第7話夏休み突入

一学期が終了して夏休みがやって来る。

成績の方は当然のように上位に食い込んでいて勉強の成果が出たというもの。

というよりも普段から真面目に授業を受けていれば問題なくクリアできる設定で作られたテストだった。

それに加えて勉強会の成果が出たのだろう。

思いの外、好成績で僕自身も驚かされた。

本日は夏休み初日ということで当然のように昼過ぎまで眠っていたかった。

それなのに…どうしてこうなったのやら…。

今朝、というよりも少し時を遡ると。

家のインターホンが鳴りスマホで時計を確認したところ11時過ぎだった。

(こんな朝から…)

居留守を決め込みたかったが、もしかしたら宅配便などの可能性もある。

それなので階下に向うとそのまま玄関を開けた。

そこに居たのは天井姉妹の長女のどかだった。

「先輩…一人ですか?」

「そうなの〜。さなえちゃんは家のお手伝いでしずかちゃんは委員会。私だけ暇してたから来ちゃった〜♡」

「先輩は家の手伝いをしなくて良いんですか?」

玄関でする話でもなかったのでのどかを家の中に招く。

「うん。私はお邪魔そうだったからね〜」

のどかの話もそこそこに彼女をリビングに招くと冷蔵庫から麦茶を取り出す。

「お邪魔?家の手伝いでですか?」

テーブルの上にコップを差し出すと対面のソファに腰掛ける。

「そう。私はのんびりしてるからね〜。家のことはさなえちゃんに任せることが多いかな〜」

「なるほどですね。姉妹ではさなえちゃんが一番しっかりものなんですか?」

妹の名前を耳にしたのどかは少しだけ膨れた表情を見せる。

「なんですか…?」

少し不安に思って尋ねてみるとのどかは自分のことを指さしていた。

「私は?」

そんな言葉が返ってきて分かってはいるが分からないふりをして軽く首を傾げた。

「先輩がどうしたんですか?」

その言葉を耳にしたのどかは明らかに見えるような態度で嘆息する。

「はぁ…私達にも鈍感見せなくて良いんだよ〜?今どき流行らないよ〜」

のどかの言葉を耳にして僕も軽く嘆息する。

「のどかさんって呼べば良いんですか?」

「それで良し♡」

のどかは何が嬉しいのか美しく微笑むと窓の外を眺めた。

「もうすぐお昼だけど。何か食べたの?」

「今起きたばかりですよ。これからお昼のことを考えるところです」

僕の言葉を耳にしたのどかは嬉しそうに手を叩くと立ち上がる。

「じゃあ食べに行こうよ!近くに気になる洋食屋見つけたの!カレー食べたい!」

無邪気にはしゃぐのどかを微笑ましく思うと一つ頷いて身支度を整える。

そこから近所の洋食屋まで向うと二人揃って暑い中カレーを食す。

「そう言えば世継ぎを残したいとか言ってましたけど。それと天井家のお屋敷の様なご実家。何か関係があるんですか?」

食事中の世間話程度にしたつもりだったのだが…。

のどかは一度食事の手を止めた。

「家がお金持ちってだけの話だよ。さなえちゃんは器用だし大人受けもいいから家のお手伝いを良くするの。私は姉なのに大人との付き合いとか上手じゃないから」

いつもはのんびりと話すのどかだが家の話をするときだけは少しだけ陰のある口調だったのが印象的だった。

「大人になったら嫌でもそういう付き合いするようになるものなんじゃないですか?よくわかりませんけど…」

僕の言葉を最後まで聞きたがらなかったのどかはそこで俯こうとする。

「だから。学生の内は大人との付き合いなんて上手じゃなくていいじゃないですか」

適当に思ったことを口にするとのどかは嬉しそうに微笑む。

「ありがと〜♡優しいんだね♡」

それに何とも言えない表情を浮かべると僕らは昼食を終えて会計に向う。

「ここはお姉さんが奢ってあげよう〜」

「いや、悪いですよ」

「いいんだよ♡さっきのお礼」

「そんなつもりで言ったんじゃないんですけどね…」

「いいからいいから〜」

のどかは嬉しそうな表情を崩さずに会計を済ませると僕らは帰路に着く。

「ごちそうさまでした」

感謝を告げて二人揃って自宅の方に歩いて向うと…。

件の要注意人物は姿を現す。

「学…また天井姉妹といちゃついてんの?こんな街中でヤメな?悪目立ちしてるよ」

みやこは僕らを見つけると怪訝な表情で相対した。

「いちゃついてなんかいない。変な絡み方するなよ…」

「何その言い方?助言してるんだけど?」

僕らのやり取りを見ていたのどかは話に割って入るとみやこを瞬時に蹴散らした。

「あなたは終わった女なんでしょ〜?もう関係ないんだから今後絡んでこないでね〜」

学校での天井姉妹の影響力を知っているみやこは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるとその場から立ち去っていく。

「ごめんね?幼馴染に酷いこと言っちゃって…」

のどかは先程の発言を撤回するわけではなく謝罪をする。

「僕の方こそごめんなさい。気分悪くさせてしまって…」

何とも言えない謝罪を口にするとそのまま二人して帰宅する。

帰宅してからはリビングでゲームをして過ごすのだが…。

思いの外どのゲームでものどかが強すぎた。

いくつかのタイトルを遊び、勝てないことに気付いたときにはコントローラーを机に置いていた。

そんな少し情けない気持ちにもなる夏休み初日の出来事なのであった。

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