第15話 限界レベル

「喰らえっ!!」

「「ギャウッ!?」」



リトが取り出したのはドルトンから受け取った腐敗石と呼ばれる特殊な鉱石の粉末が入った小袋であり、その中身をゴブリンにぶちまけた。その結果、ゴブリンはその場で鼻を抑えながら苦しみもがく。



「「ギャアアアッ!?」」

「うわっ……」



腐敗石は人間には大した臭いではないが、魔物の場合は大抵は鋭い嗅覚を誇るため、腐敗石の粉末を浴びたゴブリンは悲鳴を上げて倒れ込む。彼等にとっては腐敗石は凄まじい悪臭を放ち、これをあびればどんなに強い魔物だろうと正常な判断はできない。


ゲームでは腐敗石は本来は戦闘から逃げるために利用される道具だが、リトは敢えて戦闘の道具として利用した。その結果、ゴブリンの動きを足止めする事に成功し、その間に彼は止めを刺す。



「喰らえっ!!」

「ギャウッ!?」

「グギャッ!?」



倒れたゴブリン達にリトは容赦なく剣を振り下ろし、確実に急所を貫いて止めを刺す。すると経験値を得てリトは身体が熱くなる感覚を覚え、どんどんとレベルが上がっていく。



(やっぱり一角兎と比べてゴブリンの方が経験値が多い……これなら一気にレベルを上げられる!!)



レベルが上がる度にリトは身体能力が高まる感覚を覚え、どんどんとゴブリンの動きが見切れるようになった。戦闘に慣れてきたのか先ほどまでは緊張感で身体が上手く動かせなかったが、今は絶好調で戦う事ができた。



「よし、その調子だ!!俺に遠慮せずに倒せよ!!」

「はい!!」

『ギィイッ……!?』



ドルトンも手斧を振り回してゴブリンを牽制し、その間にリトは次々とゴブリンを倒して行く――






――それからしばらくした後、リトとドルトンの周りには何十体のゴブリンの死骸が倒れていた。最初の群れを撃退した後、他のゴブリンが現れて次々と襲われた。リトはドルトンと共に戦い続け、ようやくゴブリンが現れなくなった時には疲労困憊の状態で地面に倒れ込む。



「はあっ、はあっ……」

「ふうっ……流石にこの数はきつかったな。だが、よくやったな」

「あ、ありがとうございます……」



ドルトンも流石に疲れたのか額の汗を拭い、倒れているリトに手を伸ばす。リトはその手を取って何とか立ち上がると、ドルトンは手鏡を渡す。



「さあ、自分がどれくらいレベルを上げたのか確かめてみろ」

「は、はい……」



カイセキメガネと手鏡を利用してリトは自分のステータスを確認する。すると、予想外の結果が表示された。




――能力値――


個体名:リト


種族:人間


性別:雄


適性職業:村人


レベル:15


状態:普通



―――――――




レベルが一気に15まで上がっており、ほんの数日でリトは限界レベルの半分まで到達した。まさか一気に10レベルまで上昇するとは思っていなかったが、この調子で行けば限界レベルまで近いうちに到達できると思われた。



「凄い……15レベルまで上がってます!!」

「15だと!?そんなに上がっていたのか……お前の父親がレベル15になるまで一週間はかかったぞ」

「え、そうなんですか?」



リトの父親はレベルを上げるのにかなり苦労したらしく、ドルトンによれば一週間も費やしてレベルを15まで上げたらしい。どうして彼がここまで苦労したのかというと、その理由は魔物との戦闘に慣れていなかったからだと説明する。



「大抵の人間は最初の魔物との戦いで怯える事が多いんだよ。お前の親父も最初は威勢良かったが、初めて魔物を倒した時は大人しくなった。まあ、当然と言えば当然だがな」

「どうしてですか?」

「お前な……魔物との戦いは命がけなんだぞ?下手をしたら自分が殺されていたかもしれないんだ。そんな体験をすれば普通なら次に魔物と戦う事に躊躇するだろ……そういえばお前は怖くないのか?」

「え?えっと……」



普通の人間ならば魔物との戦闘で危機感を抱き、次からの戦闘では自分の命を奪われるかもしれないという恐怖を抱きながら戦わなければならない。だからどんなに気が強い人間でも二度目の戦闘からは恐怖心を抱くのは当たり前なのだが、リトの場合は割と早くに恐怖心を克服していた。


リトは魔物と戦う時は殺されるかもしれないという怖さも感じているが、それでも危険を冒さなければ魔物を倒せないという強い覚悟を抱いている。最初の内は不安と恐怖でまともに戦えるのか自信はなかったが、彼は他の人間と違ってこの世界の魔物には詳しい。



(ゲームで戦っていたせいか、敵の動きが何となく分かるんだよな……)



ゲームで魔物がどのように動いて戦うのか把握していたお陰か、リトは戦闘中も相手の動きを観察して次にどのように動くのか何となく分かっていた。特にゴブリンなどはゲームの最初の頃にレベル上げの目的で何百匹も倒しており、そのお陰か割とゴブリンに対する恐怖心はすぐになくなってしまった。



「怖いと言えば怖いんですけど、慣れちゃったと言うか……今はあんまり怖くないです」

「な、慣れただと?お前……将来は大物になりそうだな」

「ど、どうも」



リトの言葉にドルトンは彼が嘘を吐いていない事を悟り、魔物との戦闘で既に覚悟を固めて戦っている彼に感心する。



(こいつは本当に大物に成長するかもしれねえ……流石はあいつとアンの子供だな)



ドルトンはリトの将来を楽しみに思うが、流石に今日はこれ以上の戦闘はできないと判断し、彼を連れて帰る事にした。



「よし、帰るぞ。そろそろ戻らないとな……おっと、帰る前に身体と服は洗っておけよ」

「え?」

「お前、臭いぞ……腐敗石を使っただろ?そんな状態で帰ったらアンに怒鳴られるぞ」

「あっ……」



リトはドルトンの言葉を聞いて自分の服を確認し、酷く汚れていた事に気が付く。戦闘に夢中で気づかなかったが、彼の衣服は魔物の返り血と腐敗石の粉末が降りかかっており、とても臭かった。


結局はリトは村に戻るとドルトンの家の風呂を貸して貰い、新しい服を用意して貰った。今後は腐敗石の利用を控える様に注意され、リトはまたもやドルトンに貸しを作ってしまった――






――ゴブリン狩りから一週間後、リトは順調に魔物を倒してレベルを上げていく。村人の「成長」の技能のお陰で彼は驚異的な速さで遂に限界レベルまで到達した。



「よし!!レベル30だ!!」



リトはカイセキメガネを使用し、自分のステータスを確認して喜ぶ。限界レベルに到達した事で現在の彼のステータスに変化が起きる。




――能力値――


個体名:リト


種族:人間


性別:雄


適性職業:村人


レベル:30(限界)


状態:普通



―――――――




限界レベルまで到達するとレベルの項目に「限界」という文字が表示され、これでリトは職業を変更する資格を得られた。後は教会に出向いて儀式を受けるだけであり、遂にリトは村人以外の職業に就ける。

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