第73話 お金がない

「金がない」


思わず口から出た。

借家同居が13人の大所帯になったもんだから食費がかかり、現在お金がない。

だから外へ狩りに行こうかと思ったのだが、外狩もそれはそれで金がかかるのか。


「あー…パーティの依頼受けたいけど7日分の準備のあれこれを購入する資金がねぇなぁ」


せっかくの誘いに申し訳ないが正直な気持ちを3人に告げた。

するとメリーから提案ががあった。


「じゃあ、まずは近場で狩りしましょうよ 街の近くなら日帰りできるし」

「そうだな 街の近くでもそれなりに稼げそうだし」

「まずは近場で狩りをしてそのお金でいろいろ準備してゴブリン討伐に行きましょう!」


という感じで話はまとまり、まずは街の外の草原で狩りをすることになった。



4人で南門を出て草原へ向かう。


俺はマップを少し大きめにして歩いていた。

そう、マップは上下左右と動かせるのは初日に知っていた、が、何と大きくも出来たのだ。

たまたまマップを両手で触った時に大きくなってビックリした。

もちろん小さくもなる。


ただ、ゲームの時からいつも思うのは、表示されるのがモンスターのみで獣は映らないと言う事だ。

ホーンラビットは映るが、ただのラビットは映らない。

イノシシやウルフや鹿も野犬もマップには表示されない。

俺が踏んだり蹴ったりしなければいいだけなのだが、ちょっと自信が…。


そして草原と言っても結構背丈の高い草が生い茂っていた。

ほらね。これ、ケモノが潜んでいても気づけないぞ。

踏むなよ、踏むなよ……振り?踏んでいいの?いや、良くないぞ。

って、心の中で独り言を言っても不安は解消されないので三人に聞いてみた。


「3人はどうやって獣を見つけてるんだ?こう草が茂ってると見えなくないか?」


「俺たちは今の所いきあたりばったり?‥‥かな?」


ヒューゴがちょっと恥ずかしそうに言った。


「本当は探索や斥候のスキル持ちがパーティにいてくれたらいいんだけど」

「うちは剣、盾、弓だもんね」


「スキルに探索とか斥候ってあるんだ?」


「ランクB以上のパーティには大概いますね 斥候スキル」


なるほどねぇ

小説でもそのスキルはよく出てきてたな。

けど、俺がやってたゲームには“探索”も“斥候”もなかった。


WIZは“魔法”

ELFは“精霊魔法”

