第八話 初戦闘


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 【まえがき】

 ごめんなさい、遅れました。

 そろそろ12:00更新を取り下げた方がいいかもしれない……。


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『あ、あのっ、自分の勘違いでなければもしや向こうで戦闘が起こっているじゃーー』


『殿下っ、今すぐお下がりくださいっ。

 付近で救難信号が確認されましたっ』


 耳元の無線機から聞こえる緊迫した声。

 

 ……結構やべー感じか、これ?

 もし遭難とかだったら助けてあげたいけど、こんな操縦じゃあどのみち無理だよな。それならさっさと船に戻ってーー


「はっ、この私に下がれ、だと? ふざけたことをっ」

 

 ーー誰かの声がコックピットに響いた。

 そのまま急加速する機体。しかも、何故かさっきは無かった赤色の光までまき散らしている。


『殿下っ!?』


 い、いや違う。確かに止まろうとしてるんだ。

 でもなぜか機体と口がいうことを聞かなくてーー


 こ、これはあれか? 転生直後にあった、主導権を奪われている状態か?

 だとしたらディアローゼを操っているのは多分、この体の本来の持ち主。つまり原作準拠のローゼ・ジンケヴィッツ。


 え、えとどうしよう?

 もしかしてこれが破滅フラグだった? 誰かを助けにいった結果殺されるとか? 

 でもそれだと、「身内に裏切られてやんのw」とかいうコメントに矛盾するよなあ……。


 ん、まてよ、違うか。

 俺の最期は何処かの基地で誰かに刺されて基地ごと爆発するシーンで終わる。

 今までは、裏切りを匂わせる複数のコメントが動画上に載ってたから、その誰かとやらが味方なんだと勝手に思っていた。

 でもそうじゃなくて嘘や結果的にそうなった可能性もあるのか。

 例えば敵側に捕まったのは完全に彼女のミスで、収容所から命からがら逃げようとしたところを敵側の一般兵に見つかり逆恨みで刺される。

 そして基地を攻撃したのは彼女が収容されているの知らなかった味方側の船でした~、みたいな?


 わからん、わからんが、とにかく危険は避けなければ。

 幸い、前と違って体の自由は効くようだ。それなら、と目の前にある緊急停止用と紹介されたレバーを引いてーー


「ふん、させるか」


 ーーレバーを掴んだまま、腕が硬直する。

 

 こ、これは引けてるのか? 自分の体なのによく分からねえ。

 コックビット前面のレーダーに視線を落とせば、さっきよりも凄まじい速度で移動する自機を表す点。


『でんか、でんかああああああ』


 ……あっ、〇んだわ、これ。

 







『こ、こちら、エルドラーデ帝国軍第六十六輸送艦隊隊長アーミン・クラウスでありますっ。

 まさか御機はディアローゼでありますかっ?』


「そうだ。状況はどうなっている?」


『っ、突如現れた所属不明艦の攻撃により本艦隊は航行能力及び継戦能力のほとんどを喪失。

 現在は艦内に入り込む敵兵を白兵戦で抑え込んでいる最中でありますっ。

 敵勢力は正体不明の戦航機一機とローバー級駆逐艦一隻、ご武運をっ』


「言われなくてもっ」


 5分ほどドナドナされてやってきたのはどこぞの宙域。

 どうやらあの通信機にも限界があったらしい、途中からロゼッタたちの声も聞こえなくなってしまった。当然味方機の姿も近くにない。


 視界に映るのはボロボロな状態の四隻の青い船と、その最後尾のコンテナっぽい形の船に接舷する漆黒の船。

 青い方が味方、つまりエルドラーデ軍の船だ。彼が言ったように露ほども動いておらず、折角備え付けられた艦砲も完全に沈黙していた。


 はい、まごうことなき劣勢であります。

 ってか、あの黒い船、下手したら先頭の船の半分以下の大きさじゃねえか。それでこいつらに勝ったの? もしかして凄い手練れなんじゃ……。


『へえ、こいつは驚いた。

 帝国軍の中にまさかここまで早く駆けつけられるやつがいるとはなァ』


 若い男の声が無線に入り込むと同時、画面中央に一つの戦航機が現れた。

 宇宙に紛れるかのような漆黒のボディ。左腕に付けられた巨大な盾と、右手に持った槍に似た形状の武器。


 かっけえええ、やっぱいいよなあ、ロボットはっ。

 今からドンパチやるんだろ? いやあ楽しみだなあ(現実逃避)。


「ふんっ、当たり前だ。

 私はローゼ・ジンケヴィッツ、お父様の娘なんだからな。賊一人葬れないでどうして皇女などと名乗れようか」


 ローゼの言葉と共に、本機の背中に付いた12個のブースターの内の4つが分離し、赤い光を出しながらまるでドローンのように浮遊し始めた。

 コックピットの側部に新たな4つの画面、恐らくはそいつらに搭載されたカメラの映像が表示される。そしてその中央に浮かぶ照準。


 あっ、なるほど。ファンネルってそういうふうに使うのね。


『そりゃァ、結構なことで。

 まあ、早速やりますかね』 


 槍を後ろに大きく振るう敵機。

 するとその柄がにゅるにゅると伸び、まるで生き物のようにカープを描いてこちらへと突っ込んできた。


 ……俺はつっこまないぞ。例え似た武器を知っていようとっ。


「はっ、そんなものっ」


 ファンネルから放たれた無数の赤いレーザーに迎撃され、勢いを失う穂先。

 敵機はそれを巻き上げると、そのまま距離を保ちながら俺の周りをくるくると飛行し始めた。

 

