第10話 マジかよ

事務室には、誰もいなかった。



え?え?


さっきまで100人くらがギャーギャー騒いでいたよな?


静まり返った事務室をボーゼンと見渡す。


あれ?

夢、なのか?

やっぱこれ……俺の…夢なのか?


失神して、目が覚めたら窓の外はジャングルで、

このフロアの上、23階から上が無くなってて、

このフロアの下、21階から下が無くなってて、

ステータス画面が見れて、

WIZ服着て、

魔法使えて、

それって全部俺の夢?


そんで、事務室にいたはずのみんなが、いなくなった。

フロアに俺ひとりきり。


結局これって、

俺の ただの夢だったって事?



はああああ・・・


そうだよな。

夢以外の何だっていうんだよ。

異世界とか魔法とか、

現実なわけがない。

気絶中に見てる俺の夢かぁ・・・



ボーっとその場に立ちすくんで数分、

誰もいない静かなフロアの自分の席に歩いて行った。

椅子にストンと腰掛けて、何気にステータス画面を開いた。


「あ! フレ登録!」


ステータスのフレンド画面、そこには三名の名前があった。


ナカマツアツコ

オオモリユイ

シマケンスケ


シマケンスケ、島健介は俺が所属する6係の係長の名前だ。

部長の命令で係長にフレンド申請したけど、なかなか承認されなかったので忘れていた。

いつの間にか(やっと)承認していたんだ。



どこから夢なのか、

そもそも夢なのか現実なのかもわからないけれど、フレンド画面にはさっき登録した三名が確かに載っていた。


何でみんなが突然フロアから消えたのかは謎だけど、このわからない世界に職場ごとやってきた夢か現実は、まだ続いているわけだ。


微妙にホッとしながら、中松さんと大森さんに念話を飛ばしてみた。



『中松さん、大森さん、今どこですか?西の事務室にみんながいないけど、別の場所に移動して集合とかしてる?』


すると慌てた感じで二人が念話を返してきた。


『え?鹿野さん、どこから念話してるの?集合というか移動させられている中にいないの?』


『鹿野さん、事務室にいなかったんですか?!』


『うん、ちょっと資料庫に行ってた。戻ったら誰もいなくてビックリしたよ。てか、移動って何よ?皆んなどこにいるんだ?』


『今、みんな森の中を走ってますよ』


ふぁ?

もりを???

走ってる?


何で?

健康のためのジョギング?


『全員でこの森を脱出する事になって』


森を脱出って何のゲームだよ、

どんな急展開なんだ、この夢。



『突然変な人達が来て、変っていうか中世ヨーロッパの騎士みたいな人達が来て、すぐにここを出て森を脱出しないと危険だって』


『その人達、剣とか持ってて大声で命が惜しければ急げって怒鳴って。部長が全員従うようにって指示して』


ふたりが慌てたように念話を飛ばしてくる。


『なるほど〜(よくわからんが)それで現在森を走っていると』


『部長が各係長に人数点呼の指示もしてたから、まさか鹿野さんいなかったなんて』


『ごめんなさい!みんな慌ててそこを出されたから、気がつきませんでした!』


『どうしよ〜〜鹿野さん』


『も、戻って助けに‥‥』


『あ、だいじょぶ、大丈夫だから落ち着いて。ふたりはみんなからはぐれないようにして。とりあえず係長にメールしてみる。また念話する』


いったんふたりとの念話を切ったあと係長にメールを入れた。



ーーーー

島係長


鹿野です

資料庫から戻ったら誰もしませんでした

どうしたらよいですか

指示お願いします

ーーーー



5分待った。

10分待った。

返事がこない。


クソ係長、バックれてやがるな!

既読スルーかよ。


部長が「人数の点呼」と言ったのに、派遣を人数に入れ忘れて出発したもんだから、今さら言えない感じか。

再度係長にメールをした。



ーーーー

島係長

すみません

まだ事務室にいるんですが どうしたらいいですか?

ーーーー



どうもしてもらえない事は100%わかっていた。


普段の仕事でも、困って相談した事は、解決どころか逆に事態が悪化する指示を出してくる。(わざとかよと思ったりもした)

そして最後は俺が悪者になり責任をとらされるのだ。

係長の島はそういうやつだった。


わかってたけど。

そういうやつだってわかっていたけど、こんなわけのわからない状態にもかかわらず、ひとり置き去りにした上、無視をするその神経にイラっときた。


夢だかなんだかわからないけどひとりにされて心細くないわけがない。

っくそ!


まぁ、島係長は置いておいて、中松さん達は心配してると思うのでメールしておこう。

と思ったナイスなタイミングで中松さんから念話がきた。


『鹿野さ〜ん、ごめんなさい。 どうしようどうしよう。周りに鹿野さん置いて来ちゃったこと話したんだけど、みんな、どうにもならないでしょ!ってー』


あっはは、やっぱりなぁ。


『うんうん。わかってる。とりあえず状況だけ詳しく教えてほしいかな。剣持ってる人達ってどんな事言ってた?悪者チック?それとも味方っぽい?』


『えーと、突然南の非常ドアから入って来て、ほら電気止まってたから、非常口のロックが解除されてて、そこから入って来たー。で 、ここは危ないから今すぐ森から脱出するぞってー』


『その人達って何人くらい?日本語?日本人?』


『あれ?そういえば見た目は外国人ー?でも日本語に聞こえる???

日本語じゃないけど日本語?あれれ?』


言語が理解できるって異世界転移あるあるだな。



『何人?』


『10人以上いたと思う。今、私達100人をその人たちがバラバラと囲んで森を移動中ー』


『何か言ってた?危険な理由とか』


『この森は日が暮れると危険だからその前に森を抜けるとか。あと、何かの神託がどうとか私達を町まで連れて行くとか』



ふーむ、これがファンタジー小説だとして

俺たちが森に転移

国が召喚したのかな?

けど何故か森にでちゃった?

で、森から町まで騎士さん達が誘導してくれる

ってとこかな?



『とりあえず、今から追いかけても間に合いそうにないし、日が暮れると危険って話だから今夜はここに籠るわ』


『わかりました。気をつけてくださいね』


『ありがとう。あ、そだ!その騎士さんみたいな人達の中に女性はいる?』


『どうだろう?なんでですか?』


『いや、もし女性騎士さんがいたら、中松さん、妊娠中な事を言っておいた方がいいよ。馬とか馬車とかあったら乗せてもらえるかもしれないから。無理しないようにね』


『わーん、ありがとうございます。鹿野さーん』


『何かあったらお互い念話かメールで連絡し合おう』



中松さんとの念話を切ったところにメールが届いた。

島係長からのメールだった



ーーーー

自己責任です

集団行動がとれない人はその人が悪いです

ーーーー



あー、そうですか。

ハイハイ。

ワカリマシタ。


くそったれええええええ

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