第35話 エルフの王女さま
▽第三十五話 エルフの王女さま
私たちが遭遇したのは、すでに壊滅してしまったエルフの集団でした。恐ろしいことに半数の美麗なエルフがアンデッドと化し、生き残りたちに襲いかかっています。
中でも豪奢なドレスを纏ったエルフの少女に、苛烈な攻撃が向けられています。
少女は片目だけをギュッと恐怖に瞑り、しかし、もう片方の目で敵を睨み付けています。臆病なのか勇気があるのか、よく解らない少女ですね。
「ほ、炎の魔法を、使っても――」
「ここは森! なりませぬ、なりませぬ。我らが命を賭してお守り致すゆえ、どうか、どうか。お待ちくださいませ、レメリアさま」
「し、死なないでくださいね、爺!」
「この老いぼれ、最近は呆けてしまい、すっかり死に方も忘れましたわい!」
何やら気障なことを叫び、エルフの美青年が薙刀を構えてアンデッドに飛び掛かっていきます。纏うは暴風。
おそらくは風と薙刀術の組み合わせでしょう。
一閃。
ずさり、とエルフのアンデッドの肉体が両断されます。ですが、すぐにアンデッドは復帰してしまうようです。
厄介そうですね。
エルフたちは大森林の真っ只中、馬車を背に追い詰められています。破壊されているのでしょう。すでに馬車の車輪は砕け、馬はアンデッドの集団に加わっています。
大自然の緑に隠された、僅かな腐臭。
「くっ! キリがない。レアな光属性の持ち主さえおれば……このていど」
居ます!
閃光魔法の担い手アトリ、居ます!
対峙しているアンデッドの集団は50を上回ります。しかも、そのほとんどすべてが復帰するのです。
操っている根元は、あの集団の中央、巨大な骸骨ローブでしょうかね?
「アトリ、解っていますね」
「うん。はい!」
私が【クリエイト・ダーク】によってサブアームを接続。【アイテムボックス】から取り出した【万物、厭忌の朽枝】を装備します。
生命力の8割を使用して、アトリが【殺生刃】付きの【シャイニング・スラッシュ】を詠唱し始めました。すると、
『濃密な光の気配っ! 増援か、エルフ族よ!』
骸骨ローブが叫び、ドス黒い長杖を私たちに向けます。何やらブツブツと詠唱を始めているようですね。
しかし、敵は強敵のご様子。下手に回避するよりも、私が【ダーク・リージョン】で無効化するほうが良いでしょう。魔法は回避し辛いですからね。
「増援!? 我々に!?」
はっとエルフたちがアトリを見つけます。アトリは巨大な木の枝、そこで鎌を片手に魔力を練っております。
エルフの青年が目を見開きます。
「魔王!?」
「違う。アトリ。神に選ばれた!」
「たしかに魔王ではないようだ……だが、女神ザ・ワールドに選ばれただと!?」
「違う。もっとすごい神」
「?」
そこでアトリの魔法が完成します。
ですが、同時に骸骨ローブの魔法も完成してしまったようです。
『――常闇魔法【エンド・オブ・ダークネス】! 失せよ、小娘! これこそが叡智の一撃なり! 闇を極めし、万物を死へ誘う究極のアーツ!』
「【シャイニング・スラッシュ】」
光と闇が激突します。
結果、空間がねじれるように裂け、ずおおおお、という不安定になる音が響き渡ります。攻撃の拮抗に骸骨ローブが悲鳴をあげます。
格好良い黒ローブが空間の亀裂に引っ張られ、盛大にはためいています。
『余の常闇魔法が【シャイニング・スラッシュ】ていどと拮抗するだと!?』
「【シャイニング・スラッシュ】!」
『や、やめ――』
常闇魔法【エンド・オブ・ダークネス】が追加魔法によって砕け散ります。目を見開いた骸骨ローブ(骸骨なので雰囲気です)の肉体が光に両断されました。
アトリは【再生】を利用すれば、即座にHPが回復します。
その回復したHPで即座に【殺生刃】が乗った【シャイニング・スラッシュ】を放てます。スキル【詠唱延長】こそ乗っていませんが、アンデッドには致命的な追加火力でしょう。
ボロボロ、と骸骨ローブの肉体が(骨百パーセント)崩れていきます。風化して朽ちていくかのようですね。
唖然、と骸骨が呟きます。
『ば、ばかな……』
「馬鹿って言ったほうが馬鹿、と神は言った」
『お、おのれおのれおのれえ!』
「おのれって言ったほうがおのれ」
「アトリ、それはよく解りませんよ?」
? とアトリは首を傾げましたが、冷酷に攻撃は継続させます。死神幼女がもたらす死は、死してもなお逃れられないのですよ!