 機体やファンネルの向きを微調整しながら着弾させようとするディアローゼと、盾や変態的な軌道でレーザーを躱し、隙を見て伸縮性の槍で攻撃してくる敵機。

 技量が拮抗しているのか、そんな小競り合いが続いていく。


 はたして、その均衡を破ったのは嘲笑を孕んだ男の声だった。


『あれェ、そんなもんですかい、姫さん?

 いやあ流石は13番目。落ちこぼれのローゼ様だ』


「……痴れ事を。お前だって逃げてばかりじゃないか」

 

『はっ、こっちは別にいいんですよ。

 俺の目的は時間稼ぎ。目的を達成するために姫さんをここで足止めすりゃァいいですからね』


「ちぃ」


 乱暴な舌打ちの後、ローゼは追加で4つのファンネルを分離させる。

 これで残りは4つ。火力が増えた分、本体の推進力は大分落ちた計算になる。

 

 おいおい大丈夫か、これ。


 でも同時に彼女の様子に納得している自分もいた。

 多分これがローゼ・ジンケヴィッツ本来の姿なのだ。プライドが高く、向こう見ず。だからこそあんな最期を遂げた。


 敵機に向かって放たれる8つのレーザー。

 緻密に張られたその弾幕に、最初は器用に避けていた敵機も次第に遅れが目立つようになり、やがて一つのレーザーが敵機の右手を捉えた。


 衝撃で槍を手放し、そのまま腰からビームサーベルらしき武器を抜いて突進してくる敵機。

 その破れかぶれの行動に、ローゼがとどめを刺そうとファンネルを前に展開させる。


 対して、俺の心にはあるのは疑念だった。

 精鋭っぽい敵なのに、はたしてそんな簡単に終わるだろうか?


 と、視界が敵機の右奥で宇宙を漂う槍を捉えた。


 敵の手を離れたながらも、こちらに穂先を向ける敵のメインウェポン。

 次の瞬間にはその穂先が三つに開き、中から顔を出した砲身がまるでレーザーを放つかのように光りーー


「っ」

 

 ーーあぶねえっ。

 

 慌ててコックピット横のレバーを引いて、機体を急降下させる。

 機体のすぐ上を通り過ぎる巨大な光線。パネルに表示された4つのファンネルの映像が喪失する。


『ありゃりゃ、てっきりこれで終わると思ったのに。

 はっ、いいねェ、戦争はやっぱそうじゃねえとな』


 さっきまでの突進はどこへやら、当たり前のように槍の元へと戻る敵機。

 やっぱり、これが狙いだったんか。多分さっきの煽りもわざとだろうし、ほんと性格悪いなあ、こいつ。

 

『でも残念、ここまでかァ。

 まあ、またやりましょうや。姫さん』


 最悪な言葉を残して、敵機は黒い船へと踵を返す。

 ローゼはそれに……あれ、いつのまにか体の自由もファンネルとかも元に戻ってる。どうなってんだ、これ?

 

 敵機の姿が黒い船の中へ収容されると共に、まるで霞がかったかのように視界からもレーダーからも船影が消えていく。


 やがてレーダーに友軍の反応が映り、耳元に聞き覚えのある声が響いた。


『ろ、ローゼ殿下っ、ご無事ですかっ!?』


「……ああ、当たり前だ」


 正体不明の敵。突然現れる元人格。問題や疑問は山積みだ。

 ただまあ今は生き残れたことを喜ぼうじゃないか。もしかしたら本当に破滅フラグを潰したのかもしれないのだから。










 その日の夜、寝静まった艦内のとある一室で、一人の人物が特殊回線で誰かと会話していた。

 

『おいおい、あんたらのご主人様・・・・のせいで失敗しちまったじゃねえか。

 全く、ちゃんと手綱を握っといてくれと困るぜェ?』


「ーー」


『偶然、ね。それにしちゃあ一直線にこっちに来たみたいだがなァ。

 ……いや、違う違う。別に責めてるわけじゃねえんだ。久しぶりに楽しい楽しいお遊戯も出来たしな。

 あんたらの小難しい信念にゃあ一切共感してないが、その手段は高くかってんだ。取引は続けさせてもらうぜ。

 略奪、殺人、破壊工作何でもござれ。便利屋のジャック・ジローディを、どうぞよしなに』


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