第3話頑張ればご褒美♡
天井家に行くかどうか答えを出せずに迎えてしまう土曜日。
あの日以降天井姉妹が誘ってくるようなことは特になかった。
それで安心していたと言うか気を抜いていたと言うか…。
とにかく僕はこのままやり過ごせる。
そんな風に楽観視していたのかもしれない。
朝、目を覚ますと階下のリビングに降りる。
朝食を軽く食べて身支度を整える。
時計の針が11時を指した辺りで家のチャイムが鳴った。
ちなみにだが両親は土曜日も仕事に向かうワーカーホリックである。
玄関に向かいドアを開けると…。
そこには天井姉妹が三人揃って僕を待っていた。
「迎えに来たよ♡」
しずかが先んじて口を開き、さなえが僕の手を引く。
「行きましょう!センパイ♡」
「いや…ちょっ…!」
泊まりに行く支度など全く整っていない。
荷物も何もなければ持っているものはスマホぐらいだった。
「大丈夫よ〜♡天井家には何でも揃っているから〜♡」
のどかの言葉で僕は何処か納得をしてさなえに手を引かれたまま外に向う。
「鍵はこれかな?閉めていくね」
しずかは玄関の戸棚に置いてある鍵を手にすると手際よく閉めてそれをポストにしまった。
家の外には一台の車が止まっており僕らはそれに乗り込むことが予想された。
「さなえちゃん!引っ張らないで大丈夫だよ!自分で歩ける!」
勢いよく手を引かれて上手く歩けずにいると情けない言葉を口にする。
「いいじゃないですか♡」
強引なさなえに引かれたまま外に出ると…。
そこに丁度外に出てきたであろうみやこと鉢合わせる。
「朝から何してるわけ?」
みやこは冷たい視線を僕に送ってくる。
何とも言えずに苦笑しているとみやこは続けて口を開く。
「学とテスト勉強しようと思っていたんだけど…どっか行くの?」
みやこの質問に僕の隣りにいたさなえが代わりに答える。
「私達の家に泊まり込みでテスト勉強しに来るんですよ♡別に良いですよね?」
さなえの強気な言葉にみやこは若干面食らっていたようだがすぐに切り替えて対応した。
「私に許可取る必要なんて無いから…いいんじゃない?」
みやこの言葉を耳にした天井姉妹は僕を車に押し込む。
「それじゃあ。みやこ。また月曜日に学校でね」
しずかが別れの挨拶をすると運転手が車を発進させて僕らは天井家に向うのであった。
車で20分程揺られると天井家に到着する。
彼女らの家は随分大きな敷地に建てられたお屋敷と言った趣の一軒家だった。
「学くん。お姉さんが手取り足取り教えてあげるよ♡」
家の中に入るとのどかは意味深な手付きで僕に迫るように歩を進めた。
「ちょっ…何をですか…!?」
怯えるふりをして少し期待した気持ちを隠して接するとのどかは軽く笑う。
「何をって…何だと思うの♡」
ゴクリとつばを飲み込むとその行為を脳裏に思い浮かべていた。
「それは…」
「それは♡」
のどかが妖艶の笑みを浮かべて小首をかしげながら僕の前まで迫りくるとさなえが答えを口にする。
「勉強ですよ」
ビシッと簡潔に答えを口にされて僕は現実に引き戻される。
「なんで先に言っちゃうの〜さなえちゃんのいじわる〜」
のどかは先を進むさなえを追いかけていき僕はその場で取り残される。
「期待してた?」
しずかは僕の顔を覗き込むと少しだけ首を傾げた。
「まさか…」
適当な嘘を口にしてやり過ごそうとしているとしずかは美しく微笑んだ。
「頑張ればご褒美が待っているかもね♡」
それを耳にして期待感が膨らむと僕らは揃って大広間に向う。
(それじゃあ頑張るか!)
そんなことを軽く思考して勉強に励むのであった。
勉強が一区切り着いた頃。
のどかは一度立ち上がり席を外そうとする。
「のどかちゃん。何処行くの?」
さなえが尋ねるとのどかは、
「作っておいたクッキー持ってくる〜そろそろ休憩にしよ〜」
などと一つ伸びをして身体の疲れをほぐしているようだった。
「じゃあ私も手伝う」
さなえも立ち上がるとのどかに続いて大広間を出ていく。
「学くんのために三人でクッキー作ったんですよ♡」
しずかの言葉に頷いて応えると感謝を告げる。
「ありがとう。頭使ったから丁度甘いものが欲しかったんだ」
「それはよかった。結構上手く出来たのでお楽しみに♡」
それに頷くと一度勉強の手を止めて伸びをする。
「ご褒美ってクッキーのことだったんだね。嬉しいよ。ありがとう」
再び感謝を告げるとポケットからスマホを取り出した。
勉強中に何度かスマホが震えたような気がしていたのだが…。
何通かの通知が届いている。
「ちゃんと勉強だけをしているんだよね?」
「いかがわしいことしてない?」
「返信ないけどなにかしてるんでしょ?」
「無視すんな!」
「おーい!」
通知の相手はみやこだった。
何故みやこが僕の心配をしているのか。
理由はわからないが幼馴染を心配しているだけだろう。
そんな風に楽観的に決めつけると返事をする。
「今までずっと勉強してた。やっと休憩」
即既読が着くとみやこから返事が来る。
「ホントに?休憩って何休憩?」
意味のわからない返事が来て僕は嘆息する。
「手作りでクッキー作ってくれてたんだって。普通の休憩だよ」
「は?あざと!そのクッキー食べちゃだめだよ!絶対惚れ薬とか入ってるから!」
「そんなわけ無いだろ。僕の心配よりも自分の心配しな。みやこも勉強頑張ってな。それじゃあ」
返事を送るとついでにスタンプを送っておく。
「学なんてもう知らない!ばーか!」
その後、怒りのスタ連が届くので無視を決め込む。
「クッキー持ってきたよ〜♡さなえちゃんが紅茶も淹れてくれた〜」
のどかとさなえが戻ってきて僕らは休憩に入る。
「いただきます」
感謝を告げてクッキーを口にすると程よい甘さで脳の疲れが取れていくようだった。
紅茶で喉を潤せば完璧に心は安らいでいく。
ふぅと一息つくとそこから30分ほど休憩をして再び勉強に向うのであった。
夕方が訪れた辺りで勉強会は終了する。
「じゃあお風呂入ってから夕食にしよ〜」
のどかが指揮を執るとこれからの流れが決まる。
「お客さんだから学くんが先に入ってね〜♡」
「いいんですか?ではお先に失礼します」
堅苦しく感謝を告げるのだが彼女らは何かしら企みうような表情を浮かべていた。
(なんだろう…気のせいかな…?)
