第8話初しずかさん

夏休み初週の図書当番の日。

朝、目覚めると身支度を整えて学校を目指した。

本日の当番の相手はいつもの彼だった。

「そう言えば中川とはどうなったんだ?なんか気まずい感じ?」

「どうかな。関係が戻ったっていうか…たしかに少し気まずくなったかも」

「どうして?」

「んん〜。何か僕がミスった感じかな」

「ふぅ〜ん。鈍感なフリが悪い方向にいったか」

核心を突かれるような言葉に僕は何とも言えない表情を浮かべると首を左右に振った。

「むしろ良い方向にいったのかも。学校の空気を知らないフリして告白したけど…。その結果、みやこの内面をもっと知れて諦めが着いたって感じだな」

「そっか。付き合ってみないと相手の本当のところってわからないものだよな。告白しただけで内面を深く知れたのは幼馴染だからだと思うけど…。とにかく諦めが着いたのなら良かったじゃん」

それに頷いて応えると仕事を進めていく。

夏休み中に図書室を訪れる生徒はかなり少なく、本日はまさに無人状態だった。

と、そこに図書室のドアが開く音が聞こえてきて僕らはそこに目を向けた。

「居た。学くん。当番は何時まで?」

そこに居たのは天井姉妹の次女しずかだった。

「しずかさん。13時までです。その後は司書の先生が来てくれるので」

「そうなんだ。それまでここに居ても良い?一緒に帰ろ?」

「いいですよ。しずかさんも委員会だったんですか?」

僕の言葉を耳にした彼女は首を左右に振る。

「そうじゃなくて。家に行ってみたら居なかったから委員会かな?って思って来てみたんだ」

「そうなんですね…。のどかさんとさなえちゃんは?」

「のどかちゃんは家事。さなえちゃんは家の手伝いだよ」

「なるほど…」

そこまで会話を進めると隣で作業をしていた彼に脇を小突かれる。

「俺、帰ってもいいか?」

その何とも言えない言葉に無言で頷くと彼は喜んでカバンを持って席を立つ。

「悪い。家で妹が一人で留守番してるんだ。先帰るから。後はよろしく」

彼はわざとらしく言い訳じみたことを口にするとそのまま図書室を後にする。

「気を遣わせちゃったかな?」

しずかは気まずそうに微笑むと僕の隣の席に腰掛けた。

「私のことは気にしないで仕事してていいからね?」

それに頷くと残りの仕事を丁寧に進めていく。

しずかは隣の席で有名な小説を読んでおりその姿は異様に様になっていた。

小一時間ほど作業を進めて後数十分で当番が終わる13時を迎える頃。

司書の先生は早めに図書室に顔を出した。

「那谷くん一人?古川くんは?」

一緒に当番だった彼の名前は古川修ふるかわおさむ

同学年の友達である。

「家で妹が一人留守番をしているらしいので先に帰らせました」

「そう。二人がそれで納得しているなら良いわ。それで誰も居ない図書室で逢引?」

司書の先生は少しだけいたずらっぽい笑みを浮かべると誂うような一言を口にする。

「そんなんじゃないですよ。誂わないでください」

こちらも軽く微笑むとそんな言葉を口にする。

「じゃあ今日は特別よ。早く帰らせてあげる。そのままデートでもしてきたら?」

司書の先生は追撃で誂う一言を口にする。

それに少しだけ苦々しい表情を浮かべると僕らは別れの挨拶を口にして図書室を後にする。

二人揃って学校を後にするとしずかは唐突に口を開く。

「カフェ行こ?ふわふわのかき氷を出すカフェがあって。お昼もそこで食べていこうよ」

「わかった。ふわふわのかき氷食べたことないわ」

「ホント?果物とかもゴロゴロ乗ってて美味しいよ。私はそれだけでお腹いっぱいになっちゃうかも」

「ご飯系半分あげるけど?」

「いいの?じゃあそうする♡」

適当に会話を進めると僕らはカフェに到着する。

席に案内されると僕らはオムライスを一つとマンゴーのかき氷といちごのかき氷を注文する。

「オムライスもふわふわみたいだよ」

しずかは軽く微笑むとメニューの写真を指さした。

「ホントだ」

僕もつられて笑うと二人の雰囲気はかなりいいものと思われた。

