第17話

 玉越たま子は冷静に考えた。トラコが人間の姿に変わったのは事実として受け入れる。その上で本当に、その原因があの胡散臭い媚薬だとも限らない。実際に試してみる必要がある。


 たま子は自分の部屋の冷蔵庫に例の媚薬を保管して、更に近所で見つけた野良猫を部屋に住まわせた。猫を飼うつもりはなかったが、トラコに懐かれたことで猫愛が爆発していた。ペットショップでわざわざ購入するのは違うと思い、近所の野良猫を拾ったのだった。


 仮に人間に変身するとして男を連れ込むわけにはいかなかったので、ターゲットをメス猫に絞っていた。


『みゃあーあ』

「ごめんよ、気ままな野良生活が良かったかい?」

『にゃおおん』

「そうだ、君に名前をつけなきゃね」

『みゃおん』


 たま子はしばらくの間、その猫を眺めていた。


「よし、君は今日から『しらたま』だ。白いからね」

『にゃーん』


 やはり猫を名付けるときは誰もが安直になってしまうらしい。白猫にしらたまと名付けると、たま子は早速、しらたまをベッドに連れ込んだ。



 翌朝、たま子が目を覚ました時に、しらたまは猫の姿のままだった。


「まぁ、そうだよな。フツー人間になんてならないよね。安心してしらたま、君は私が責任を持って育てていくからね」


 それから一週間が経っても、しらたまは猫の姿のまま人間に変わることはなかった。


 たま子はふと思った。

 もしかしたら、あの根古田博士のボロアパートに何か秘密があるのではないか?

 だとすれば、ここでしらたまと暮らしていてもしらたまが人間の姿になることはないかもしれない。一度、しらたまをあの部屋に連れて行ってみよう。トラコに話を聞きたいし、トラコを撫で撫でしたいし、しらたまの遊び相手にもなってもらいたいし。


 たま子は単純にトラコに会いたくなっていた。

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