第21話 トリオでの探索

▽第二十一話 トリオでの探索

 ミミックの擬態は想像以上に完璧でした。

 私はてっきり「アトリ」のソックリさんが出現するのかな、と考えていました。ですが、実際のところはエルフの美少女が立っていました。


 虚ろな表情が印象的です。


 長い黄金の髪が印象的な美少女である。腰まで届くほどの髪は、一部がちょっとだけ結ばれてツーテールになっています。見た目の年齢は十五、六歳くらいでしょうか?

 まだ幼くはありますが、見た目年齢以上に大人びて見えますね。


 ジト目で私やアトリを見つめています。


 擬態美少女エルフ――シヲがてくてくと歩いて見せます。

 ややギコチナクはありますが、慣れていける範囲でしょうね。


「歩いたりは可能のようですね。あと二つ擬態できるのは楽しみです」

「ほかは何にする。です、か。神様」

「ひとつは騎乗できる生物が良いでしょうね。移動速度が上昇すれば、諸々をやりやすくなるでしょう。翼がある生物になったら飛べるのでしょうか?」


 ちょっと無理そうですよね。

 あくまでも擬態なので飛ぶ機能を真似するのは難しそうです。が、馬などの走破に特化した肉体は、似せるだけでも使えそうです。

 高敏捷が火を噴きますよ、たぶん。


「まずはダンジョン探索を続けましょうか? 擬態の形態は必要になったら増やしていく感じでいきましょう」

「うん、ですっ神様」


 シヲを連れてアトリがダンジョンアタックを再開しました。

 階段を下りていきます。

 前方に出すのはシヲです。シヲは現在、アトリの【口寄せ】の対象となっております。ゆえに死亡したとしても、アトリがまたMPを消費すれば復活できるようですね。そもそものHPが潤沢なシヲは、中々に死亡する機会もないでしょうが。


