第33話 実技試験

――筆記試験を終えたリト達が連れ出された場所は魔法学園の中心に存在する建物だった。魔法学園の地下には疑似的に作り出された「迷宮ダンジョン」が存在し、この迷宮には学園側が育成した魔物が解き放たれている。


今回の実技試験の内容は受験者が地下迷宮に入り込み、魔物を討伐した証を持ち帰れば合格と判断される。制限時間は1時間、もしも制限時間内に魔物を討伐できずに戻ってこれなかった場合は不合格となる。



「これからお前達は迷宮に挑んでもらう!!制限時間内に魔物を倒して戻ってくれば合格だ!!」

「ま、魔物だって!?」

「い、いきなり迷宮に入るなんて……」

「こんな事で怖気づくな!!魔法学園の上級生は授業の一環で迷宮に毎日挑んでるんだ!!」



試験でまさか迷宮内の魔物と戦わされるとは思っていなかった受験者は戸惑うが、魔物と戦うと聞いてもリトは焦らない。何故ならば彼は何年も前から試験の内容は把握していた。



(ここからファイナルドラゴンの物語が始まるんだ)



リトは自分ではなく、ファイナルドラゴンの主人公であるレノに視線を向けた。彼女は酷く緊張しており、上手く戦えるかどうか自信がない様子だった。



「ううっ……どきどきしてきた」

「……大丈夫だよ、レノなら合格できるよ」

「あ、ありがとう……お互いに頑張ろうね」



レノはリトの言葉を聞いて苦笑いを浮かべるが、リトは何があろうと彼女だけは合格させる事を誓う。もしもレノが試験に落ちた場合、ファイナルドラゴンの物語は始まらない。


最悪の場合は自分が落ちても彼女さえ受かれば十分であり、試験の間はリトはレノを陰ながら支える事に決めた。リトは今日ほど「忍者」の職業に就いていて良かったと思う。



(レノだけは何としても守らないと……)



何があろうとレノを守る事を考える中、ゴルドは生徒の一人一人に水晶玉を差し出す。その水晶玉はゲームでも見かけた代物であり、迷宮に挑む際には必ず支給される代物である。



「これからお前等に迷宮玉を渡す!!こいつは分かりやすく言えば迷宮の地図を表示する魔道具だ!!こいつがあれば道に迷う心配はないし、お前達が何処にいるのか教師おれも把握できる!!」



ゴルドは迷宮玉と呼ばれる魔道具を全員に手渡して使い方を教える。迷宮玉を使用すれば地図が表示され、現在の自分の位置と他に迷宮玉を所持する人間の位置も正確に把握できた。



「この迷宮玉は制限時間が常に表示されている!!時間を常に把握し、自分が倒せるだけの魔物を倒したら戻ってこい!!」

「あ、あの……もしも魔物を倒しても制限時間が過ぎるまでに戻ってこれなかったら失格なんですか?」

「当たり前だ……と、いいたい所だが今回は特別に魔物の討伐を果たせば合格と認めてやる!!但し、その場合は俺が担当するCクラスに強制加入になるがな!!」

「Cクラス?」



受験生はCクラスと聞かされて戸惑い、彼等にはどういう意味なのか分からなかった。だが、リトはゴルドの言葉の意味を理解していた。なぜならばファイナルドラゴンのゲームでは生徒には階級が存在する。


魔法学園では「Sクラス」「Aクラス」「Bクラス」「Cクラス」の4つに分かれており、Cクラスの場合は一番階級が低い(ちなみに生徒の7割近くがCクラスに属する)。


階級が低い場合は色々と不都合が多く、逆に階級が高い生徒の場合は利点が多い。例えば生徒は教師に申請すれば放課後や休日でも迷宮に挑む事ができるが、迷宮に挑める権利の優先順位は階級の高い生徒の方が優先される。だからゲームでは主人公を階級の高いクラスに配属した場合は色々と都合が良い。



(なるほど、やっぱり試験の結果で階級が分かれるのか。だけど、物語通りに進んだらレノはこの後……)



リトはレノが物語通りの行動を取った場合、彼女がどのクラスに配属するのかは理解していた。しかし、ここでリトが悩んだのはレノを物語通りの行動をさせるべきかだった。



(物語通りに進めばレノは勇者になれる。だけど、本当にそれでいいのか?物語の進行に固執し過ぎるのもまずい気がするけど……)



ゲームの物語通りに進めばレノを勇者になれるかもしれないが、そんなに上手く彼女を誘導できるのかレノは不安だった。だが、ここまで来たら覚悟を決めなければならず、リトはレノに話しかける。



「……絶対合格しようね」

「うん、そうだね……一緒に頑張ろう」

「よし、それじゃあ迷宮の扉を開くぞ!!」



ゴルドは建物の扉を開いた途端、扉の内側は真っ黒な空間が広がっていた。灯りがないから建物内が暗くて見えないというわけではなく、扉の内側は暗黒空間が広がっていた。


扉の先は漆黒の空間が広がり、ここを通れば魔法学園の地下に広がる迷宮に一瞬で移動する。ゴルドは開け放たれた扉の前に立ち、不敵な笑みを浮かべながら全員に中に入るように促す。



「どうした?怖気づいたのか?さあ、早く入れ!!」

「こ、これが迷宮の出入口……」

「噂には聞いていたが、本当に真っ黒なんだな……」

「よ、よし!!行くぞ!!」



受験生は覚悟を決めて迷宮の出入口に近付くと、漆黒の空間の中に踏み入れる。その様子を見たリトはレノに振り返り、彼女は迷宮の出入口を見て固まっていた。



「…………」

「レノ?」

「あ、え、えっと……ごめん、ちょっと驚いちゃって」



初めて見る迷宮の出入口にレノは呆然としたが、彼女はリトに声をかけられて正気に戻る。そんなレノを見てリトは心配するが、まずは彼女を勇気づけるために自分が先に歩く。



「僕が先に行くよ。レノはその後に入ってくれる?」

「え?うん、いいけど……」

「……必ず、に入ってきてね」

「わ、分かった……一緒に頑張ろうね」



迷宮に入る前にリトは事前にレノに注意を促し、彼女が入るのは自分の次だと約束させる。どうしてレノはそんな事を言ったのかというと、これからレノの起きる出来事を考えたらどうしても彼女の先に入らなければならなかった。




――ゴルドは説明しなかったが、実は迷宮に挑む際は開始位置は毎回ランダムに転移される。つまり、先に入った受験生は一人一人が別の場所に飛ばされている可能性が高く、仮にリトはレノと一緒に入っても二人は別の場所に転移する事は確定していた。




リトがレノよりも先に入る理由は自分が先に転移し、その後は水晶玉を利用して地図を確認しておけば次に入ってくる人間の位置を正確に掴む事ができる。水晶玉は他の水晶玉を所有する生徒の居場所も確認できるため、リトはそれを利用してレノが転移する場所を把握するために彼女に自分の後に入るように約束させた。


先にレノに入られてしまったらこの方法は使えず、水晶玉で他の生徒の反応を確認して一人ずつ探し回る羽目になってしまう。それだけは阻止するためにレノは自分が先に挑む事にしかない。



「それじゃあ、先に行くから待ってるよ」

「うん、一緒に合格しようね!!」

「……そうだね」



リトは迷宮の出入口の前でレノに振り返り、彼女と約束を行う。その約束が果たせるかどうかはリトは自信はないが、何としても彼女のためにリトは迷宮に挑む。

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