジョン、地下ダンジョンと考えれば納得だ。
「地下ダンジョンの最初の敵がゾンビって、地上ダンジョンより厳しそうだな」
「そうだな。死霊の森ダンジョンは地下が本来のダンジョンかも知れん」
「ゾンビかぁ。アンデッドは結構得意なんだよな。行ってみたい気もする…」
ゴルダは片眉を上げて面白そうな顔で俺を見た。
「行ってみるか?」
「え?いいのか?下は暫く禁止にするって言ってただろ?」
「ああ。だが、いずれ冒険者達が40Fのボスを倒しメダルを手に入れれば下に降りるやつを止められん。その前に出来る限りの把握はしておきたい」
「そっか…降りれるとこまで行くか。帰還スクも豊富にあるしな」
「俺が行ければいいんだが今はまだ…、降りるなら今回は少数で出来るだけ万全で行け。Aランク冒険者を紹介するからそいつらを連れて行け」
「ん?星影じゃなくて?」
「ああ、星影は上を頼んでいる。明日会わせる、食堂で。おまえの方はキックかナオリンを連れて行け」
「山さんはいいのか?」
「今回地図はいい。出来るだけ少人数で危険な時は即帰還しろ」
「わかった」
てか、明日食堂でってうちの食堂だよな?
うちのリビングがギルド食堂になりつつある。
ギルド員さん達も毎日朝昼、イートインコーナーに誰かしら(というか結構沢山)来ているな。
俺は家に戻って皆に相談した。
「いいんじゃないですか?というか気をつけて下さいね」
「うん、危なかったら即帰還だからね!」
「良かった、僕、ホラーはちょっとね、苦手というか、ね?」
「キック達には連絡したの?」
「さっきメールした。ナオリンから直ぐ返信きたよw」
「あはは、ナオリン参加でしょ」
「うん。『喜んでー』とひと言あった」
「あれ?キックは?」
「キックからは返信まだないんだよね。あ、来てた。ふむ、キックも参加みたいだ。ふたりとも今日の夕方にこっちに来るって」
「あ、じゃあご飯ふたり分追加しますね」
「おう、悪いな。頼む」
翌日の弁当販売が終わり、リビングでダンジョンの準備をしているところにゴルダ達が訪ねて来た。
ゴルダと一緒に来たのは、アレッサンドロさんという俺より若干若いくらいの男性と、キシェファさんという背の高い女性だった。
ふたりともAランクのソロ冒険者さんで、募集がある時のみ短期でパーティに入って活動するそうだ。
アレッサンドロさんは割と小柄で痩せた感じ(あ、キックと背格好が似ている)で、職は斥候だそうだ。
キシェファさんは肩に大きな弓を担いていた。弓士だそうだ。
「よろしく。キシェと呼んで」
「アレッサンドロだ。 レッサと呼ばれている」
「どうも。カオです、よろしくお願いします。魔法使いです」
「ナオリンです!職は…拳(コブシ)?拳士です!」
「……キックです。ども」
キックのゲームでの職はダークエルフだけど、この世界では見た目が人間だし、どう説明するか。
「ええと、キックは、斥候的な両手剣使い……かな?」
「です…」
さてと、ダンジョンの21Fだが俺たち3人はメダルがあるから飛ぶ事が出来る。
しかしレッサとキシェはまずメダル取り、そこからか?
という訳で俺たちは地上ダンジョンを走り抜ける事になった。
ヘイスト魔法を全員にかけて、レッサに付いて走る。
レッサは地図(近道)が頭に入っているそうだ。
凄いな。
予想以上にダンジョンは混み合っていた。
他の冒険者さんの邪魔にならないように走り抜ける。トレインを起こしそうな場合はキシェがササっと片付けていた。
30Fのセーフティゾーンでトイレ休憩を取った。
30Fが何か凄い事になっていた。
壁沿いにテントが並んでいたり、食べ物の屋台が出ていたり、結構な数の冒険者さんが寛いでいた。
31Fからは出来る限り魔物を避けて行く。倒すのに時間をかけたくないからだそうだ。
動きの速い魔物は追いかけてきたがキシェが弓で倒していた。
ロングボウを使っているらしいが、オークボウを見せ一度使ってもらったら、使い勝手が気に入ったようでこのまま貸して欲しいと言われたので貸した。
39Fまで辿り着いた。案外「避け進み」で来れるもんだな。
ただ、31F以降は空いていたので出来たが、他の冒険者がいたらそれも難しい。
39Fのセーフティゾーンは冒険者はひとりも居らず、ギルドの人がふたりいるだけだった。
屋台等も閉まっていたがテントだけ借りた。
皆、走り疲れているので、万が一を考えて今夜はここで一泊する事にした。
明日の朝イチでボス部屋だ。
ナオリンがポツリと呟く。
「うちら先に来てここで待ってても良かったね。あ、下で待ってても良かったか」
「いや、同行する仲間の技量を見たかったからな」
レッサが笑いながら答えた。
一緒に走ってるだけで俺らの技量が解るのか、凄いな。
「カオは方向音痴だろ」
笑いながら言われた。何故、それを!
翌日、用意を整えて、40Fへの階段を昇った。
扉前でサモンを出す。
レッサにも弓を持たせて、中へ。
3体のKBBがバジリスクを倒し、全員外へ飛ばされた。
金貨袋は俺に渡されたのでアイテムボックスに仕舞い込んだ。
レッサとキシェの首にはメダルのペンダントがさがっていた。
各自が武器装備を整えた。
「さて、じゃあ本題の地下1階に行くぞ?準備はいいか?」
レッサの言葉に全員が頷く。
皆、メダルを触っている。あとは21Fを選ぶだけだ。
「よし!行くぞ」
その掛け声でレッサが消えた。キシェが消えた。
俺も21Fを選んだ。
薄暗い通路の隅に出た。
目が慣れていないので皆を探せない。
「明かりつけるぞ!」
一声かけてライト魔法を使った。(明るい方)
直ぐ近くにキックとナオリンがいた。
レッサ……は、少し前方か。
キシェは、とキョロキョロすると、レッサよりも前で弓を射っていた。
「こっちは倒した」
「よし、一回後ろに下がれ」
え、何、飛んで直ぐにファイト開始したのか?
レッサとキシェが俺らの方に戻ってきた。
「ゾンビだったわ、ゾンビ3体」
「足が遅くて助かった。飛んだらすぐ先にいた」
「地下に降りる時は戦闘体制万全じゃないとヤバいね」
「…ですね」
「キシェ、矢が不足しそうなら言ってくれ」
「助かるわ」
「あ、ここ…ドロップは、何ですか」
「すぐバックしたから拾ってない。落ちたのかしら」
「じゃあ進みながら拾って行こう」
「地図がないから上へ、じゃなかった下への階段探しも大変ですね」
「そうだな。まさに手探りだ。俺が先頭、直ぐ後ろにキシェとナオリン、その後ろにカオ、しんがりがキックで行くぞ」
「ええ」「おう」「はい」
「あ、カオさん、私にも弓貸してもらえます?オークボウあれば借りたいです」
「いいよ。はい、これ」
ナオリンも弓で戦うようだ。
そうだよな。ゾンビを素手で殴るのは………、うん。
俺たちはゆっくりと21Fを進んで行った。
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