第67話 天空へ

 用意された布とロープで作ったのは、上昇気流を捕まえるための大きな凧のような物。風が一番強く上空まで噴き上げる地点まで、妖術で宙に浮く西寧を悠羽が運び、風を捕まえて上昇した所を、その勢いを殺さないで一気に壮羽が上空で捕まえて、そのままの勢いを利用して朱雀の国まで押し上げるのが、今回の作戦。


 風を捕まえ損なったり、バランスを崩せば、作戦は失敗して、西寧は上空から真っ逆さまに地面に叩きつけられるだろう。


「いいですか? 私が危険と判断した瞬間に作戦は中止しますからね!! 兄上も、心して見ておいて、西寧様が落ちて来られたら、捕まえて下さいね!!」


 壮羽が念をおす。


「まあ、気楽に……」

西寧が笑えば、壮羽は睨む。


「さっきからずっと胃が痛いんです! こんな危険なことをあなたにさせずとも、他の方法だって……!」


「壮羽、そう主君の命を無視するのは良くない。……時に壮羽? もし西寧王がここで事故死したならば、里に帰る予定は?」

悠羽が軽い調子てそんなことを言う。


「なるほど。そう言うこともあるか。そういう場合は、青虎の国の常盤達に知らせをだな……」

西寧も軽く返す。


「なんですか! その冗談は! そんなの全く笑えません!」

壮羽が一人イライラしている。


 それでも、作戦は実行される。

 西寧が、そこで怯むわけがない。


 高く切り立った崖の上。壮羽が天高く飛び、想定される高さまで昇れば、悠羽が西寧を運んでくれる。

 一番気流を捕まえられる場所まで。


「西寧王、弟を、壮羽をよろしく頼む」


 悠羽は、そう言って、西寧を下から吹き上げる気流の中で離した。

 

 しっかりロープに結びつけられた布は、気流をはらんで大きく広がる。

 昇り龍のように荒々しく天空を目指す気流は、妖力で自分の体重を失くした西寧を簡単に上空へと押し上げていく。想定していたよりも凄まじいスピードで西寧は高く上がっていく。


 眼下では、烏天狗の子ども達が面白がって西寧に声援を送ってくれている。

 何羽かの子どもが、西寧を真似て上昇気流を羽で捕まえて遊んでいる。


「西寧様! 行きますよ!」


 昇ってきた西寧を壮羽が抱きしめて、さらに上昇気流の勢いままに高みを目指す。

もうただの邪魔者と化した凧はさっさと捨てて、壮羽の羽の勢いで朱雀の国を目指す。


 グングン上空へ壮羽は昇るが、朱雀の国はまだ距離がある。


 ……あと少し!


 妖力切れ始めた西寧の体が重くなってくる。


 ……あと少し!

 

 ほんの少し上の雲の上に、朱雀の国の門が見え始める。金の雲の上。朱塗りの門が目に入る。西寧は、必死で妖力を保とうと集中する。


 ……あと少し!


 後指一本分の高さを昇れば雲をつかめる所まで来て、壮羽が減速する。


 クッ! 


 壮羽が西寧を上へと投げる。

 投げられた西寧は、門の前の金の雲の上に転がる。

 慌てて雲の縁から壮羽を見れば、妖力が切れて羽が止まっている。


「そ、壮羽!」


 こんな馬鹿な話はない。翼のない自分だけが朱雀の国へ昇り、押し上げてくれた壮羽がこんな上空から落下するだなんて。

 悠羽が壮羽に気づいてくれたとして、地上に場所では、きっと受け止めることも出来ないで壮羽は地面に叩きつけられてしまう。


 それならばいっそ、壮羽と一緒に!


 西寧が飛び降りようとしたところに、服を掴まれて後ろへ転がされてしまう。


「馬鹿な真似はするな! 虎精!」


 後ろから来た赤い影が、あっという間に壮羽を捕まえてくれる。


「面白い物を見せてもらった! この朱雀! お前達を歓迎しよう!」


 壮羽を抱き上げて朱雀が上機嫌で笑っている。

 赤い大きな翼は、壮羽を抱き上げても悠々と風を捕えて羽ばたいている。

 朱雀の腕の中の壮羽は、妖力が切れかけて身動きが取れていない。


「しかし、これが悠羽の弟か! 可愛いのう!」


 壮羽を気に入ったようで、朱雀がスリスリと壮羽に頬ずりをする。


 返してくれるだろうか?


 あまりの朱雀の気に入りように、西寧は一抹の不安を覚えた。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る