第17話 新しい職業は……
「事前に注意しておくが、変更の儀式を受けたとしても望み通りの職業に就ける保証はない。それと元の職業に戻る事は二度とできない事を忘れないでくれ」
「はい、分かっています」
リトは教会の地下にある広間に移動させられ、広間の中央には複雑な紋様が描かれた魔法陣が刻まれていた。魔法陣の上にリトは移動すると、魔法陣の近くに設置されている台座の前に神父は立つ。
ファイナルドラゴンのゲームでは儀式を受ける際の出来事は省略されていたが、実際の儀式では魔法陣の上に立って神父が特別な呪文を唱え、リトの身体は造り替えられるらしい。
「これから君の身体は新しく生まれ変わる。新しい肉体を手に入れたら君のレベルはまた1に下がってしまうが、問題はないか?」
「大丈夫です……もう覚悟はできています」
「そうか……ならば始めよう」
神父はリトに最後の確認を行うと、彼に対してリトは冷や汗を流しながら頷く。ゲームではよく行っていた儀式だが、いざ自分が受けるとなると緊張してしまう。
「神よ、どうかこの者に新たな肉体と生を与えてくだされ!!」
「ぐうっ!?」
神父が呪文を唱えると魔法陣に光が迸り、リトの身体は金縛りにあったように動かなくなった。やがてリトの身体は光の粒に変化していき、数秒後には肉体が崩壊した。
肉体全てが光の粒へと変化すると、神父は台座に十字架を押し当てる。すると光の粒が再び集まり始め、元のリトの姿へと戻っていく。
「転職完了!!」
「うわぁっ!?」
最後に神父が言葉を継げると、リトは魔法陣の上で尻餅を着く。彼は自分の両手を確認し、その後は身体のあちこちを触って肉体が元に戻った事を確認して安堵する。
(も、戻った……一瞬、死んだかと思った)
覚悟していたとはいえ、肉体が光の粒と化して分解された時はリトは自分が死んでしまったのかと考えた。だが、彼の肉体は見事に再生され、これで彼は儀式を終えた。
「変更の儀式は終了した……これでもう君は村人じゃなくなった」
「あ、ありがとうございます……」
「新しい身体は馴染むまでしばらくは時間が掛かるだろう。だが、すぐに慣れるから安心したまえ」
現在のリトの肉体は先ほどまでと殆ど外見は変わらないが、リトは掌を握りしめると少しだけ違和感を感じた。今までの自分の身体と明らかに感覚が異なり、この時にリトは自分の肌が妙に綺麗な事に気が付く。
(あれ?この間、ゴブリンに傷つけられた傷が消えている……)
少し前にリトはゴブリンとの戦闘で傷を負い、大した怪我ではなかったので簡単な治療を済ませて放置していたのだが、儀式を受ける前にあったはずの傷跡が完全に消えていた。
現在のリトの肉体は先ほどまでの職業「村人」の肉体ではなく、新しい職業に相応しい肉体へと造り替えるため、身体全身を一度分解して新たに造り直された。今のリトはもう村人ではなくなり、新しい職業の人間になっているはずだった。
(ゲームでは職業を選択できたけど、やっぱりこの世界では自分の職業は決められないのか)
薄々とは勘付いていたがリトは自分の職業が決められなかった事に落胆し、神父から事前に自分が就きたい職業になれる保証はないと言われていた。だから覚悟はしていたが、もしかしたらゲームのように自分がなりたい職業を選択できるのではないかと内心期待していた。しかし、予想通りに職業を選択する事はできなかった。
(職業を選べなかったのは仕方ないか……まあ、でもこれで僕はもう村人じゃないんだ)
職業を選択できなかったのは残念でならないが、遂にリトは念願の別の職業になる事はできた。もう彼は「村人」ではなく、新しい職業を身に着けているはずだった。それを確かめるためにリトは家に帰ってカイセキメガネで確認しようと考えると、神父が彼に水晶製の板を差し出す。
「リト君、これを」
「え?な、何ですかこれ?」
「それは水晶板という魔道具だ。これに触れれば自分の職業と能力値を確認する事ができる」
「……え、えええええっ!?」
「ど、どうしたんだい急に!?」
神父の言葉を聞いてリトは衝撃の表情を浮かべ、まさかカイセキメガネ以外に能力値を確認する魔道具があるなど知らなかった。
(何だよ水晶板って……そんなのゲームには出てこなかったぞ!?)
ゲームの中では水晶板なる
カイセキメガネの場合は自分の顔を鏡で見ながら解析の能力を発動させる必要があったが、神父が用意した水晶板の場合は掌で触れるだけで水晶製の板に光の文章が浮き上がり、自分の職業と能力値を正確に把握できた。
――能力値――
個体名:リト
種族:人間
性別:雄
適性職業:料理人
レベル:1
状態:普通
《習得技能》
・成長――経験値が倍増する
・調理――あらゆる食材を適確に調理できる
―――――――
水晶板に触れた途端に表示された文章を確認し、リトは驚愕の表情を浮かべた。神父の言う通りに触っただけで本当に能力値の確認ができたが、以前までと違って新しく「習得技能」という項目が追加されていた。
この習得技能とは自分が習得している技能を表示させているらしく、村人だった時はまだなかった。これは村人の技能の「成長」が隠し技能であるため、ゲーム初見のプレイヤーは間違いなく騙されてしまう。
(最初にゲームを始めた頃、友達が村人の職業のキャラを育てていると聞いた時は不思議に思ったな。レベルを上げても大して強くなれないのに村人を育てるなんておかしいと思ったけど、実は他のキャラより成長が早い技能があるなんて聞かされた時は一番驚いたな)
リトはゲームをしていた時は職業が村人のキャラクターは弱すぎて当てにしなかったが、友達の話を聞いて村人には隠れた能力がある事を知り、それは村人のキャラクターを転職させた時に判明するという。
実はファイナルドラゴンのゲームでは転職を行う際、そのキャラクターが限界レベルまで到達していた場合は前の職業の技能を引き継ぐ事ができる。だから村人の場合は限界レベルまで上げて転職した場合、隠し技能の「成長」が手に入る。
無事にリトは村人の「成長」の技能を引き継いだ状態で転職に成功したが、問題なのは新しく覚えた職業だった。彼は自分の職業の項目を確認し、よりにもよって村人と同様に癖のある職業になってしまった。
「職業……料理人?」
「こ、これは……その、何と言えばいいのか」
料理人の職業となったリトに神父は何とも言えない表情を浮かべ、同情するように彼の肩に手を置く。料理人の職業は村人と同様に戦闘向けの職業ではなく、折角転職したというのにリトはまたもや一癖も二癖もある職業に目覚めてしまう――
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