第20話 テイムモンスター
▽第二十話 テイムモンスター
猿の集団や蜂の集団に襲われました。
ですが、持久力特化のアトリはダンジョンとは相性が良かったようです。囲まれても【奪命刃】で回復しながら殴れますからね。
蜂の毒は厄介でしたが、すべて【キュア】でどうにかなりました。
私も【ダーク・ボール】や【プレゼント・パラライズ】で援護射撃します。ほとんどスキル上げのための攻撃ですね。
アトリ単独で余裕です。
ほとんど足を止めることなく、我々は第二階層へ下る階段を発見しました。
「降りる。です?」
「経験値効率が悪いですからね、できれば降りたいところです」
「? できれば? です?」
「私たちには斥候役がいませんし、罠も苦手としていますからね。戻って専門家を雇うのも手、かな、と考えていました」
「神様のご指示に従う。ですっ」
アトリならば罠を強引に突破できます。
状態異常も【キュア】で完治できますからね。ですが、即死トラップがないとも限らず、それだけが懸念点でした。
難しいところです。
まあ、このような低難易度と呼ばれるダンジョンに、即死トラップなんてないとは思います。よほどのイレギュラーではない限り、です。
「あ」
?
私が長考しているうち、アトリが何かを発見したようです。樹の上を指さしています。
「アレは何。です、神さま?」
「? あー、あれは宝箱ですね」
「たからばこ! です!」
「開けてみますか? もしかしたら目的が達成できるかもしれません」
ダンジョン内で財宝を見つける方法は二つ。
ひとつはダンジョン内の魔物を倒した際、低確率でドロップするのを狙う手段です。
もうひとつがランダム配置されていたり、倒した後に出現する宝箱を開ける手段でした。今回は後者ですね。
すでに蜂討伐で前者は経験済みです。
効果の低い毒付与効果を持つ、短剣がドロップしましたよ。サブウェポンとして持たせていますが、使うことはないかもしれませんね。
アトリが大鎌で樹を切断し、宝箱を落とします。
私のほうをニコニコと見つめてくるので、苦笑しながら頷きました。すると、アトリはクリスマスプレゼントを豪快に開封する子どもの如く、宝箱の蓋を開け放ち――、
――宝箱に食べられました。
「っ――アトリ!?」
「――だ、ば、がみじゃ、……」
すでに宝箱に上半身を丸呑みにされているアトリさん。
え、なんです。
なにが。
と、そこで私は掲示板に書かれた情報を思い出していました。超低確率でダンジョンの宝箱は「ミミック」になっているから気をつけろ。確実に一人ロストする。宝箱を開ける時は「解錠スキル必須」と……
「ここで超低確率を引きますか!? 【ダーク・ボール】! 【鑑定】! 【プレゼント・パラライズ】! ってもう! 体力が多すぎですし、耐性ありますよね、これ!」
引き摺り込まれていくアトリ。
大鎌は振るえませんし、短剣も使えません。そもそも引き抜けないでしょう。
ジタバタと足を振って暴れています。【シャイニング・バースト】の連発も効かず、ミミックの「必ず一人は持っていく」という性質を物語ります。
これはさすがにロストか……
私はもう我武者羅になって叫びます。
「アトリ、あれを使いなさいっ! 無駄かもですが……【口寄せ】です」
「――!」
アトリが完全に丸呑み特殊性癖愛好家の餌食になる前に、私は持てる手段のすべてを試すことにします。
アトリに指示した【口寄せ】スキルは、私がソロ活動に必須と考えて取得させたスキルでした。
要するに「テイム」スキル。
巫女限定の「テイム」なのですが、このスキルはとても使い勝手が悪いようです。普通の「テイム」で捕まえられる魔物が捕まえられず、確保できる魔物は「妖怪」のみ。
その妖怪は中々に見つからない、という始末。
テイムと迷った挙げ句、巫女限定スキルだし、で取得してもらったスキルです。
掲示板によればミミックのテイムは報告されていない、とのこと。これは検証班である(笑)さんがエルフの知恵者に聞いた情報ですから間違いなしです。
テイムが無効、といっても試せる手段はひとつしかありません。