DEは”闇精霊魔法“

DKNは”竜魔法“

KN(ナイト)はゲームの中で唯一魔法を持ってなく、その代わり”力“とか”体力“とか”が段違いの強さだった。


普通に考えると“人間”が一番弱そうだけどな。

あのゲームは何故かナイトがずば抜けて強かったよな。

逆にウィズは同じ人間なのにずば抜けて弱く、レベル上げが辛くて他のキャラに作り直すプレイヤーが多かった。

戦う事が主流のゲームだったからしかたなかったのかもしれない。

なのでエルフ、ダークエルフ、ドラゴンナイトのそれぞれの魔法も攻撃に特化したものがほとんどだったな。


あのゲームにはそもそも“スキル”という概念がなかったと記憶している。

というか、20年以上前のパソコンゲームだからそんなに複雑に作られてなかったんだろう。




「スキルって鍛錬で身につくのか?」


「ん〜どうだろ?持って生まれた才能が大きいかもしれないけど」


「スキルがあるかどうかはどうやってわかるんだ?ギルドで調べてもらうのか?」


話しながら歩いているうちに草原地帯に入っていた。


「おっと、忘れてた。シールド!シールド!シールド!自分にもシールド」


3人と自分にシールド魔法をかけた。


「これ!」

バルトロが突然興奮して叫んだ。


「これ、あの時かけてもらった魔法ですよね。イノシシに飛ばされても痛手を全く受けなかったんですよ。カオさん、すごい魔法使えるんですね」


うわー、尊敬の目でキラキラ見つめられていたたまれない気持ちになった。

言えない。

初級も初級のヘボ魔法とは。


俺がやってたゲームでウィザードが真っ先に覚える魔法が”ライト“。

暗闇を明るく照らす魔法“ライト“。

で、2番目に覚えるのが”シールド“。

防御魔法だけど、初期魔法なのでものすごくショボイ防御力。

高レベルの土エルフの精霊防御魔法と比べたら月とスッポン。

もちろん、スッポンの方。


「あ、うん、……防御魔法だけど、そんなに強い魔法じゃないぞ。犬、狼、猪くらいは大丈夫かもしれないけど、魔物には通用しないので気を抜かないようにな。シールドかかってるからってモンスターに突っ込んだり絶対するなよ」


振りじゃないから。

絶対突っ込むなよ。


「え、ゴブリンに突っ込んじゃダメなのか…」


突っ込む気だったんかい!

やめて?死ぬよ?

バルトロもヒューゴもメリーも俺が謙遜していると思っているようだったので、ちょっと真面目に説教をしてみた。



「冒険者が成功するのに一番大切な事ってなんだと思う?」


突然言い出した事に3人がキョトンとなった。


「1番大事なのは 絶対死なない事 死んだらそこで冒険は終わりだよ」


3人がウンウンと頷いた。


「じゃあ死なないためにはどうすればいいか?」


「鍛錬とかスキルですか?」

「武器装備を揃える?」


「うん 鍛錬や訓練、スキルや武器装備入手も必要な手段のひとつだけど、それよりもっと必要なのは、死なない工夫。死なない工夫ってのは変な言い方だけど、臆病になること、怖がる事かな」


3人はジッと耳を傾けてくれた。


「臆病とか怖いというのは恥ずかしいことじゃないんだよ。臆病とか怖いというのは、自分の弱さをちゃんと知っているという事だから。弱いから訓練もするし、スキルも欲しい。弱いからどうやったら敵を倒せるか考える。弱いから死なないように努力と工夫をする。臆病であることが強くなる事に繋がるんだ」


なんか子供相手に真面目な説教をしてしまい恥ずかしくなった。

安全な日本で生まれて49歳まで安全に育った俺が、この荒波のような世界を生き抜いてきた少年少女に何を偉そうに語っているんだか。

ていうか俺、成功してる冒険者でもないのに恥ずかしすぎる、ごめんなさい。


「ゴメン、余計な事を言った。忘れてくれ」


穴を掘って中で死にたい。


「「「カオさん!」」」


3人が急に抱きついてきた。

え?ナニ?ナニ?

金パツ? これ、金パツ先生?(注:昭和の熱血先生ドラマ)

俺、竹田悦也ですかあああああああ(そのドラマの役者)



「さて、狩りをしようか」


気を取り直して、アイテムボックスから杖を取り出した。

ゲーム時にキャラが身につけていた装備はちょっと派手すぎてここではつけられない。

けど、ウィザードの杖くらいならいいかな?


取り出したのはフォーススタッフ、ゲームではSTRがアップされる杖であった。

STRとは物理攻撃力。

まぁ、ひ弱なウィズのSTRがちょっと上がったからってゲームの中じゃほぼ何も変わらなかったけどね。


ただ、イッヌと狩りに行くときは自分も叩きたいのでよく使っていた杖だった。

魔法で攻撃するとすぐにMP(魔力)が無くなってしまう。

かといって犬とかサモン(召喚獣)任せだと自分には経験値がほぼ入らないという、あのゲームは本当にウィズに厳しいゲームだったよ。


パーティ狩りの時は、前衛に混ざって杖でボカスカ殴ってたので、ゲームの血盟仲間からはよく「暴力ウィズ」と呼ばれていた。

失礼だな!