そこから他愛のない会話を繰り返すと十数分後に注文したメニューが運ばれてきて僕らは食事を開始する。

二つのスプーンでオムライスを半分個すると遅れて運ばれてきたかき氷を食す。

「本当にふわふわだね。思った以上だった」

驚きのあまり早めに食してしまい、また来たいと思えるカフェだと感じた。

「また来たいね」

どちらからともなくそんな言葉を口にして会計に向う。

本日は割り勘で会計を済ませると僕らは揃って帰路に着く。

「のどかちゃんからゲーム弱いって聞いたけど?私も一緒に遊びたい」

それに頷くと自宅に向かいリビングでゲームをして過ごす。

しずかはのどかほど強くなくて実力はイーブンだと思われた。

「わかった。じゃあ負けた方に罰ゲームで勝負しようよ」

何度か勝負をするとしずかは提案をしてきて僕もそれを了承した。

「罰ゲームは先に決めておこ」

なんとなしに僕がそんな言葉を口にするとしずかは妖しく微笑んだ。

「じゃあ私が勝ったらキスしてもらう♡」

「え…それじゃあご褒美じゃない?」

「いいから♡学くんが勝ったら何してほしい?」

それ以上の罰ゲームは頭の中に浮かんでいたのだが…。

「じゃあ僕もそれで…」

どっちにしろご褒美になるゲームは始まっていき僕らのふわふわした闘いは始まっていく。

どちらも手を抜くわけではないがなかなか決め手に欠ける。

そうこうしているうちにどうにか僕が勝ってしまい…。

「じゃあ私が負けたからキスしてあげるね♡」

ゴクリとつばを飲み込むと僕らは向かい合ってその時を待った。

そして唇が触れて…。

そのまましずかは舌までねじ込んでくる。

濃厚なキスが一区切り着くと僕らはそのまま流れで関係を持ちたいと思ってしまう。

だがそんな時に限って母親は帰ってくるというもので…。

「ただいま〜。お客さん来てるの?」

玄関を開けた母親はしずかの靴を見て呑気な言葉を口にしてリビングに向かって来る。

「お邪魔しています」

しずかは丁寧に挨拶を口にすると深く頭を下げた。

「あら。可愛らしいお客さん。ゲームしてたの?」

母親は久しぶりに早めに帰宅出来たためスーパーの買い物袋を下げていた。

「夕飯も食べていく?」

みやこ以外の来客にテンションが上っている母親はそんな言葉を口にする。

「いえ。そこまでご迷惑をかけるわけにもいかないので。後日、手土産を持参しますのでその時にご相伴に預かってもよろしいですか?」

母親はその言葉に驚いたような表情を浮かべていた。

「これは丁寧に。そんな気を遣わないで。学のお友達ならいつでもいらしてくれて構わないからね。私達はあまり家に居ないかも知れないけれど学をよろしくね」

「はい。こちらこそよろしくお願い致します」

しずかは再び深く頭を下げるとカバンを持って別れの挨拶を口にした。

「お邪魔しました。また後日、姉妹揃ってお邪魔致します」

二人は別れの挨拶をお互いにする。

玄関の外までしずかを送っていくと僕らも別れの挨拶を口にした。

「次はあの続きもしようね♡」

彼女の言葉に照れくさくて顔を赤くすると頷いて応える。

しずかは手を降って帰路に着く。

それを確認したのかその人物は家から出てくる。

「また天井姉妹…いい加減にしなよ」

「みやこには関係ないだろ。またな」

素っ気なく答えると玄関に向う。

「ねぇ。私に興味なくなった?」

みやこは悲しそうな言葉を口にして僕に問いかける。

「幼馴染としては無くなってないよ。今までと変わらない」

「変わったじゃん。素っ気なくなった」

「それは天井姉妹といい感じだからな」

「なにそれ。女なら誰でもいいの?使い捨て?」

「そんな事は言ってない。それに天井姉妹はいい人達なんだ。付き合いやすい」

「あっそ。私は嫌な女だものね。じゃあもういいわ」

みやこはそれだけ言い残すと自宅に入っていく。

僕もそのまま自宅に入ると自室に向かい先程のしずかとの行為を思い出して悶々とするのであった。

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