「連打してくださいっ!」
「――っ! ん――っ! う――!」
MPが切れそうになる、寸前でした。
【テイム成功。従えたミミックに名前をつけてください】
ぺっ、とミミックがアトリを吐き出しました。べちょべちょのヌルヌルになったアトリは、ほとんど号泣しながら縋り付いてきます。
「こ、怖かった! 神様! 神様! ありがとうございます、神様!」
「え、ええ。怖かったですねえ。良い子、良い子ですね、アトリ」
ミミックって妖怪だったんだ……
なんか、言われて見れば宝箱に取り憑く付喪神っぽくはあります。
私たちはダンジョンに潜った結果、宝箱を手に入れましたとさ。
【アトリの口寄せがレベルアップしました】
▽
アトリは配下に加えたミミックに怯えています。
当のミミックは大人しく、宝箱を演じています。古びた箱はビンテージ風でお洒落にも映えますね。
私は近づいて様子を窺います。
「アトリ、名前はどうします?」
「テイムを解除したい。です、神様ぁ」
「レアですよ、レア。しかも【口寄せ】適用できる魔物は珍しいです」
私たちは何度も猿や蜂に【口寄せ】を使っていました。が、まったく効果がありませんでした。
せっかくのテイムなので喜びたいのですけど。
「……かみがよろこんでる。がまん、です……」
「どうしても嫌でしたら解除でも良いですが。また襲いかかられますよ?」
「う、ぐ。やはり神さまは神さまです」
命名しました。ステータスを表示します。
名前【シヲ】 性別【無】
レベル【47】 種族【オールド・ミミック】
魔法【土魔法5】
生産【木工1】
スキル【擬態34】【奇襲24】【拘束28】【行動阻害耐性】
ステータス 攻撃【47】 魔法攻撃【47】
耐久【376】 敏捷【470】
幸運【47】
こんな感じです。
ミミックは人類種とは異なり、かなり突飛なステータス配分をしていますね。飲み込めば敵が死ぬので攻撃力は不要のようです。
代わりに耐久力、ならびに速度が尋常ではありません。
アトリのステータスでもっとも高いのが敏捷なのですが、彼女がまったく反応できないレベルでした。
他にもHPもかなり高いです。
私の【ダーク・ボール】でまったく削れないレベルでした。ヘルムートが防御力で耐久するタイプならば、ミミックはHPで受け止めるタイプの耐久タイプです。
ちなみにアトリはリジェネ系の耐久型。
この世界、ヤバいやつはみんな耐久型。
ともかく、この子は上手く使えば純粋なタンクになってくれそうですね。アトリもタンクではありますけれども、耐久のやり方が違いますので。
「シヲ、これからよろしくお願いしますね? ところで擬態スキルについてなのですけど……これってレパートリーを増やせたりしますか?」
『――』
「ほうほう! 言葉は解らないようですね……」
「? 神様。できる、と言ってる。です」
私はアトリのほうを振り向き、驚きに目を丸くします。まあ、闇精霊のデフォルト形態に目はありませんし、なんなら全身がまん丸ですけど。
よもやアトリはミミック語を収めている?
いや、彼女のテイムモンスターだからでしょうかね。
「では、アトリ。ヒトガタになれるか訊いてください」
「神は言っている。ヒトガタになれる?」
『――』
「うん。10レベル毎に擬態対象を増やせるみたい。ですっ! 今は宝箱形態しか取得していないので、自由に選んでほしい。……です」
現在のシヲの【擬態】は34レベルです。
つまり、初期で覚えている宝箱を除いて、合計3形態を取れる、ということでしょう。これは面白そうですね。
まず、絶対に必須なのはヒトガタでしょう。
移動速度や行為が合致しなければパーティは烏合の衆となり果てます。まさか、ずっと宝箱を抱えてアトリを歩かせられませんからね。
自力で移動できる手段は必要です。
ヒトガタが取れれば行動の手段も増えますしね。
『――』
そうしてミミックのシヲがヒトガタを取りました。
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