少し気掛かりだったが僕は先に風呂場に向かう。
服を脱いでシャワーで全身を流し先に身体と髪を頭を洗うと湯船に浸かる。
湯船に浸かって数分経つと…。
風呂場のドアが開く音がする。
「え…?入ってますよ!」
誰かは知らないが一応声をかけるとその相手は返事をくれる。
「知ってるよ〜」
「知ってる」
「知ってます」
なんと姉妹全員が脱衣所で服を脱いでいるようで…。
彼女らは揃って浴場に入ってくる。
期待する気持ちを隠して顔を伏せていると…。
「大丈夫だよ?水着着てるから♡」
しずかの声が聞こえてきて顔をあげると彼女らは水着姿で大きな浴槽に入ってきた。
「いや…!僕は着てないんですけど!?」
そんな抵抗も虚しく彼女らと共に入浴することとなる。
「これがご褒美だよ♡」
しずかが口を開き、のどかが胸を強調してこちらに見せてくる。
「学くんは頑張ったからね♡」
段々と身体が熱くなってきてのぼせそうになっているとさなえが僕の背に手を当てた。
「センパイ?大丈夫ですか?」
そのまま一気にのぼせていくとどうにか浴槽から這い出る。
「刺激が強すぎたかな?」
しずかが呑気なことを言うとさなえは僕を介抱するために浴槽を出た。
「二人はそのままお風呂入ってていいよ。私が広間まで連れて行くから」
薄っすらとさなえの声が聞こえてきて自分を情けなく思う。
さなえに体を支えてもらい身体をどうにか拭くと服に着替えて大広間に向う。
縁側で夜風に当たりながらのぼせた身体を冷ましていくとさなえは飲み物を持ってくる。
「飲めますか?」
それに頷くと少しずつ飲んでいきもう一度縁側で横になる。
心地の良い夜風に当たりながら時間は過ぎていく。
「私もお風呂入ってきますね?ゆっくり休んでいてください」
それに頷くとそのまま眠りについてしまう。
心地の良い眠りから覚めると大広間の机の上にはたくさんの料理が用意されていた。
「あ!起きた!ご飯食べられそう?」
しずかは僕を上から覗き込んでいて少し驚くがそれよりも空腹感が僕を襲っていたので頷いてから起き上がる。
「料理作ってくれたの?」
「三人でね。皆料理は得意だから」
しずかの言葉に頷くと感謝を告げて夕食は開始されていく。
そこから一時間程の夕食の時間は過ぎていくと食休みをしてからゲームをして過ごした。
その後、関係性が一気に変わってしまうような出来事は起きなかったが僕らの心の距離は一気に詰まっていったような一日だった。
次の日の朝も彼女らは僕よりも先に起きて朝食を用意してくれていた。
それを食してから車で家まで送ってもらい安らぎの土日は過ぎていく。
帰宅するとすぐにみやこが部屋を訪れてくる。
「何もなかった?」
何故そんな質問をしてくるのか理解は出来なかったが僕は頷く。
「なにもないよ。ついこの間、仲良くなったばかりだよ?なにかあるわけ無いでしょ」
「わかんないじゃん!だって天井姉妹は明らかに学のこと好きだし!」
「そうだとしても…みやこには関係ないだろ?僕の恋人なわけでもないんだし」
そんな決定的な言葉を口にするとみやこは泣きそうな表情を浮かべたあとに頬をふくらませる。
「何その言い方!恋人じゃないかもしれないけど幼馴染だし!学のこと一番大事に想ってるの私だから!」
「じゃあ…何で振ったんだよ…」
情けない話だが僕はまだ失恋のショックを引きずっているようでそんな言葉を口にしてしまう。
「振ってないし…」
俯いたみやこは事実と反する言葉を口にする。
「いや…何言ってんの?振っただろ…」
「だから!振ってないの!学のばか!」
みやこはそれだけ言い残すと逃げるように部屋を後にするのであった。
「わけがわからん…」
そんな一言が本日も部屋の片隅で残響しているようだった。
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