第16話 エルフランドへの招待

▽第十六話 エルフランドへの招待

 瞬く間に五十を超える蟻を殲滅しました。

 ですが、私たちが討伐したのはポーン・アント。チェスの駒でいう最弱の敵(ポーンを重視しない差し手は弱いですが)でした。

 雑魚の集団を退け、ようやく第一ラウンド終了です。


『ぎちぎちぎち』

「アトリ、ここからは被弾必至です。刃の交換を」


 こくり、と頷いたアトリが【奪命刃】を起動します。

 HPドレイン効果を持つ刃に換装しました。走り出します。


 ルーク・アントが口から酸を吐き出してきます。いわゆるギ酸という奴でしょうが、命中すれば確実に肉を溶かされまず。

 グロは嫌いなので防ぎましょう。


「【クリエイト・ダーク】! モード・シールド! 突っ込みなさい、アトリ」


 酸の雨を闇盾で防ぎます。

 一瞬の間隙を潜り抜け、アトリが十数匹いる狙撃蟻部隊に突撃しました。巫女の【神楽】スキルで強化した体術で、アトリは踊るように鎌を振るいます。

 五秒で十キルです。


 しかし、狙撃を最優先で刈るため、アトリはそれ以外の攻撃を躱しませんでした。肌にいくつもの傷が刻まれますが、即座にリジェネ系で回復してしまいます。

 群がってくる敵に対し、回転するように鎌で周囲を攻撃します。防御力に秀でた蟻に対し、【死導刃ししるべば】を発動していないアトリでは火力が足りません。首を狙わねばならないからです。

 

 ですが、今のアトリは強くなっております。


「アトリ、新技です」

「光魔法――【シャイニング・バースト】」


 アトリの肉体を一瞬、ボンヤリとした光が覆います。されど、その光はアトリを中心に凝縮し、次の瞬間――解放されるように弾けました。


 光属性の範囲攻撃。

 シャイニング・バースト。

 自身を中心に五メートルほどの円を、光で薙ぎ払う攻撃魔法です。この攻撃は光属性にしては火力が高いのですが、それは「近距離でしか使えない」魔法だからです。


 攻撃魔法は後衛の仕事ですからね。

 デメリットの分、火力や範囲に優れます。

 他魔法の単発魔法に匹敵する威力の範囲攻撃ですよ。

 ですが、幸いながらアトリは近距離が領分で、しかも攻撃力よりも魔法攻撃力が高かったりします。


 つまり、この魔法をアトリはノーデメリットで使えるのですよね。

 跡形もなく、敵の集団を消し去りました。周囲にはアトリを中心にした、小規模のクレーターが形成されるほどです。


「さあ、他は?」


 私たちの前に巨大な蟻が立ちはだかります。今までのカバサイズではなく、まるで一軒家を相手にしたかのような、巨体。

 鑑定によれば――クイーン・アント。

 明らかにこの群れで最強の蟻でしょう。


 足の一本一本がメートル単位の長槍です。口から滴るのはギ酸で、噛み付かれればあらゆる意味でタダでは済まないでしょう。

 強敵ですね。

 クイーンが二本の足を振り下ろしてきます。地面を穿つ、ガトリングのような攻撃群。ステータス任せの攻撃ですが、かなり早く、厄介ですね。


 アトリは駆け回るようにして回避していきます。

 その舞のような動作に見惚れながらも、私は作戦を指示します。


「一撃で決めます」

「はい。ですっ! 【フラッシュ】!」

「&【クリエイト・ダーク】モード・スモーク」


 フラッシュと煙幕で視界を奪い、アトリは全力で跳躍しました。大鎌【死を満たす影】にスキル【死導刃】と【殺生刃】を付与し、さらには武器のスキルである【魂喰らい】で火力上昇を狙います。