やっておしまいなさい、アトリさん!
さらに追加の【シャイニング・スラッシュ】と【ハウンド・ライトニング】によって、骸骨ローブは跡形もなく浄化されるのでした。
たわいもない。
戦場がしん、と静まり帰ります。ですが、もっとも復帰が早かったのは、やはりアトリでした。彼女は50のアンデッドが存在する中央に飛び込み、即座に魔法を放ちます。
「【シャイニング・バースト】!」
薙ぎ払います。
▽
全滅させるまで一分間も不要でした。
アトリの【月光鎌術】は光属性の魔法攻撃です。そう、スキル【月光鎌術】は攻撃ステータスではなく、魔法攻撃ステータスを参照してダメージを負わせるのです。
アトリのもっとも低いステータスである【攻撃】。
近接攻撃主体だったアトリの課題が解消されております。めっちゃ強い。アンデッド特攻ということも手伝い、本当に豆腐でも斬っているような作業でした。
スキル上げをする余裕さえございましたね。
結果。
【ネロがレベルアップしました】
【ネロの闇魔法がレベルアップしました】
【ネロのクリエイト・ダークがレベルアップしました】
【ネロのダーク・オーラがレベルアップしました】
【ネロの再生がレベルアップしました】
【ネロの鑑定がレベルアップしました】
【アトリがレベルアップしました】
【アトリの鎌術がレベルアップしました】
【アトリの月光鎌術がレベルアップしました】
【アトリの造園スキルがレベルアップしました】
【アトリの光魔法がレベルアップしました】
【アトリの閃光魔法がレベルアップしました】
【アトリの神楽がレベルアップしました】
【アトリの口寄せがレベルアップしました】
【アトリの詠唱延長がレベルアップしました】
【シヲがレベルアップしました】
【シヲの擬態がレベルアップしました】
【シヲの奇襲がレベルアップしました】
【シヲの拘束がレベルアップしました】
【シヲの音波がレベルアップしました】
【シヲの鉄壁がレベルアップしました】
【シヲの触手強化がレベルアップしました】
やはりレベルアップが一番、気持ち良いですねえ。
我らを讃えるファンファーレを耳にしながら、私は戦果を確認します。しかし【アイテムボックス】内に有用なレアドロップの類いは見受けられません。
剣はドロップしましたけど、アトリは使えませんからね。
それはシヲも同上です。
素材は諸々。わりと悪くないかな、という感じです。【アイテムボックス】は同じ種類の物でしたら、99個までスタックできるのが便利ですよね。
ちなみに水は500ミリリットルで1扱いです。旅には干し肉と同時に必須品ですね。
「あ、あの……」
おずおずと美青年エルフが歩み寄ってきます。
途中、慌てて参戦しようとした彼らですが、私がアトリに「参戦しないように頼めますか? レベルを上げたいです」と言ったところ。
『神は言っている。ここはボクたちがやる』
とバッサリと拒絶してしまいました。
以降、エルフたちは目を白黒させ、時折、味方だったであろうエルフアンデッドが浄化される度に目に涙を浮かべて「ありがとう、ありがとう」と手を合わされていました。
掲示板では「死神幼女」ですが、彼らにとっては「英雄」か「天使」かという感じですね。私にとってのアトリは「相棒」でありますけど。
エルフの美形が頭を下げます。
「助けてくださりありがとうございました。我らの同胞も浄化してくださり、もはや言葉もございません」
「良い。すべては神の御心のまま」
「……私の名をセッバスと申します。どうか、どうか、貴女さまのお力をお借りしたい! 我らエルフランドの王女殿下をお守りするために!」
「? おうじょでんか?」
ぽんやりとするアトリを前に、突如としてエルフの美少女――おそらくは王女殿下でしょう――が駆け出します。向かう先は一直線にアトリですね。
エルフ美少女が両腕をバサリ、と大きく広げます。
「きゃー! かわいい! 美幼女!」
跳躍して抱きつこうとした王女殿下に、アトリは無表情で蹴りを叩き込みました。
不敬ですねえ。
エルフたちが口をアングリと開けて――美形エルフのセッバスが気絶してしまいました。波乱のイベントの予感です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます