【11/25書籍第1巻発売!】ただの村人の僕が、三百年前の暴君皇子に転生してしまいました ~前世の知識で暗殺フラグを回避して、穏やかに生き残ります!~
この世界に、二人もいらない② ※ヴィルヘルム=フォン=スヴァリエ視点
この世界に、二人もいらない② ※ヴィルヘルム=フォン=スヴァリエ視点
■ヴィルヘルム=フォン=スヴァリエ視点
その後、俺は女の子が誰なのかを知った。
女の子はバルディック帝国の武を支える名門、ファールクランツ侯爵家の令嬢でリズベットという名前らしい。
まあ、ファールクランツ侯爵にまで媚び
彼女は父親である公爵に叱られている最中もどこかうわの空で、時折何かを思い出しては頬を赤らめ、口元を緩めるなどしていた。
どうやら、リズベットはあの暴行を受けていた男の子を好きになったようだ。
その事実もまた、俺の心をざわつかせる。
「ヴィルヘルム、行くぞ」
「……はい」
ファールクランツ侯爵との会話を終えたヨーランは、パトリックと俺を連れて皇宮を後にした。
その帰り……俺は、こう思ったのだ。
――あの二人の関係を、壊してやりたい、と。
とはいえ、この時の俺はまだ五歳でしかなく、何の権力も自由も与えられてはいない。
それどころか、ただでさえヨーランに
だが、俺の中にはあの二人に対する黒の感情だけが渦巻き、月日が経つにつれてそれが大きくなっていった。
どうしてあの二人に、そんな感情が芽生えたのかは分からない。
ただ俺は、あの二人……いや、男の子に、憎しみを覚えてしまったのだ。
だから俺は、
そして、その機会は
ヨーランに対し徹底して従順な
といっても、本当はパトリックの奴が参加予定だったのだが、
当然、俺はこのチャンスを逃すつもりはない。
リズベットの心の中からあの男の子の存在を消し去り、男の子と再会を果たした時には、恋心が敵意に変えてやるとしよう。
だから。
「ようやく逢えた。俺の運命の
俺は、彼女の前に立つなり、そう言い放ってやった。
するとどうだろう、リズベットはアクアマリンの瞳を大きく見開き、今にも泣き出しそうな表情を浮かべるじゃないか。
だが、リズベットも馬鹿ではなかった。
すぐに平静を取り戻し、どういうことかと尋ねるが、俺もここで引き下がるつもりはない。
「
続けて放ったこの言葉に、リズベットもようやく理解……いや、勘違いしたようだ。
この俺こそが、
それから、俺とリズベットの月に一度の逢瀬が始まった。
俺としては表立って会ってもよかったが、まだ成人も迎えていない貴族令嬢が、同い年の男と会うことを良しとはしないのも当然だ。
まあ、スヴァリエ家での俺の立ち位置をより良くするために、ヨーランにはリズベットとの関係については伝えたがな。
そのおかげで、ファールクランツ家との繋がりが欲しいあの男は、この俺を支援するようになった。
リズベットに会う度に高価なプレゼントを用意し、顔を合わせれば歯の浮いたような
緊張しているからなのか、あの誕生パーティーの時のようにリズベットは表情を変えることはなく、ただ淡々と俺に付き合っているだけだった。
そのアクアマリンの瞳は、まるで俺の心を見透かしているように。
まるでこの俺を、突き放すかのように。
この俺とあの男の子で、一体何が違うというのだ。
それが余計に、俺の心を掻きむしった。
ああ……そういえばリズベットは、
さすがに
だが……まさか、それが俺の嘘を見破る結果になるとは、思いもよらなかった。
結局、リズベットの使いの女から問われ、俺は苦し紛れに『ブローチ』と答えたのだ。
満足したその使いの女は、俺に絶縁状を手渡して去って行った。
その直後、スヴァリエ家の屋敷が火事となり、家財の多くを失ってしまった。
おそらくは、あの使いの女がしでかしたことだろう。
つまり俺は、リズベットから騙したことへの報復を受けたのだ。
◇
「……そして、あのルドルフとリズベットは、晴れて結ばれた、か……」
パトリックを入れた棺が土の中に埋められる中、俺はポツリ、と呟いた。
長男がこうなった以上、家督を継ぐのは俺しかいない。
いかにヨーランが、この俺を
そう……俺は、このスヴァリエ家の全てを手中に収めることになる。
それも、
そうなれば、俺は“
あの男に恋い焦がれるリズベットと同様に、ルドルフもまたリズベットに焦がれている。
そんなアイツからリズベットを奪えばどうなる? ひょっとしたら、心が壊れてしまうかもしれないな。
リズベットを奪われた、俺のように。
「フフ……楽しみだな」
あの男は……まさしく
だからこそ。
――俺という存在は、この世界に二人もいらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます