第23話 ~Happy Halloween Night~ 3/3
「ありがとう、美七海さん。お気持ちだけ頂いておくわ」
「そうそう。やっくんから聞いたでしょ?だから私たち、実物は食べられないんだよね。でも、なんていうか、味わうことはできるから。これも、ほんと美味しいよ!」
泰史の用意した魔女の衣装のあまりに短いスカートの裾を気にしながらも、焼いて来たパンプキンパイを切り分ける美七海に、麻美と亜美が言う。
「えっ?」
とまどうように泰史を見ると、ヴァンパイア泰史は困ったように頬をポリポリと人差し指で掻きながら頷いた。
「こうやって、私たちのために用意してくれた飲み物や食べ物は、味わうことができるのよ、本当に。だから、ありがとう、美七海さん。それから、何のお手伝いもできなくて、ごめんなさいね」
「私たち、やりたくてもできないんだ。実態のない幽霊だから」
「まぁ、亜美の場合はやってもお茶を入れるくらいでしょうけれど」
「亜美姉は、お茶淹れるのだけは上手かったもんなぁ」
「……あまり褒められている気がしないんだけど?」
目の前にいる、亜美と麻美。
そして、亜美と麻美と話をしている泰史。
死んだ人間の魂と、生きている人間。
やはり、亜美と麻美が亡くなっているというのは泰史の冗談なのではないかと思い始めた美七海の前で、突然亜美の姿が消えた。
まるで、大掛かりなマジックショーでも見ているかのように。
「えっ⁉」
「Trick or Blieve?」
「きゃっ!」
いつの間にか背後に移動していた亜美が、美七海の短いスカートの裾をハラリとめくる。
「亜美姉、それ、セクハラっ!」
「羨ましいか、やっくん」
「うふふ……まるで、魔女がゾンビに襲われているみたいねぇ」
ドロリと皮膚が溶けたようなフェイスペイントを施している亜美が、ニヤニヤと笑いながら泰史を煽るように美七海のスカートの裾を再度チラリとめくる。
亜美と美七海の間には、料理の乗ったテーブルがある。通常の人間ならば、こんなに一瞬で移動することなど不可能だ。
スカートの裾を抑えながら美七海は、やはり亜美も麻美もこの世の者ではない存在なのだと信じることにした。
「Blieve」
美七海の呟きに、亜美も麻美も嬉しそうに微笑んだような気がした。
「美七海ちゃん、今日はありがとう」
騒ぐだけ騒ぎ、「バイバイ」「さようなら」と言うとあっという間に姿を消した亜美と麻美。もう、玄関から出入りすることすらやめてしまったようだ。
静かになった部屋の中、魔女姿のままの美七海の隣に移動すると、泰史は美七海の体を引き寄せ、大きく開いた胸元にキスを一つ落とした。
「それから、姉ちゃんたちのこと、受け入れてくれてありがとう」
そして、首筋を辿るように唇を這わせ、頬にもう一つキスを落とす。
「あと、俺と別れないでくれて、本当にありがとう」
そう言うと、想いの丈を伝えるように、泰史は美七海の唇にそっと口づけた。
ソロリと短いスカートの裾に伸びる手をパシリと叩き、美七海は苦笑する。
「何、言ってるのよ。私、お姉さまたちの事、好きよ。泰史の事は、もっと好き。別れる訳、無いじゃない。最初はちょっと驚いたけど」
「もう一回言って」
「えっ?最初はちょっと驚いた」
「そこじゃなくて!」
「分かれる訳、無いじゃない?」
「もうちょっと前!」
「……好きよ、泰史。大好き」
甘えるように言葉を強請る泰史に、美七海は欲しがっていた言葉を伝える。
「大好き」
「ありがとう、美七海ちゃん」
安心したように微笑み、泰史は美七海の体を抱き寄せ、再度口づけた。
片手は再び美七海のスカートの裾に伸びていたが、構わずに美七海は泰史の首に両腕を回す。
「ヴァンパイア泰史、可愛い魔女っ子美七海ちゃんをいただきます♪」
「もうっ……」
ガブリと首筋にかぶりつく真似をし、泰史が軽く美七海の皮膚を吸い上げる。
その刺激に美七海はうっとりと目を閉じ、力を抜いて身を委ねたのだった。
~Happy Halloween Night~
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