 もはやアトリの鎌は鎌ではなく、巨大な闇そのもの。

 それを死神幼女が一切の呵責なく、振り払いました。狙う場所は当然の如く、敵の首。鎌スキルの【首狩り】と【弱点特攻】が乗った一撃は――、


 ――ドゴン、と爆撃のような轟音が炸裂します。


 巨体の蟻が、信じられないほどの耐久度があったはずのクイーンが。

 たったの一撃で大地に沈みます。


 華麗に着地したアトリは、唖然とする蟻の群れに襲いかかりました。すでに刃は【奪命刃】に変更しており、グングンと回復していきます。

 殲滅するまで三十分もかかりませんでしたね。


【ネロがレベルアップしました】

【ネロの闇魔法がレベルアップしました】

【ネロのクリエイト・ダークがレベルアップしました】

【ネロのダーク・オーラがレベルアップしました】

【ネロのHP自動回復がレベルアップしました】

【ネロのMP自動回復がレベルアップしました】

【ネロの鑑定がレベルアップしました】

【アトリがレベルアップしました】

【アトリの鎌術がレベルアップしました】

【アトリの農業スキルがレベルアップしました】

【アトリの光魔法がレベルアップしました】

【アトリの孤独耐性がレベルアップしました】

【アトリの神楽がレベルアップしました】


 良い感じです。


       ▽

 決着後、私たちは【死を満たす影】に蟻素材を与えて育成していました。かなり大量だったので、武器のレベルも良い感じに上昇していきます。

 この敵、本当はパーティで戦う相手なのでしょうけど。

 アトリの耐久力と瞬間火力の前には、有象無象でしかありませんでしたね。現状、私たちは不本意ながらもゲームの最前線組です。


 これくらいは当然なのかもしれませんね。


「しかし、素材を持ち帰らなくて良いのは便利ですが……」


 大鎌【死を満たす影】は素材のロスを完全に防いでくれます。ですが、私はあくまでも「換金」が目的でゲームを遊んでいます。

 素材を持ち帰れない、というのは難点ですよね。

 無駄にするよりは良いのですが……

 私がこまめにログアウトして素材を換金すればよろしいのですが、それではアトリが寂しがってしまいます。NPCが寂しがることなんて気にするな、という声もあるでしょうが、ちょっと寂しそうな顔がリアルすぎましてね……


「アトリ、相談があるのですが」

「? かみさまの思った通りにしてほしい。ですっ!」

「信頼が厚すぎますね。解りました、では【アイテムボックス】のスキルを覚えましょうか」


 スキル【アイテムボックス】は重要なスキルです。

 最初は10枠。

 以降はレベルが上昇するにつれて1つずつ枠が増えていきます。最終的には110の持ち物を持てるようになるわけです。


 便利スキルではあります。

 が、これで一枠を潰すのは弱くなりかねません。当然ですけれども、自分で荷物を持ってスキルを攻撃や補助に回したほうが強くなれるわけですから。


「プレイヤーによってはNPCを雇って荷物持ちさせていたりするそうで。……まあ、しょうがないでしょう。便利が一番です」

「です」

「それにしても、私のスキル構成は『アトリが前提』すぎますね……」


 させるつもりはありませんが、アトリがロストしたら困っちゃいます。

 私は素材の一部をアイテムボックスに収納していきます。討伐よりも後片付けのほうが時間を必要としました。


 リアルではありますが、面倒くささが勝ちますね。

 アトリと雑談をしているので暇とはなりませんけれども。そうこうしているうち、回収が終わって歩き出そうとしたところ、頭上から声を掛けられました。


「待て。そこの精霊と女児」

「……む。だれ? あと精霊ではなく、神」

「神? ……ともかく、貴様ら見ない顔だ。どこから来た?」

「知らない」


 そうなのです。

 アトリは自分の住む国の名はおろか、村の名前まで最後まで知りませんでした。教えてくれる人が居なかった、というよりも田舎すぎて知る意味がなかったのでしょう。


 怪訝な顔をする声の主。

 改めて観察しますに、男はエルフのようでした。かなりの美形。黄金の髪はまるで輝きを帯びているようで、少し動く度に粒子が舞うようです。

 警戒した様子で弓を構え、私たちに向けております。


「我々は人類王国アルビュートから来ました、と言いなさい」

「われわれはじんるいおうこくあるびゅとからきました」

「……アルビュート! やはり、貴女たちはヘルムートを倒した勇者か! 忌まわしいヘルムートめ。貴女たちが討伐してくださったから時空凍結が解除されたわけか」


 どうやらゲームの設定が語られているようです。

 私たちがリスポーンした第一フィールドの名は、人類王国アルビュートと言います。多様な人類種が共存する国、という感じでした。


 そこは人類最後の土地と言われており、他の場所は魔王軍に滅ぼされたのだそう。

 しかし、国が滅ぶ直前、女神が「時空凍結」を使って人々を守ったのでした。凍結された人物たちは別次元で凍結され、数百年間、安全に守られていたとのことです。


 それが第二フィールドに限り解放されたのです。


 エルフさんが語ります。


「エルフランドに魔王軍が押し寄せてきた瞬間、我らは女神の力で凍結された。あれから体感では一瞬だが、俺たちは確実に滅ぼされた。実際、このエルフランドは滅びてしまい、魔物が巣くう温床となり果てた」

「えるふらんど?」

「そう。この大森林こそがエルフが住まう国そのもの。ようこそ森林国家エルフランドへ、解放者たちよ」


 ついてこい、とエルフが呟き、木々を蹴って移動します。

 アトリは私を見つめて首を傾げましたが、せっかくのクエストですから。ここは大人しく従っておきましょう。


 アトリも慣れたように樹を蹴り、木々を移ろって高速移動します。かっこいいですね。




―――――――――

 前日の告知を夜遅くに追加したので、ここにも追記します。

 このお話は毎日20時を目安に毎日投稿しようと思っています。

 20時のお楽しみのひとつにしてくだされば幸いです。

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