第2章 第二フィールド【エルフランド】編

第14話 フィールド・ボス討伐の報酬

▽第1話 フィールド・ボス討伐の報酬

 ログアウトした私は、過去最大速度でスマートフォンを手にします。口座を確認してみれば、本当に一千万円が振り込まれているではありませんか!


 どうやら《スゴ》とは神ゲーだったようです。


 うふふ。

 私は喜びのあまりスマートフォンを掲げ、その場でクルクルと回転します。途中、テーブルに足をぶつけて膝を屈しましたが、気分は最高でした。


「今でしたら、何でも可能な気がしますね!」


 生涯最高のテンションで踊り狂っていますと、スマートフォンに通知。

 大量の。


【かみさま?】

【かみさま? どうした。です……か?】

【かみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさま】


 おっと。

 どうやらいきなりログアウトしてしまったので、アトリに心配をかけてしまったようですね。申し訳ない。

 いくらアトリがNPCといえども、大事なパートナーなのです。


 慮らねばなりませんよね。

 このお金はアトリにも良いように使わねばなりません。これからも良好な関係を保つためにも、winwinを続けていきたいところです。


 スマートフォンを丁重に机に置き、ログインしました。

 ニヤニヤが止まりません。


       ▽

「さてアトリ。戦果を色々と見る……前に第二フィールドに入っちゃいましょうか? あちらで別の契約者パーティが見ています。情報は秘匿せねば」

「うん、ですっ! 神様」


 とてとて走り出すアトリ。

 私を胸に抱えているために速度は控えめです。ゆったりと景色を堪能しながらも、私たちは噴水を越えて森林に辿り着きました。


「すごいですねえ」

「大きい樹。です……かみさま」


 視界すべてが樹です。しかも、その樹の高さは天を貫く槍のよう。一本一本が数百メートルはありそうでした。

 スケールが違いすぎです。

 樹に巣くう虫の一匹一匹にしても、もはや象とかレベルの巨大さでした。


 第一フィールドから見えなかったことが不思議でしょうがありません。


「ちょっと鑑定してみましょうか?」


 近くにいたカブトムシ(象サイズ)を鑑定してみます。


名前【不明】 性別【不明】

 レベル【45】 種族【ミニ・グラースプ】

 魔法【樹属性】

 生産【樹液】

 ソレ以外はスキルもステータスも不明である。あまりにもレベル差があるためだ。


 ……こわ。

 一旦、引き返すのも手ではありますが。


「かみさま?」

「……まあ、この辺りで確認作業をしましょう。その後は戻ってレベル上げしましょうか」

「はい! 神様!」


 笑顔が眩しいですね。

 今更、レベルが足りていないので帰りましょう、とは言えません。だって神は間違えない、とアトリは心の底から思っていそうですからね。


 周囲を警戒しながら、報酬の確認を始めます。まずはアトリの固有スキルから。


 固有スキル【殺生刃】

 己が生命力を削り、刃の殺す力を増幅するスキル。狂った者が担う、罪の刃。鎌スキルの【犠命刃】と似て非なる上位アーツ。


「……良いですね。アトリには【奪命刃】や【リジェネ】【HP自動回復】、私によるHP補正があるので上手く噛み合っています。力逆補正も誤魔化せそうです」

「これがかみさまがくれた力。ですか……うれしい、です」

「あ、ええ。そうですよ、アトリ。貴女は頑張りました。あまり依怙贔屓してはいけませんが、それに見合う報酬を見繕いましたよ」

「ほうしゅう……」


 アトリが顔を真っ赤にし、眦から涙を一筋だけ流しました。

 まあ、アトリは今までどれだけ頑張っても、報酬どころか労いの言葉も掛けられたことがなかったことでしょう。


 私の功績ではありませんが、本当の神様は良い仕事をしました。


「少しだけ試してみましょうか。アトリ、まずは普通に樹を斬ってみてください。その後、体力の三分の一くらいでいきましょう」

「ですっ!」


 アトリは大鎌を低く構えて、フラフープを回転させるように斬撃を放ちます。刃は樹に突き刺さりました。

 引き抜き、今度は【殺生刃】のアーツを鎌に使います。


「ふっ! ですっ!」


 アトリの鎌が直径だけで数メートルある樹の、半ばまでを断ちました。これは想像以上の攻撃力補正です。