 と、そのようなことを思考しているうちに、シヲがトラップを踏ん付けました。炎上トラップだったらしく、肉体が下から炙られています。

 火だるまです。

 燃えている上、ジワジワとHPが減っているのにシヲは動きません。


「アトリ、シヲに土魔法を使わせて消火させてください。あとシヲにもリジェネです」

「!」


 アトリは【口寄せ】の使い手なので、その対象とは心で通じ合っています。シヲがボンヤリしながら土魔法を使い、土で身体の火を消していきます。

 元々がミミックなので火で皮膚が溶けたりはしないようですね。


「……ミミック便利ですねえ」

「はいです。でも、ボクのほうが、便利、ですっ!」

「アトリは可愛いですねえ」

「え。ふへへ……」


 このダンジョンの二階層はやや趣が異なっているようです。如何にもな迷宮、何処までも続いていく洞窟のような感じです。

 空気も十分にあるらしく、カナリヤは不要でした。

 先行するミミックが時折トラップを男気解除していると、敵と遭遇しました。

 紅くてお洒落な帽子(ぼろぼろ)を被った、小さな老人です。アトリの身長の半分くらいしかありません。斧を両手で掲げるように持っています。


「帽子を被ったゴブリン?」


 鑑定します。


名前【不明】 性別【男性】

 レベル【34】 種族【レッド・キャップ】

 魔法【土魔法1】

 スキル【斧術35】【体術38】【致命打17】【敏捷強化38】

 ステータス 攻撃【170】 魔法攻撃【34】

       耐久【34】 敏捷【272】

       幸運【170】


 どうやら斧を使った近接タイプの敵らしいです。

 敏捷が高いので急接近に気をつければ良いでしょう。一撃が重そうなのでアトリとの相性は微妙でしょうか。

 ですが、今の我々には頼れるタンクがいました。


『――』


 シヲが二本の腕を前方に伸ばします。すると、その腕が瞬く間に二本の触手となり、レッド・キャップに襲いかかります。

 ――奇襲でした。

 突如として出現した触手に、レッド・キャップが動きを止めます。強みの敏捷を発揮するよりも早く、魔物は肉体を絡め取られました。ぐにょぐにょの触手です。


 戦慄するアトリ。大鎌を握る手が震えています。

 捕まったレッド・キャップよりも怯えていますよね。


「こ、こわい……かみさま、こわい。ですっ、こいつ」

「貴女のテイムモンスターですよ、アトリ。さ、トドメを」

「うう。……ですっ」


 アトリが大鎌を振り上げ、シヲが捕まえた獲物に叩き付けました。倒れたレッド・キャップの死体が消え去り、代替するように指輪がドロップしました。

 すかさず【鑑定】します。


 指輪【運命の指輪】 レア度【レア】

 スキル【運+10】


 なるほど。

 運のステータスを増加させる指輪ですね。運のステータスはクリティカルの確率やダメージに影響するようなので、攻撃の低い前線アタッカーであるアトリにはピッタリです。

 一応、装備させましょう。


「アトリ、つけてみてください」

「おー」


 指輪を嵌めた手を見せびらかすように、何度も空に掲げています。とても嬉しそうですね。私も子どもの時分には玩具の指輪を嵌めてはしゃいだことがあります。

 年相応のアトリが見られて満足です。

 指輪は二つまで効果があるそうなので、是非とも揃えておきたいですね。


 現状、このダンジョンで得られたモノは毒短剣、ミミック、指輪。たった一日のことながらに実入りが良さそうですね。

 探索を続行します。

 五分程歩いていますと、曲がり角。危険なのでシヲを先行させたところ、待ち伏せしていたレッドキャップが斧を叩き付けてきました。

 シヲの頭部に斧が突き刺さる。


『ぎゃぎゃ!』


 レッドキャップは殺戮に余韻に浸り、嬌声を上げていますが――シヲは問題なく稼働します。斧が突き刺さったまま、平然と触手で拘束しました。


「どうやら、今度は大群のようですね」

「いく。ですっ」


 曲がり角から現れたのは、レッドキャップの群れでした。十体くらいの魔物は手に手に得物を持ち、シヲに瞬く間に群がっています。

 アトリのリジェネもあり、シヲに効いた様子はありません。


「【フラッシュ】! 【シャイニング・バースト】っ!」


 群中に飛び込んだアトリは、なんの躊躇なく、範囲攻撃の【シャイニング・バースト】でレッドキャップを薙ぎ払う。

 ダメージで仰け反った魔物に、アトリは大鎌を――、


【ネロがレベルアップしました】

【ネロの闇魔法がレベルアップしました】

【ネロのダーク・オーラがレベルアップしました】

【ネロのHP自動回復がレベルアップしました】

【ネロのMP自動回復がレベルアップしました】

【ネロの鑑定がレベルアップしました】

【アトリがレベルアップしました】

【アトリの鎌術がレベルアップしました】

【アトリの農業スキルがレベルアップしました】

【アトリの光魔法がレベルアップしました】

【アトリの神楽がレベルアップしました】

【アトリの口寄せがレベルアップしました】

【シヲの擬態がレベルアップしました】

【シヲの奇襲がレベルアップしました】

【シヲの拘束がレベルアップしました】


 戦力が増えたことによって、格段に戦いが楽になりましたね。やはりテイム系のスキルは取っておくべきでした。

 ソロには必須です。

 得にめぼしい戦果はありませんでした。が、レベルアップできたので良しとします。


       ▽

 またもやレッドキャップの群れです。

 ただし、条件が異なるのは魔法職が存在していること。それからボス格でしょうか、巨体のレッドキャップがいます。

 アトリの倍の身長を持つ、オークのようなレッドキャップです。


 先ほど検索したのですが、レッド・キャップって小さいって設定なのでは……まあ戦うしかないでしょう。

 いつものようにシヲが先制で拘束を仕掛けます。


 それに対してビッグキャップが斧を叩き付けました。触手が血飛沫を吹きながら、半ばから両断されてしまいます。