ちょっと経験値吸わせてもらってただけじゃないか。

それも微々たる経験値だ。



今回のPTは剣、盾、弓だから、もう1人前衛で“ボカスカ”がいてもいいかな?と思い、杖にしてみた。


「あれ?カオさん今日は弓じゃないんですね」

メリーがちょっとがっかりした感じで言った。


「うん このパーティは後衛としてメリーがいるし、俺は回復支援とタコ殴りで参加しようかなと思って」


「カオさん!回復魔法も使えるんですか!防御の支援魔法が使えて、回復魔法も使えて、テイマーでもあるなんて、カオさん すごいです!」


バルトロ、食いつきすぎだぞ。

俺にグイグイ寄ってきて目がギラギラと輝いていた。

ヒューゴもメリーも驚いていた。


「え?魔法使いってみんなそんなもんじゃないのか?」


俺が引き気味に言うと


「攻撃系、支援系、回復系、テイマー系などに分かれてるそうですよ。だいたい得意分野に特化して魔法習得していくって聞いたなー」

「そもそも魔法使い自体が貴重で早い段階で王都に持っていかれるって聞いたわね」

「そうだな、冒険者でPTに魔法使いがいるって結構贅沢だよな」

「PTランクがA、Bあたりで魔法使いを招くことが出来るかもしれませんが、C以下のPTは無理ですね」


「え?じゃあ回復とかどうしてるんだ?」


「回復薬を持っていくか薬草とかで自分で処置だな」


薬草ぉ?

戦ってる最中に葉っぱで傷を処理とか無理じゃねえか?


「冒険者はランクが上がると強い敵を相手にするようになるから、それだけ依頼料も買取も高くなります。それで回復薬を手に入れますね。中級、上級の回復薬になると目が飛び出るくらい高価になりますよ」


ゲームでは、ナイトは回復薬を300本は持ち、ガブ飲みしながら戦ってると聞いた事ある。

まぁPCゲームだから回復薬をセットしたショートカットキー(F4キー)を押しっぱなしで戦うらしいが。


実際の戦いで、まず300本の回復薬を腰にぶら下げるのは無理だし、

背中のリュックに入れて置いて戦いの最中にいちいち取出すのも無理。

現実ではせいぜい10本持てれば良い方か?

うわぁ……死にやすいな。現実世界こわっ。


「まぁ確かに、MPがすぐ無くなるからウィズである俺自身も回復薬は常備していたけど。だが! 怪我をしないのが大前提で!擦り傷くらいなら回復魔法で治すぞぉ てか、擦り傷以上は禁止な!」


「カオさん、回復魔法が使えるって知られたら、冒険者の間でカオさんの取り合いになりますよ」


「えぇ!面倒だな。しばらくは竜の慟哭に入れてくれ」


「俺たちは願ったりですよ!」

「しばらくなんて言わずにずっといて欲しい!」


「よし。んじゃ、狩ろ!狩ろ!」


その後、イノシシを発見。

メリーが弓を射て、バルトロが盾で抑え込み、ヒューゴが斬りかかった。

ヒューゴの合間に俺は杖で殴った。

殴ったら、死んだ。


あれ?イノシシ、結構弱い?

おっと、仲間のイノシシが二頭向かってくる。

メリーが弓を射た方をバルトロが盾で抑え込み、もう一頭が突っ込んできたので杖で思いっきりぶん殴った。

イノシシがひっくり返ったのですかさずヒューゴに指示を飛ばした。


「首にトドメ!」


同時にバルトロの方に移動してバルトロが抑え込んでるイノシシの頭に杖を振り下ろした。


ボカン!


「メリー!弓でトドメ一矢!」


「はいー」


ヒュン!バシュ!


見るとヒューゴもイノシシの首を落としたとこだった。

4人は背中合わせに他のイノシシの気配をさぐった。


シーン


うん。こないね。

とりあえずイノシシ三頭か。

銀貨3枚くらい?

よっしゃああ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る