「嫌い」はとっても痛い感情
ここからなんだけどね。
一ヶ月くらいかな?
そのくらい経った時にさ。呼び出されたの
違うクラスの女の子。
入山(いりやま)さん。お嬢様っぽい感じですっごい綺麗だった子に呼び出されたの。
あまり良い予感はしなかった。
その子はわたしに向かって笑うことは一切無くて、何人かの前で問い詰められたの。
「ねぇ?翔とどういう関係なの?」
キッとした目で睨まれた。
そしたら多分入山さんの友達だろうね、そう言ったら囲むようにわたしの周りに立った。
どう言ったらいいんだろう。
難しかった。
「なんで黙ってるの?」
詰めるように、わたしの目を覗き込んだ
怖くて、目を逸らした。
ただこのまま黙ってても相手をイライラさせるだけだろうし、素直に答えることにしたの
「つ、付き合ってる…けど」
入山さんは目を丸くしてた。
はっきりと驚いたって顔をして見せたの
それで、その言葉を聞いた入山さんがまたわたしにゆっくりと包丁で心を刺すようにわたしに言ったの。
「翔は、私と付き合ってるんだけど」
目が怖かった。はっきりと威圧された。
「どういうこと?」
言葉の圧が強すぎる
ただ後ろには入山さんの友達が通せんぼしてるから逃げられない
「どういうことって言われても…」
「私は半年、翔と付き合ってるの。最近なんか遊ぼうって言ってもそっけないしなんかおかしいと思ったら、あなただったんだ」
理解はできたけど受け入れられなかった。
どういうことかわかるけどなんでなのか分からなかった。
ただわかったことは二股をかけられてたっていう事実だけ。
わたしを詰めても埒が明かないと思ったからかな
入山さんはそのまま友達を使って翔くんを呼ぶと
翔くんを問い詰めた。
するとさ、すると、すっごいビックリしたんだけど
「か、片桐に好きって言われたから!正直、可哀想で…」
ビックリしたよ。本当に
弟の漫画で見た汚い言葉がそのまま出そうになるくらい
そんな話、普通に信じるわけないと思うでしょ?
彼女いるの知らなかったけど、そんなこと言ったってわたしは特定の人だけに優しくすることなんてないもの。
入山さんもわかってくれると思った。
だけどね、そんな上手くいかないんだよね
「片桐さんって、小学校の頃からだよね」
「え?」
後ろにいた入山さんの友達が今度は話し始めたの
「片桐さんとは小学校一緒だけどさ、いっつも誰彼構わず好きって言ってたじゃん」
もう、何を言ってもきっと無駄だ。
それはわかったよ。
「好きって言って勘違いさせてたんでしょ?」
「そうなんだ。沙彩(さあや)、ごめん。黙ってたのは謝るからさ!」
沙彩ってのは入山さんの下の名前。
そう言って翔くんはわたしに何もいうことなく、二人でどっか言っちゃった
「あんまり調子乗るなよ」
他の友達はその後にわたしに悪口を言ってどっか行っちゃった
やっぱりさ、傲慢だったのかなって少し思っちゃった。
よく考えたら自分が好きって言われて幸せだって気持ちを人に押し付けてるだけだったんだよ。
ただね、翔くんから好きって言われた気持ちは本当だったって信じたかった。
だから、聞いたんだよ
「あの時、わたしに好きって言ったのかは本当だったの?」って
もし本当なら、仕方ないのかなって。
でも流石に二股はよくないことだってわかってるからさ、聞きたかった。
最初は何度かはぐらかされた。
でもね、本心を聞きたかったから、何度も聞きにいった。
それで返ってきた答えは…
「好き好きってずっとさ、言葉に意味ある?」
そうやって気だるそうに答えられた
「はー、正直、こんなめんどくさいと思わなかったなぁ。可愛くて、なおかつ鉄壁って話題だからアタックしてみたけど、案外ちょろいんだね。片桐ってさ」
正直、意味がわからなかった。
「じゃあ好きじゃないの?わたしのこと」
