ロビンを排除するなら、ちょうどいいよね

「このルドルフ=フェルスト=バルディック、シーラ嬢の依頼をお受けしましょう」


 キョトン、とするシーラに、僕は微笑みを浮かべながらお辞儀をしてみせた。


「そ、その、それは……」

「申し上げたとおりです。アンデション家がどのようなものをご提示いただくかはともかく、協力させていただきますよ」


 まさか、最大限の条件を袖にされた後に、こんな返され方をするとは思っていなかったんだろう。シーラは、目を白黒させている。


「ど、どうしてですか? 殿下は先程、協力するかどうかは、こちらの提示する条件によると……」

「気が変わりました。ロビンを排除することが目的なら、僕としても断る理由がありませんので」


 リズが婚約者として皇宮で暮らすようになって以降、ロビンの奴は、あろうことか僕のリズ・・・・を好きになり、勝手なことばかり言ったんだ。


 リズの気持ちなんか、全部無視して、一方的に。


 元々、ロビンの奴をどうやって排除しようか考えていたところだし、シーラの依頼は渡りに船だったということだ。

 これでアイツを退場させられるのだから、乗らない手はないよね。


「そういうことですので、今後の具体的な打ち合わせなどについては、今日のような会食形式にして、定期的に行うことにしましょう」

「は、はい。それは私としても大変助かります」


 よし、交渉成立。

 アンデション家が僕に提示するものも気になるところだけど、どうでもいいや。


「それより、僕のせいで話を長引かせてしまいましたね。ここからは、純粋に夕食を楽しむことにしましょう」


 僕は果実水の注がれたグラスを掲げると、満足げに頷いた。


 ◇


「今日の夕食は、とても楽しかったです!」


 食事を終え、の顔に戻ったシーラが、あざとく笑顔を振りまく。

 いや、僕には意味がないんだから、別に素のままでよかったのに。


「では、次の夕食会は二週間後ということでいいですか? アンデション家も、皇室とやり取りをする時間も必要でしょうし」

「えへへ……ありがとうございます、ルドルフ殿下!」

「っ!?」


 シーラが、突然僕の腕にしがみついただって!?

 しかも、このふにゅん、という感触は……っ。


「……シーラさん、今すぐルディ様から離れなさい」

「はーい……」


 リズの恐ろしく低い声に、シーラは頬を膨らませ、渋々離れる。


 その時。


「……本当は、ロビン殿下があんなことになった原因のリズベット様への意趣返しとして、ルドルフ殿下を奪おうとも考えたんですけどね」

「なっ!?」

「えへへ」


 コ、コイツ……。


「では、これで失礼します!」


 シーラは睨む僕を無視してカーテシーをすると、部屋を出て行った。


「ルディ様……本当に、お受けになられてもよかったのですか?」

「もちろんです。上手くすれば、ここでロビンを排除することができますからね」


 アクアマリンの瞳で見つめるリズに、僕は笑顔で答える。


「ですが、私はどうにもあのシーラさんが信用できません」

「はい、僕もそう思います」

「なら、どうして……」

「決まっています。ここで、ロビンに消えてもらいたいからです」


 僕は、真剣な表情でリズに告げた。

 全ては、リズとの平穏な日々のために。


「いずれにせよ、遅かれ早かれロビンについては排除しようと考えていました。今回は、たまたま良い機会が訪れたということです」

「それでも、もう少し様子を見てもよかったと思います……」


 僕の決定を尊重してくれても、リズが納得できるかどうかは別の話だよね。


「正直に言います。僕は、今までずっと我慢してきたんです。ロビンが君を見るたびに、手紙を送ってくるたびに、君に強引に話しかけようとするたびに、あの男を斬り刻んでやりたかった」


 これは、僕の偽らざる本音。

 リズのことを嫉妬深いとか、独占欲が強いとか言っているけど、僕だって彼女に負けちゃいない。


 僕は、リズの視界に他の男が入るだけで、許せないんだ。

 もちろん、男の視界にリズが入ることも許せない。


「ふふ……仕方のない御方ですね」


 僕の腕にそっと寄り添い、リズは苦笑する。

 でも、僕を見つめるその瞳は、どこか熱を帯びていた。


「そうです。僕はこんなにも我儘わがままで、独占欲が強いんです。ですから、少々やり過ぎてしまうことがあっても許してください」

「はい……ですが」


 寄り添う僕の腕に、彼女もまた、その細い腕を絡めてきた。


「私だって、独占欲が強くて嫉妬深いんです。だから、シーラさんがあなた様の腕に抱きついた時は、槍で貫いてあげようかと思いました」

「あははっ」


 ちろ、と悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべるリズに、僕は声を出して笑っ……ってえ!?


「もちろん、ルディ様も他の女にうつつを抜かしてはいけませんよ?」

「あ、あははー……」


 打って変わって口の端を吊り上げるリズに締め上げられ、僕の腕の骨が悲鳴を上げる。

 僕は脂汗を流し、苦笑いを浮かべるのが精一杯だった。

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