 消費した分、攻撃の威力がそのまま増えている感じです。


「すごい。ですっ、かみさま! ありがとうございます」

「危険な技ではあります。気を遣って使うように」


 恭しく頷くアトリを尻目に、次の報酬を確認します。

 といっても、その報酬は現在、地面に放置されていますが。それはヘルムートが振り回していた、巨大な大鎌でした。


 少しだけアトリには大きすぎます。


「鑑定してみますか」


 大鎌【死を満たす影】 レア度【ユニーク】

 レベル【1】

 攻撃力【50】 耐久【100】

 スキル【復元】【魂喰らい】

 魔王軍四天王【悠久自在のヘルムート】の依り代の欠片から生まれし大鎌。命を喰らうことによって、己が姿を自在に変貌させ、持ち主の命さえも喰らい悠久に存在し続ける武器。

 レア度【ユニーク】により、成長することが可能。


 スキル【復元】

 装備者のHPを犠牲に耐久を復元する。完全破壊されても再生可能。


 スキル【魂喰らい】

 この大鎌によって殺害した生物の魂を回収する。魂を使用することによって威力の上昇、HPの回復、MPの回復、防御結界の起動が可能。効果は魂の数に依存する。


「これまた強力な大鎌ですね。問題は大きすぎることですけど」

「持ってみる。ですっ」

「ですね。持ってみないことには解りません」


 アトリが大鎌を持ち上げ、どうにか構えて見せます。しかし、あまりにも不格好ですし、振り回すことも難しそうですね。

 これはどうしたものでしょう。


 と、アトリと私が頭を抱えた瞬間。

 僅かに警戒が緩んだことを察知したのでしょう。あのオオカブト虫が弾丸のような速度で突撃してきているではありませんか。


「アトリ! 使いなさい!」

「っ! 【殺生刃】!」


 消費するのはHPの80パーセントです。

 禍々しい漆黒のオーラが【死を満たす影】を覆います。まるでジャイアントスイング(人の足を掴んで振り回す技です)のように大鎌を振り回します。

 接近するオオカブト虫。


 バッター、振りかぶって、投げたっ!

 打った! ぐちゃぐぢゃ、ぐちゃぐちゃっ、ホームランっ!


 アトリはカブトムシの返り血(緑の液体です)を全身に浴びながら、気持ちよさそうにポージングをしています。

 ホームランは気持ち良いですよね。


「アトリ、【殺生刃】はどうでしたか? 痛くはないですか?」

「痛い、です。でも我慢できる。ですっ!」

「やはり痛みはありますか……使用は最低限、といったところでしょうかね」


 使わずに死ぬくらいなら使い倒してほしいです。

 アトリが躊躇うようには思えませんけれどもね。


 ただし、さすがに超火力に耐えきれなかったようで、アトリの【死を満たす影】が粉々に砕け散ってしまいます。

 すかさずアトリは【復元】を使いました。


 アトリのHPを奪い取り、大鎌が再生しましたが……サイズが良い感じになっています。アトリに合わせた形、サイズ、重量に生まれ変わったかのようですね。

 アトリは満足そうに鎌を振り回します。

 ぶんぶん、と目で追えない速度ですね。


「アトリ、魂喰らいはどうです?」

「やってみる。ですっ、神様!」


 アトリが大鎌でカブトムシの死骸に触れました。すると、ぐちゃぐちゃの死体が消滅し、鎌に吸い込まれていきます。


大鎌【死を満たす影】 レア度【ユニーク】

 レベル【2】 ライフストック【1】

 攻撃力【55】 耐久【230】

 スキル【復元】【魂喰らい】


 成長しています。

 どうやら【死を満たす影】は素材を利用してレベルを上げる仕様らしいです。また、魂の回収はライフストック、というのでやりくりするみたいですね。

 耐久力は、再生時にアトリから奪った数値がそのままのようです。


「固有スキル、武器の検証は良いでしょう。次は称号関係ですかね」

 ただ。

「今日はボス戦を数時間も繰り広げました。アトリも疲労したでしょう。一旦、第一フィールドに帰還して休みましょうか」


 アトリが頷きます。


「私はログアウト……しばらく戻りますね」


 アトリが悲しそうな顔で頷きます。


「……とはいえ、あと数時間は一緒にいましょうかね」

「っ! はいです、神様っ! ずっと、です」

「ずっとではないですけども」


 私たちは第一フィールドに戻りました。

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