「あー…まぁそうなるかな。今は沙彩いるし。てかまぁ付き合ってる時からいたけど。」
そっちから付き合って欲しいって何度も迫ったのに、好きだって何度も言ったのに
わたしの好意をさ、「好き」っていう気持ちをさ、踏みにじられた気がした
最初で躓いちゃったんだよ、わたし。
「いやまぁ、正直沙彩が粘着質でめんどくさいから乗り換えようって感じだったんだけどさ。悠里みたいな八方美人なタイプよりマシだしもう終わりにしようか、なにもなかったってことで」
そうあっけらかんとする翔くんをわたしは理解できなかった。
「好き」ってなんなのかわからなくなっちゃった。
「好き」って言われて幸せで、でもそれが嘘だったのか本当だったのかわからなくて
頭が一杯一杯になっちゃった
「いやぁでも、鉄壁だったのに本当になんにも知らない片桐は面白かったよ」
「な、なんで」
「ん?」
「なんで、入山さんって彼女がいるのにわたしに声をかけたの。わたしに好きって言ったの?」
本当に初めてだったかな。
あの時、初めて人に怒った。
本当に腹が立って、なんとも思わない翔くんに腹が立った。
土足で、踏み荒らされた気分だった。
わたしの大切な気持ちをぐちゃぐちゃにして元に戻せなくされた気がしたの。
「なんでって言われてもなぁ、ガードの固い子って崩したくなるじゃん?」
半笑いでわたしの話を聞く翔くんはわたしのいうことなんてまるで興味なさげ、それをみてもっと腹立たしくなって。
どんどん口調を強めて言っちゃった
「二股ってさ、人としてまず良くないって、わかってるよね。わ、わたしはまだいいよ。でもさ、入山さんは?入山さんは傷ついてるかもしれないのに!なんでそんなことできるの!」
わたしの声は廊下に響き渡ったよ。あぁ久しぶりだったな大きな声を出すの。
ただイライラしたのはわたしだけじゃなかったみたいで
「いや悠里さ。人のこと言える?付き合ってる時も周りに色目使ってさ。好きって言わなきゃセーフだと思ってんの?」
そう言われた。
言い返せなかった。翔くんを特別扱いはしなかったから。
関係だけ特別なら良いと思ってたから。
でも色目なんて使ってない。わたしが変わってないだけなの。
ただそれは理解されないこと。
理解されないならどんな言い訳をしたって無駄なの。
だから、わたしが悪いんだ。
「考えれば分かるっしょ?俺だって傷ついてんだよ?自分だけいい思いしてさ。悠里がやってんのは自己満なの。気をつけた方がいいよ。八方美人は敵が多いから」
追い討ちでわたしの目を見て軽蔑した表情でそう言った。
なんでそんなことを言うんだろうって今度は怒りを超えた悲しみが来た。
色んなことを話して、翔くんにわたしの気持ちとか「好き」の幸せとか、いろいろと話したはずなのに。
翔くんはわたしの心を抉って刺すように、多分こういう言葉が一番効くってわかってて、わたしにそう言ったんだと思う。
そう言って翔くんは行っちゃった。
「好意は人を傷つけるんだよ」
彼が最後に言い残したのはその一言だったの。
頭が混乱する。心が締め付けられる。
たしかに、傷つけられた。
好きってなんだろうって思った。
わたしは、わたしが嫌いになりそうだった。
彼のわたしに対する「好き」が「嫌い」に変わったんだと思う。
それが分かったからきっと苦しくて辛くて痛かった。
今まで味わったことのない痛みが、わたしの胸を締め付けて、わたしの「好き」までを嫌いにしそうだった。
あれ、「好き」ってどういう気持ちだっけ
分かんなくなっちゃった
そっからあんまり人と話すことが得意じゃなくなっちゃった。トラウマというか、なんというか。
難しいよね。話すのって。気持ちを伝えるのってさ。
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