『――ム』


 シヲは苛立った様子で、左手の触手をビッグキャップに向かわせます。


「【プレゼント・パラライズ】! アトリ!」

「【殺生刃】!」


 私が作った【クリエイト・ダーク】の足場を駆け上がり、アトリは瞬く間にビッグキャップの頭上を取ります。

 刃に濃密な死の香りを付与し、両断の軌道で薙ぎ払います。


 そこに。

 杖を持ったレッドキャップの魔法が炸裂しました。無防備だったアトリの肉体に直撃し、華奢な肉体が吹き飛ばされてしまいます。

 すでに麻痺が解けたビッグキャップが踏み込みます。地面に亀裂が迸る。


『――!』


 シヲが触手で拘束を試みます。ですが、ビッグキャップはそれを力尽くで引き千切り、空中のアトリに斧を叩き付けました。

 轟音。

 咄嗟に【クリエイト・ダーク】モードシールドで防御しますが、防ぎきれません。砕けた盾の破片ごと、アトリの腹に斧が直撃しました。


「――っぎ」


 腹を大きく裂かれて、地面に背中を打ち付けられました。血を噴くアトリですが、彼女は即座に立ち上がって二撃目を回避します。

 退避したアトリの元ヘレッドキャップと魔法使いが攻めてきます。


 ビッグキャップは残ったシヲに、両腕で振った斧を直撃させています。腹に向けてのホームラン狙いの打撃。

 シヲが壁に叩き付けられ、グッタリしたところを斧で滅多切りされています。HPが多い上、リジェネもあるシヲならば一分は保つ、でしょう。


「援護します、アトリ。【ダーク・ボール】!」

「回復、する。ですっ」


 私は【ダーク・ボール】を五発ほど連射します。あえて弾速を最低にした闇のボールは、ふよふよと空中を彷徨います。

 壁には打って付けでしょう。

 アトリは腹を押さえ、荒い息を抑えようとしています。すでにHPは9割回復しています。


「雑魚だと思って油断しましたね」

「ご、ごめんなさっ、神様!」

「いえ、油断したのは私ですよ、アトリ。あの魔法を防ぐのは私の役割でしたからね」

「神様はっ、悪くないっ、ですっ!」

「であれば、アトリももちろん悪くないですね。悪いのは敵さんということにしましょう」

「うん。ですっ!」


 HPは万全。

 しかし、このダンジョン迷宮の構造がアトリに不利です。アトリのもっとも高いステータスは敏捷であり、彼女は速度を活かした戦いが得意です。

 ですが、この通路のような狭さでは速度は活かせません。

 大鎌も振り辛そうですしね。


 言ってしまえば、アトリは自動回復型タンクのスピード前線クリティカルアタッカーで、二番面に魔法攻撃力が高いタイプです。

 ……我ながら訳の解らない育成方針ですね。


 ゲーム理解度が高い人なら、絶対に避けたいステータスでしょう。大鎌という武器がステータスに合致していて良かったですね。

 まあ、どうでもよろしい。


「アトリ、一撃で突破しますよ――【魂喰らい】を起動です」

「【死を満たす影】解放――【魂喰らい】ライフストックフルパージ!」


 大鎌【死を満たす影】の特徴は、殺した対象の魂を蒐集することにあります。ライフストックとしてため込んだ命が、今、【死を満たす影】を満たします。

 巨大な闇の刃が鎌を包みました。

 実態の存在しない、巨大な刃。

 死神幼女が鎌を腰だめに構えています。


「――【殺生刃】!」


 一薙ぎ。

 たったそれだけで数メートル範囲で展開していたレッドキャップたちが、頭と首とをおさらばさせていました。

 雑魚が壊滅します。

 遅れて爆風が死体を吹き飛ばします。ビッグキャップへの道が開きます。


「倒すっ!」


 叫んだアトリに、シヲをいたぶっていたビッグキャップが反応します。一瞬、アトリのほうを見た隙にシヲが触手を絡めました。

 動きが刹那、止まる。

 アトリにとって刹那とは――必殺の時間。膨大な敏捷ステータスによって、彼女はビッグキャップを間合いに入れています。


『ぎゃあぎゃあぎゃあっ!』


 ビッグキャップが斧を振るいます。

 アトリの頭をかち割る軌道の唐竹割りに対し、迎撃するのは私でしょう。


「【クリエイト・ダーク】――油断はなしですよ」


 作りだしたのは闇のワイヤーです。それを天井に引っかけ、アトリにも接続しました。一気にアトリの身体をワイヤーで引き上げます。

 僅かに位置が変化したアトリ。

 彼女が数瞬前まで居た場所に、遅れて斧がぶち込まれます。されども、そこには誰も居ませんよ。


「【殺生刃】!」


 近づくまでに【HP自動回復】と【リジェネ】で回復した体力を、殺生刃で威力に変えてしまいます。

 狙いは首。一直線です。

 斬撃!

 スキル【首狩り】と【弱点特攻】が乗った一撃は――スパンっ――とビッグキャップの首を寸断していました。

 着地したアトリの頭上に血が舞いますが、それはシヲが擬態で防ぎます。


【ネロがレベルアップしました】

【ネロの闇魔法がレベルアップしました】

【ネロのクリエイト・ダークがレベルアップしました】

【ネロのHP自動回復がレベルアップしました】

【ネロのMP自動回復がレベルアップしました】

【ネロの鑑定がレベルアップしました】

【アトリがレベルアップしました】

【アトリの鎌術がレベルアップしました】

【アトリの農業スキルがレベルアップしました】

【アトリの光魔法がレベルアップしました】

【アトリの神楽がレベルアップしました】

【アトリの口寄せがレベルアップしました】

【シヲがレベルアップしました】

【シヲの擬態がレベルアップしました】

【シヲの奇襲がレベルアップしました】

【シヲの拘束がレベルアップしました】


 勝利アナウンスを耳にしながら、我々はようやく脱力しました。

 地面を見ればドロップアイテムがひとつ。それは長い長い――杖でした。


「レアドロップ、魔法使いのほうでしたか……」

「残念」

「ともあれ勝利ですよ、アトリっ!」


 おー、とアトリが大鎌を掲げました。

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